第2話
学校から帰宅してきた俺は、自室でスマホを操作しApp Store で『ChatGPT』と検索した。
そして検索結果の一番上に出てきたアプリを選択し、入手ボタンを押した。
これから恋愛をしようとしている俺がその指南役としてAIアプリを選ぶなんて、正常な判断ができているとは思えない。
それでも俺が恋愛の話を訊ける人なんていないし、頼るとなれば人間と同じように質問に答えてくれるAIしかない。
……それにしても俺が綾原と付き合おうとすることになるとは思ってなかったな。
綾原は学校一の美少女で、俺のような学校中から嫌われているヤンキーが付き合えるような人物ではない。
仮に俺がヤンキーではなかったとしても、綾原のような学校一の美少女から好きになってもらえるわけがないだろう。
そう考えて、これまで綾原と付き合おうとするのは諦めていた。
そう、俺は以前から綾原のことが好きなのである。
◇◆
「体育館の裏なんかに呼び出して何の用なの? 永愛君」
「ずっと前から好きでした。僕と付き合ってください!」
俺は小学校の卒業式の日、入学式で一目惚れをしてから卒業式の今日までずっと恋をしていた同級生の女の子、
告白をするのが卒業式まで遅れてしまったのは、ひとえに俺に勇気が無かったからである。
とはいえ楠森は親の都合で別の中学校に進学することが決まっており、卒業式という告白をする最後の機会を逃してしまえば、俺は今後二度と楠森に会えず告白をする機会はやってこないかもしれない。
そう思った俺は勇気を振り絞って楠森に告白をした。
「ごめんなさい。私永愛君みたいな柄の悪い人嫌いだから」
「えっ……?」
勇気を振り絞ってした告白に対するあまりにも予想外すぎる返答に、俺は思わず言葉を失いその場で硬直してしまう。
振られるかもしれないとは思っていたが、俺が『柄の悪い人間』という理由で振られるとは思っていなかった。
「それじゃ、さようなら」
「えっ、ちょっ、楠森⁉︎」
俺が引き留めようとしても楠森は振り返る素振りを見せず、俺の前から立ち去って行った。
俺は両親が元ヤンだったこともあり、小学生にしては口調も悪く、ツーブロックで襟足だけを伸ばしているヤンキーの典型的な髪型をしており、目付きも悪い。
それでも俺は所謂ヤンキーがしていそうな無免許でバイクに乗ったり、コンビニの前でたむろしたり、万引きをしたりという法律に反することや非人道的なことは絶対にしていない。
そのおかげで仲良くしている友達も多く、みんな俺のことは外見が怖いだけで中身は優しい人間だとわかってくれている。
だから楠森も俺が優しい人間だとわかってくれていると思っていた。
しかし、楠森は外見だけで俺のことを柄が悪いと判断し、付き合えないと言い放った。
俺のことをよく知らないくせに、知ろうともせず外見だけ見て柄の悪い人のことは好きになれないと言い放つなんてそれは流石に酷すぎるだろう。
そんなことを考えていると楠森のことを思いっきり罵倒したい気持ちにもなったが、正直なところ外見だけで柄が悪く見えてしまう俺にも問題はあるし、楠森に非は無い。
そう理解はしていても俺のことを外見だけで判断した楠森に対して苛立ちは止まらないし、告白に振られたことによるショックは計り知れず、俺はしばらくその場を動くことができなかった。
◆◇
中学生一年生になった俺は楠森を見返すべく、ヤンキーからごく普通の一般人になるため、髪型は頭髪検査通り前髪を眉毛より上にして、ツーブロック禁止なので刈り上げもやめ、それでいて髪が耳にかからないようなルール通りの髪型に変更し、ヤンキー口調をやめて誰に対しても敬語で話すように--。
なんてダッサイ人間にはなるはずもなく、髪型も短髪で襟足だけを伸ばし両サイドを刈り上げ、学ランは絶対にボタンを閉めず中にパーカーを来て、服装までヤンキーのそれに近づきヤンキー度合いは以前より増していた。
普通なら『絶対見返してやるからな!』なんて言いながらヤンキーをやめて、楠森に相応しい真面目な人間になろうとするのだろう。
それでも俺は楠森から自分がヤンキーであることを否定されたのが許せなかった。
ヤンキーである俺を否定するということは、俺の両親を否定することにもなる。
自分が否定されただけならまだしも、自分の家族を否定されたのは許せない。
だから俺は楠森の『柄の悪い人嫌いだから』という言葉を聞いて『なにくそ!』と頑張るのではなく、自分の道を貫き通すことにしたのだ。
まあ楠森は俺とは違う中学に進学したので、俺がヤンキーであることを貫いたところでそれが楠森に対する当てつけにはならないんだけど。
そして今日は中学に入学してから三回目の頭髪検査の日。
生活指導の先生が、俺の自分を貫いた髪型を見てため息を吐いた。
「はぁ……。もう三回目だぞ。前回も前々回もルール通りの髪型にしてこいって言ったよな?」
「俺は自分の好きな髪型にしてるだけなのでルール通りの髪型にするつもりはありません。そもそも明確な理由もないのにただルール通りの髪型にしろって抑圧するなんておかしいでしょ」
「今の時代は昔みたいに先生が無理矢理坊主にしてやるとかはできないけどな、次の頭髪検査までにルール通りの髪型にしてこなかったら謹慎だからな」
謹慎だと言われても、俺は今の髪型をルール通りの髪型に変えるつもりはなく、不服そうに「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「綾原を見てみろ。綾原は女子だから男子の基準とは違うけどな、しっかりルール通りの髪型にきてるだろ。その上、文武両道で先生の手伝いも率先してやるしリーダーシップもある。あんなに良い見本が近くにいるんだから綾原を見習ってくれ」
綾原は俺と同じクラスで、先生が言った通り俺とは正反対に位置する人間だ。
しかし、綾原がルールを守っているからと言って、俺がルールを守る必要なんてない。
「俺は綾原みたいにルールを守る奴とは違うので」
そんな話をしていると、俺と先生が自分の話をしていることに気付いた綾原がこちらに向かって歩いてきた。
「どうかしましたか?」
そう言いながら俺の元に近づいてくる綾原は、学校一の美少女だと呼ばれているだけあって非の打ち所がないほどの美少女だった。
「今永愛に綾原を見習って真面目な生徒になれよって言い聞かせてたんだ」
「へぇ。そうだったんですね。って私そんな誰かのお手本になれるほどできた生徒じゃないですけどね」
そう言いながら綾原は先生と少しだけ会話をして、綾原と楽しく会話できた先生は機嫌良さそうに検査へと戻った。
そして先生との会話を終えた綾原は俺の方へと近づいてきて一言。
「私は永愛君みたいに自分の好きを曲げない人のこと、カッコ良く見えるよ」
「--っ⁉︎」
楠森に言われたことと正反対のことを言われた俺はそれからというもの、自然と綾原を目で追うようになっていた。
楠森によってトラウマを植え付けられた俺にとって、その一言は俺が綾原に恋をする理由としては十分すぎる一言だった。
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