AIに恋愛相談したら好きな子とお近づきになれた
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
第1章
第1話
「おいコラ! またお前か永愛! タバコを吸うのはやめろ!」
高校二年生の俺、
そうは言っても万引きをしたりカツアゲをしたりと犯罪になるようなことはしていないし、勿論暴力沙汰になるようなことだって一度もしていない。
俺がしているヤンキーっぽい行動といえば、授業をサボったり学校を無断で欠勤したりと他人に迷惑をかけない程度のものである。
今だって俺がタバコを吸っているという情報をどこからか聞きつけたらしい生徒指導の
ヤンキーのクセして本物のタバコではなく、ココアシガレットを口にしてタバコを吸っているフリをしているなんてカッコ悪いと思われるかもしれないが、カッコつけたいからココアシガレットを口にしているのではない。
ただ本当にココアシガレットが好きなだけのココアシガレット愛好家である。
ココアシガレットを口にしているだけで頭の中に詰まっている不安や悩み、苛立ちが吹き飛び気持ちが落ち着いていく。
そういう意味ではタバコよりタバコらしい危険な代物かもしれないが。
「これはココアシガレットですよ」
「じゃあなんで逃げるんだ⁉︎」
「捕まったら真面目に授業を受けろとか髪を切れとか服装を整えろとか長々と説教されそうだし」
「それがわかってるならなぜそうしない!」
「俺にはルールを守るために自分を曲げないといけない理由がわからないんで」
「あぁっ⁉︎ なんだって⁉︎」
鬼塚先生からしてみれば、学生の俺がなぜ真面目に授業を受けずルールも守らないのか理解不能だろう。
しかし、俺にはヤンキーである自分を否定するようなルールには従いたくない信念があるのだ。
「なんでもないですよ。それじゃあ鬼塚先生、おさらばです」
そして俺は走っている速度を一気に上げた。
「お、おい、永愛⁉︎ 待て! 待たんかー!」
待てと言われて律儀に待つ人間なんていない。
運動神経が良く足も速い俺が本気を出せば、鬼塚先生を撒くことくらい朝飯前で、鬼塚先生を撒いた俺はとある場所へと向かった。
◇◆
鬼塚先生を撒いた俺が向かったのは、俺の唯一の憩いの場であり隠れ家でもある図書室だ。
引き戸をガラガラと開け図書室に入ると、カウンターの向こう側に一人の先生が座っている。
「チワッス、
「……また鬼塚先生に追われていたのか?」
若干息切れをしている俺の姿を見て質問してきたのは、司書教諭兼国語教諭の
詳しい状況を説明するのが面倒くさかった俺は、夢川先生の質問に対して「まあそんなとこです」と適当な返事をした。
「ルールを守って真面目に授業を受けろと何度も言ってるだろ。誰のおかげで学校に残れていると思ってるんだ」
「……それについては感謝してます」
夢川先生は俺の親父と同級生で、昔は二人でかなりヤンチャしていたらしい。
今の物静かな夢川先生からそんな姿を想像することはできないが、たまに感じる圧が昔の夢川先生の怖さを物語っている。
それでも俺が親父の息子だからということで、俺が財布を盗んだと疑われた時は真犯人を見つけて俺にかけられた容疑を晴らしてくれたり、テスト前には図書室で勉強を教えてもらい赤点を取らないくらいの点数を取ることができていたりと、夢川先生には頭が上がらない。
俺にとって夢川先生は先生でもあり、二人目の父親のような、俺にとってなくてはならない存在だ。
ちなみに俺がヤンキーになったのは完全に父親の影響である。
「最近の龍人の行動は目に余る。このままだと謹慎、最悪の場合退学だってあり得るからな?」
俺が今まで通り自分の好きなように行動していれば、何かしら罰が降ることは自分でも理解している。
それでも俺はルールを守るために自分を曲げることが許せなかった。
「それは自分でも理解してますけど……」
「理解してるなら真面目に授業を受けてルールを守ってくれ」
「それはできません。俺は自分を曲げることはしたくないんで」
「……はぁ。見た目だけじゃなくそんな意固地なところまで父親から遺伝するとはな。……こうなったら仕方がないか」
「仕方がない……?」
「龍人、君は恋をしなさい」
「……は? 恋?」
俺は夢川先生の言葉に耳を疑った。
授業を真面目に受けずルールを守っていない俺に『恋をしなさい』と指示してくる意味がわからない。
恋なんてしてしまえば、寧ろ勉強が疎かになってしまいそうな気もするが。
「そう、恋。すなわちLOVEだ」
「……」
とてもではないが無表情の夢川先生の口から飛び出した言葉とは思えないLOVEという言葉に、俺は言葉を失った。
わざわざ英語で言われなくても恋の意味くらい理解しているが、なぜ恋をしなければならないのかだけは理解することができない。
「いや、なんで授業を真面目に受けずにルールを守らなかったら恋をしろって言われなきゃならないんですか。そんなことできるわけないでしょ」
「私のいうことを聞かないとどうなるか、わかってるだろ?」
……こういう時の圧、やはり夢川先生は昔相当な悪だったのだろう。
自分の親父も元ヤンのため、ある程度強面の人の圧には慣れていると思っていたのだが、夢川先生の圧は俺の親父の圧とはまたベクトルが違う。
夢川先生の圧に負けた俺は、夢川先生の指示を聞き入れるしかなかった。
「……はぁ。わかりましたよ。恋すればいいんでしょ恋すれば」
「素直でよろしい。それじゃあ最終目標は、同じクラスの綾原と付き合うってことで」
夢川先生の口から次々と飛び出す信じられない言葉。
恋をするなら自分で相手を選べるのかと思っていたら、夢川先生が指示してきたのはこの学校で一番の美少女と名高い
「……は? なんで綾原? 誰でもいいんじゃないのか⁉︎」
「綾原はこの学校で一番可愛いと言われる美少女だ。男子からの人気はもちろん女子からの人気も高い。そんな綾原に恋をすれば龍人も自然と綾原に相応しい男になろうと思って頑張るだろ?」
「いや、だからって綾原は流石にハードルが……」
「つべこべ言わずにまずは声をかけるんだ。今週中に声かけられなかったら国語の評価落とすからな。それじゃあ私はもう行くから」
「え、ちょっ、弘にい⁉︎ それは酷すぎないか⁉︎」
「学校ではその呼び方で呼ぶなって言ってるだろ」
そう言いながら夢川先生は図書室を後にした。
俺は昔から夢川先生のことを弘にいと呼んでおり、学校では夢川先生と呼べと言われているが、今みたいに咄嗟に名前を呼ぼうとすると思わず弘にいと呼んでしまう。
「あの鬼め……」
夢川先生は綾原に声をかけろと指示してきたが、俺は一匹狼で女子は愚か男子ともあまり会話をしないのに、突然綾原と会話だなんてどうしたらいいんだよ……。
せめて俺に女心を教えてくれる恋愛の指南役的存在の人がいれば……。
そうは言ってもヤンキーの俺に恋愛のことを教えてくれる友人なんていない。
そう思っていた矢先、俺の目に入ってきたのは、棚の上に置かれた一冊の本だった。
「『超AI入門』……。AI……。そうか、AIだ」
俺はAIを駆使して綾原を落とす、つまりAIを使って恋をすると決め、そこから俺のAIを駆使した恋愛が始まったのだ。
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