第8話 

 夢川先生から綾原の悩みを聞き出すという課題を与えられた俺は、帰宅して寝る準備を済ませてから自室の椅子に座ってChatGPTを開き、好きな子から悩み話聞き出す方法について訊いてみた。


『好きな子から悩みを聞き出すにはどうしたらいいですか?』


 ChatGPTにそう訊くと、いつも通り即座に答えが返ってくる。


『1.信頼関係を築く

 まずは日常的な会話を重ね、信頼関係を築きます。彼女があなたに心を開きやすくするためには、時間が必要です。


 2.自分の悩みをシェアする

 自分自身の小さな悩みや困りごとを話すことで、彼女も話しやすくなるかもしれません。自己開示は相手の心を開く助けになります。


 これらの方法を試すことで、好きな子が悩みを話しやすくなるかもしれません。重要なのは、相手が心を開くまで無理をせず、自然な形でサポートすることです』


 ……はい今回もありがとうございます大先生。


 ChatGPTが優秀すぎることは前回の件でわかっていたが、今回も期待通り完璧な回答をしてくれた。


 これはもうChatGPTさえあれば人生困らないレベルなんじゃないか?

 将来AIに人間の仕事を奪われていくなんて話を耳にしたことがあるが、この凄さを目の当たりにするとそれももう遠い未来の話ではないのだと思わされる。


 それにしても信頼関係か……。


 俺に与えられた期間は一ヶ月しかないので、その短い期間の中で悩みを聞き出せるほどの深い関係になるのは難しいような気もする。

 かといって信頼関係を築かないまま綾原に悩みを聞いたところで、俺に心を開いて胸の内に秘めている悩みを伝えてはくれないだろう。


 急がば回れ、とも言うくらいだし、まずは信頼関係を気付く必要があるか。


 信頼関係を築く方法の一つとして、自分の悩みをシェアするというのは効果的な作戦だろう。

 俺が悩みを打ち上げれば、綾原も同じように心を開いてくれるかもしれない。


 そんなことよりも、信頼関係を築くためにはまず綾原と一緒にいる時間を増やさなければならない。


 そして俺は綾原にLINEでメッセージを送った。




 ◇◆




「まさかキュリプアの映画に誘ってもらえるなんて思ってなかったよ。ありがとね、永愛君」


 列に並んでポップコーンを買おうとしている俺の横に立ち、微笑みながらお礼をしてきたのは綾原だ。


 綾原と過ごす時間を増やして信頼関係を深めなければならないと考えた俺は、綾原をキュリプアの映画に誘った。


 一緒に過ごす時間を増やすとは言っても、まだ綾原と話し慣れていない俺が前回のファミレスのように綾原とたくさん言葉を交わす時間を過ごすのは難しいと考えて、過ごす時間は増えるが、会話をすることは少ない映画を選んだのだ。


 映画を見ている間は何もできないじゃないかって?

 それはあれだ、きっと一緒に同じ映画を見てるだけであれだ、吊り橋効果的なあれで多分いい感じになるだろ。


 映画を選んだもう一つの理由として、丁度良いタイミングでキュリプアの映画がやっていたからというのもある。

 綾原とは先転を通して会話ができるようになったので、先転と同じアニメであるキュリプアの映画を見にいこうと誘うのは難しくなかった。


 まあキュリプアを見ていると知られれば気持ち悪がられる可能性もあり、誘うのは恐怖もあったんだけど。

 鈴村がキャリプアを見ていても気持ち悪がっていないところを見ていたので、いけると思ったのだ。


 まあ女と男ではわけが違うだろうけど。


「前から見たいと思っててさ。先転好きの綾原ならもしかしてキュリプアも好きなんじゃないかと思って」


「私も一人で見に行くつもりだったから誘ってもらえて嬉しかったよ。映画見終わった後に語れる相手がいないのは寂しいからね」


「お、もうこの前みたいに語る気マンマンだな」


「任しといてよ」


 そんな会話をしながら俺たちはそれぞれスモールサイズのポップコーンを買い、どんな内容の映画なのだろうかと期待を胸に映画が上映するスクリーンへと向かっていった。

 

 一つのポップコーンを買ってシェアしたかった、なんて思ってないからな。

 こうして綾原と二人で遊ぶのはまだ二回目だし、あんまり厚かましいこと言って嫌われたくはないし。


「あ、見て! キュリプアのポスターあるよぉっ--⁉︎」


「おっと⁉︎」


 キュリプアの映画のポスターに気を取られた綾原は、バランスを崩し倒れそうになる。

 それを見た俺は倒れそうになる綾原を咄嗟に抱え、綾原が持っていたポップコーンは床に飛びちった。


 ちなみに俺は片手で綾原を支えたので、俺のポップコーンは無事である。


「あっ、あの、えっと、ごめん……」


「大丈夫か? ……っていうかごめん⁉︎ 突然だったから思わずガシッと⁉︎」


 俺は左手にポップコーンを持っていたので、咄嗟に右手で綾原の脇腹に手を回しぎゅっと掴んだ。

 しかし、掴んだ位置は最悪で、俺は思いっきり綾原の胸を鷲掴みにしていた。


 いや、最高の間違いかもしれない。

 掴んでしまった事実は無くならないのだから、しきっと俺はこれで嫌われてしまうのだろうから、それならいっそのこと今の感触を忘れないように胸にしまって……。


「いやいや、永愛君は助けてくれたんだし、謝る必要無いよ」


 綾原、天使すぎる。


 いくらバランスを崩したところを助けてもらったからといって、胸なんか鷲掴みにされたら流石に怒るところだろ……。

 やはり俺の目に狂いはなかった、綾原は最高の女の子だ。


「……ごめん」


「だから謝る必要無いって! というかポップコーン溢しちゃったね」


「……それなら俺の一緒にシェアして食べようぜ。俺のは無事だし」


「えっ、いいの?」


「もちろん。とりあえず拾うか」


「うっ、うん! そうだね!」


 映画を見る前からこんなハプニングが起こるなんて先が思いやられるが、結果的に綾原と一つのポップコーンをシェアすることになったのは結果オーライだったかもしれない。

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