第7話
お昼休み、夢川先生から図書室に呼び出された俺は図書室に向かって歩みを進めていた。
綾原と二人でファミレスに行き先転の話をしたのは先週の話だが、未だに自分が綾原に声をかけられてそのままファミレスに行き、アニメの話をして連絡先を交換したという事実を信じることができないでいる。
しかし、LINEの友だちリストには間違いなく綾原のアカウントがあって、先週の出来事が夢ではなかったとことを証明している。
いや流石に上手く行きすぎて怖いわ。
AIの力を借りればなんとかなるかもしれない、なんて思ったのは俺自身だが、まさかここまで上手くいくとは思っていなかった。
そんなことを考えていると、女子トイレから綾原と鈴村、そして古里が出てきて俺の方へと向かって歩いてきた。
気まずさを感じた俺は、目を逸らしながら綾原たちとすれ違おうとして、すれ違う直前に綾原の方を一瞬だけチラッと見た。
すると綾原は、鈴村と古里に気付かれぬよう俺に向かって小さく手を振ってきていた。
まさか手を振られると思っていなかった俺は、焦りながら、かつ鈴村と古里に気付かれないよう右手を胸の高さまで上げ手を振り返した。
そんな俺の反応に、綾原はニコッと笑顔を見せてからそのまま通り過ぎていった。
……え、何これ、こんな嬉しいことってあるか?
中学に上がってからは楠森への当てつけとして俺のヤンキー度合いは増していき、女子は愚か男子とも学校で接点を持つことは少なくなっていった。
それなのに、今まさに学校一の美少女である綾原が、俺に向かって手を振り、手を振り返したら微笑まれるなんて、もう幸せすぎて死んでしまうかもしれない。
だって綾原からしてみれば学校で俺に手を振るなんてのは危険行為でしかないんだぞ?
それでも俺に手を振ってくれたということは、俺を友達だと認めてくれたということだろう。
いくら連絡先を交換したとは言え、もしかしたらもう関わることはないかもしれないなんて思っていたので、綾原に学校で手を振られたのは嬉しすぎる出来事だった。
そんな嬉しさで胸がいっぱいになりながら歩みを進め、図書室に到着した俺はカウンターの向こう側に座っている夢川先生に「チワッス」と挨拶をした。
「どうだ? あれから一週間経過したが綾原さんとは話せたのか?」
「そうっすね。話もしましたし、一緒にご飯食べに行って連絡先も交換しました」
夢川先生からの問に俺は自慢気に返答した。
ただ話しかけるだけでなく、二人でご飯に行った上に連絡先まで交換したのだから流石の夢川先生も文句はつけられないだろう。
「……まぁまぁだな」
「……ま、まぁまぁ?」
まさかこの結果を伝えてまぁまぁと言われるとは思っていなかった俺は目を丸くした。
「ああ。まぁまぁだ」
「なっ、なんでですか。話すだけじゃなくて一緒にご飯行って連絡先まで交換したんだから百二十点でしょ」
「いや、八十点だな。俺かお前の親父ならもう一晩を共にしてる」
『何を子供相手にムキになってるんですか』とツッコミたかったが、夢川先生相手にそんなツッコミを入れられるほど怖いもの知らずではない。
というかその速さで一晩を共にするのはもはや褒められたことではないだろ何言ってんだこの人。
「……まぁ八十点ならよかったです」
「じゃあ次の課題だ。綾原から悩みを聞き出せ」
「もう次の課題ですか? しかも悩みを聞き出す?」
当たり前のように次の課題を出されたのはまあしょうがないとして、悩みを聞き出すという課題のないようにはどんな意図があるのだろう。
「私は瑛太に綾原と付き合えと言ったんだ。付き合うためにはただ会話をするだけの友達で終わるわけにはいかないだろ。ただの友達で終わらないためには、綾原の悩みを聞き出して解決することで信頼を勝ち取るしかないだろう」
悩みを聞き出して解決すれば、綾原との仲が深まるというのはわかる。
しかし、そもそも綾原が解決すれば信頼してくれるほど大きな悩みを抱えているかどうかわからないし、抱えていたとして教えてくれるかどうかだってわからない。
「そんな上手く行くかな……」
「つべこべ言わずに私の言ったことをやりなさい」
「わかりました。悩みですね」
夢川先生からの圧が凄すぎて、俺はただ従順に夢川先生に従うしかなかった。
「期間は一ヶ月とする。それまでに悩みを聞き出し解決できなかったら私はもう龍人に力を貸さない」
一ヶ月か……。
そう聞くとかなり時間があるような気がしてしまうが、まずは悩みを聞き出すのに一週間くらいかかるとして、その問題を解決するために残された期間は三週間程度。
一ヶ月もあるからとあぐらを書いていては、すぐに期限がやってきてしまいそうだな。
「わ、わかってますって……」
こうして俺は綾原から悩みを聞き出し、解決をするために行動することになった。
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