第3話
「よし、これで設定完了っと。それじゃあ早速訊いてみるか」
ChatGPTの設定を完了した俺は、早速AIに綾原との恋をどうしていけばいいのか訊いてみた。
『ヤンキーが恋をするにはどうしたらいい?』
ChatGPTにそう訊くと、間髪入れずに答えが返ってきた。
『ヤンキーが恋をするためには、以下のポイントを考えてみると良いでしょう。
1.相手を理解する
相手の気持ちや考えを理解する努力をすることが重要です。相手の趣味や好きなことに興味を持つことで、共通の話題を見つけることができます。
2. コミュニケーションを大切にする
恋愛においては、正直でオープンなコミュニケーションが不可欠です。自分を素直に表現し、相手の感情に敏感になることも大切です。
3. ギャップを活かす
ヤンキーならではの強さや優しさ、独自の魅力をアピールすることで、相手に新鮮な印象を与えることができます。
4. 小さな思いやり
日常の中での小さな思いやりや気遣いが、相手に対する大きな愛情の表現となります。相手を大切に思う気持ちを行動で示しましょう。
ヤンキーだからといって特別な方法が必要なわけではありません。基本的な恋愛の原則を守り、相手への敬意と誠意を持って接することが成功への鍵となるでしょう』
……え、ChatGPT有能すぎない?
有能すぎてちょっと恐怖すら覚えるんだけど。
仮に同じ質問を人間にしたとしても、こんなにまともな回答してくれる人間中々いない気がする。
何より最後の『ヤンキーだからと言って特別な方法が必要なわけではありません』という言葉に俺は心を掴まれた。
俺は小学生の時、同じクラスの美少女、楠森に告白をして『柄の悪い人間とは付き合えない』と見事に振られている。
そんな過去を持つ俺からの質問に対してChatGPT は俺がヤンキーであることを否定しなかったのだから、俺が心を掴まれるのも当然の話。
AIからの回答に感心した俺は思わず「……人間よりAIの方がよっぽど優しいな」と呟いていた。
AIの回答の中で一番最初にしなければならないのは『1.相手を理解する』という項目だろう。
俺は綾原のことが好きだが、綾原が俺のようなヤンキーと関わっていると悪評が立つ可能性があると考え関わらないようにしていたので、綾原のことを何も知らない。
『1.相手を理解する』という項目以外の項目は、ある程度綾原と仲を深めていることが前提なので、まずは綾原を理解し、多少なりとも関係性を深めてからでなければ行動を起こすことはできなさそうだ。
最初はAIに恋愛相談をするなんて俺は頭がおかしくなってしまったのではないだろうかと思っていた。
しかし、意外とまともな回答が返ってくるので、ここは大船に乗ったつもりでAIに言われた通り、綾原に興味を持ち、綾原の気持ちや考えを理解する努力をしてみよう。
綾原の趣味や好きなことが分かれば、会話のきっかけになるかもしれない。
◇◆
お昼休み、普段は教室を出て駐輪場の横でひっそりとお昼ご飯を食べる俺だが、綾原のことを理解するため今日は教室に残って弁当を食べながら、スマホの画面を見ているフリをしながら綾原たちの会話を盗み聞きしていた。
盗み聞きが良くないことだというのはわかっているが、今の俺には綾原を知るための術は盗み聞きしかない。
綾原は俺の右前の席に座っており、自分の席に座っているだけで自ずと綾原たちの会話が聞こえてくる。
座ってくるだけで情報収集ができるのだから、盗み聞きしない手は無いだろう。
綾原と一緒にご飯を食べているのは、綾原と仲の良い
古里は大人びており、自由でマイペースに生きている鈴村のお世話をしているような面倒見が良い女の子だ。
逆に鈴村はマイペースに生きすぎて、常に古里に迷惑をかけている。
そして綾原はというと、そんな二人の会話を聞いてタイミングよく相槌を打ちながら笑顔を振りまいている。
三人とも性格は全く違いそうなのに、上手くいっているのが不思議で仕方がない。
「昨日のドラマ見た? あんな感じのドロドロした恋愛ドラマ大好きなんだよね」
「えー、そんなドロドロした恋愛ドラマ見て何が楽しいの? 私はキュリプア見てる方がよっぽど楽しい!」
キュリプアとは女児向けのアニメで、高校生の俺たちが見るようなアニメではないが、子供っぽい鈴村なら見ていても違和感はない。
古里はドロドロした恋愛ドラマが好きと言っていたが、まあそれは大人っぽい古里通りのイメージ通りだな。
「そんな子供じみたアニメの何が面白いって言うのよ。キュリプアなんてそろそろ卒業しないといけないんじゃないの?」
「キュリプアは正義なんだよ! キュリプア見てない人間はみんな悪なんだよ! だからキャリプア卒業はしません!」
古里の意見に対して真っ向から対立していく鈴村。
キュリプアを否定されて憤る気持ちはわかるが、キュリプア見てない人はみんな悪は流石に言い過ぎだろう。
このまま対立が続けば収集がつかなくなりそうな状況だが、いったいどうなるのだろうか。
「ねっ、ねぇねぇ、私今『先生の転生』ってアニメにハマってるんだけど知らない?」
綾原は古里と鈴村が対立していた状況を収めるため、自分の好きなアニメの話を始めた。
古里と鈴村が争っていた状況を収めるため、キュリプアを全面否定するわけではなく、かといってキュリプアを肯定しているわけでもない別のアニメの話をするというのは中々に考えられた作戦だ。
というか今綾原が口にしたアニメの名前、流石に聞き捨てならなかったんだが俺の聞き間違いだっただろうか。
「えー、聞いたことないなー。ってかなっちってアニメ好きだっけ?」
なっちとは、綾原の名前である永奈が永奈っちになり、それが更に変化して『なっち』になったのだろう。
「うん。自分の趣味を二人に押し付けてもなーと思って言ってなかったんだけど、私結構アニメ見るんだよね。それで今期やってる『先生の転生』が面白すぎてさ。みんなと共有したいなと思って」
やはり綾原は『先生の転生』というアニメの名前を口にしている。
俺は昔からアニメが好きで、今季一番の人気作だと言われている『先生の転生』、略して『先転』に関しては毎週楽しみにしており、必ずリアタイでみなければ気が済まないほど愛している。
そんなアニメをまさか綾原も見ているとは思っていなかった。
てか今期とか言ってる時点で先生の転生だけが好きというわけではなく、アニメ全般が好きなのだというのがわかる。
綾原が先転好きだとわかったなら、俺がしなければならないのは先転を第一話から最新話まで復習すること。
そして俺も先転オタクであることを綾原に伝えることだろう。
となれば俺から綾原に話しかけなければならないな。
今は友達といるみたいだし流石に話しかけるのは難しいが、タイミングを伺ってまた声をかけることにしよう。
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