第3話 公爵令嬢
「スキル『七無双』、『セブントゥエルブ』」
そう唱えると、俺の頭には日本にいた頃にお世話になったコンビニエンスストア『セブントゥエルブ』の商品が浮かんだ。
その中から自分の食べたいものを選択する。
すると、目の前にその選択したものが出てきた。俺はそれをすぐに口に運ぶ。
「やっぱり、セブンの商品は美味いよなぁ」
社畜時代、自炊をしたくてもできないような毎日が続いていた。
その時にお世話になったのが、このセブントゥエルブの商品たちである。
この美味さに何度心を救われたかとか……。
「ふぅ、腹も膨れたしそろそろ移動するか」
そう言って俺は動き出す。
とは言っても、ここから帝都まで徒歩で3ヶ月はかかる。そんな距離を足で移動しようなんて馬鹿なことは思ってない。
牢屋にいる間にちゃんと移動手段も考えておいたのだ。
「スキル『七無双』、第七階梯空間魔法」
「
そう唱えた瞬間に、俺の周りの景色が変わる。正確には俺が移動しただけだが。
まぁ、他の階梯の魔法は全く使えないが……。ま、まぁ、第七階梯だけでも使えるだけマシだろう。うん、そういうことにしておこう。
ちなみに、魔法は第十階梯まである。正確にはもう少しあるのだが、一般的に知られているのは第十階梯までである。
閑話休題
空間転移は、転移したい場所の正確な座標が必要になる。
視界の中ならいらないのだが、それ以外の場合は必要になってくる。
だから、基本的にこの魔法は行ったことのある場所にしか行くことができない。俺は帝都に行ったことがないから、行ったことのある中で1番帝都に近い場所を選んだ。
そして選んだ場所だが、そこは森の中だった。
どうして森の中にしたかというと、単純にバレるとめんどくさいからだ。
考えてみてほしい。ただでさえ少ない空間属性の使い手が目の前に現れたら、絶対にめんどくさくなる。具体的に言えば、お貴族様のよく分からない権力争いに巻き込まれる。
せっかく自由になったのにそんなのはごめんである。
そんなことは置いといて、だいたいここは帝都まで歩いて3日くらいの距離にある。
このくらいの距離なら歩いて行けるから、ちょうどいいくらいである。
「よしっ、じゃあ行きますか」
俺は帝都に向けて歩き始めた。
—————————————————
あれから1日が経った。
すぐ抜けると思っていたがこの森は意外と広いらしく、まだ森の中である。
帝都の近くには大森林があるらしいから、この森はそれに続いているのかもしれない。
そんなことよりも大事なことは、この1日全く魔物を見ていないことだ。
魔物とは、人が残した最古の記録ですら現れている謎の生命体のことだ。
なぜ好んで人を襲うのか、なぜあんなに強いのか、なぜ……と、謎だらけの生物である。
まぁこれは、俺に日本にいた記憶があるから思うことで、この世界の人間からしたら魔物はそういう存在、というぐらいしか思わないだろう。
それはいいとして、なぜ魔物に会わないとおかしいかというと、普通の場合なら外に1日いるだけで魔物に会うことはある。
しかもここは森の中。魔物の住処がたくさんある場所だ。逆に合わない方が難しいだろう。
つまり、この森は何か異変が起こっていると考えていい。
「一体何が……」
『ガアァァァァ!!!』
起こっているんだ、まで言う前に俺の声は何かの叫び声によってかき消された。
「これは行ってみるしかないよな」
そう呟き、俺は声のした方へと走っていった。
—————————————————
「くっ……」
『ガアァァァァ!!!』
私は今窮地に立たされている。
私は今日、来月に迫る帝都魔法学園の入試に備え少しでも実践をと思いこの森に来た。
この森はもともとそこまで危険のないはずの場所だった。実際、これまでここで死者が出たなんて話は聞いたことがない。
なのに来てみれば、そこにいるのはこの世界でも最強の種族と言われる竜種の一体、
私1人ならなんとか逃げ切れたかもしれない。だが、私はメイドも連れてきていた。
対して危険もないところに行くつもりだったから、着いてきたいという申し出を断らなかったのだ。
「アイシャ様!私のことは置いてお逃げください!」
「ダメよ!他人を見捨てて自分だけ逃げるなんて、公爵令嬢としてあるまじき行為だわ!」
「ですが……!」
『グアァァァァ!!!』
「くっ……」
話していていても、魔物は待ってくれない。
火炎竜の尾の一撃を、アイシャはなんとか受け止める。
今この瞬間にも、アイシャは『身体強化』をフルに回している。
もったとしてもあと数分が限界だろう。
「私が逃げたらあなたはどうなるの!」
「もとは私が着いてきたいと言ったんです!だから、責任は私にあります!」
「そんなことは……」
ない、そう言おうとした瞬間に火炎竜は自らの腕を振りかぶり攻撃をしてきた。
その片方を剣で防いだアイシャだったが、相手の腕は2本。もう一つの方を捌く事はできずに、攻撃をモロにくらって吹き飛ばされてしまった。
「アイシャ様ッッッ!!!」
メイドは主人のことを心配して近くに寄った。幸い命に関わるような怪我はしていなかったが、この状況から抜け出さない限り無事に帰れる事はないだろう。
「誰か私たちを、いえ、アイシャ様だけでもお助けください……!」
「あぁ分かった」
「ッ!?」
返事が来ると思っていなかったメイドは、自分の助けに応じるものがいることに驚いた。
「あなたは!?」
「俺は、レイ•ヴャイオ……、間違った。ただのレイだ」
「無茶です!!有名な冒険者様ならいざ知らず、失礼ですがただの人にどうこうできる相手ではありません!!」
「はぁ……助けてほしいんだろ?なら、助けると言った男を少しでも信用しろよ」
「私は!!自分のせいで人が死ぬのは見たくありません!!」
「だから、なんで俺が死ぬ……」
「危ない!!!」
レイとメイドが言い争っているのを待ってくれる火炎竜ではない。
突如現れたレイを警戒した火炎竜は、これまでの攻撃とは比べ物にならないほどの力を込めて腕を振るった。
「スキル『七無双』、『七つの美徳、忍耐』《カンティネオ》」
レイはその攻撃を避けもしないで真っ正面から喰らう。
「竜種でもこの程度の威力か」
だが、レイは攻撃を受けても平然としていた。
「ッ!?なんで無事なんですか!?」
自分の主人ですら防ぐのが精一杯だった攻撃を、この男は平然と受け止めていた。
そんな意味不明な状況に、メイドは理解が及ばなかった。
「自分の力の実験も終わったし、そろそろ終わりにするか」
そう言ってレイはスキルを発動する。
「スキル『七無双』、『七つの大罪
レイがそう唱えた瞬間、目の前の空間が歪み、火炎竜を喰らい尽くした。
自分の主人ですら一度も攻撃を入れることすらできなかった火炎竜を、いとも簡単に倒してみせたこの男にメイドは疑問がつきなかった。
だが、それを聞く前にメイドにはすることがあった。
「助けられた身でお願いするのは申し訳ないのですが、アイシャ様の怪我を直す事はできますか?」
そう、あの怪我自体は命に関わるものではなかったのだが、そこから出る血の量が多すぎた。
このままでは、アイシャは五分とたたずに死んでしまうだろう。
「もともとそのつもりだ。自分の力で助けられた人を死なせるのは気分が悪いしな」
レイはそう答えると、アイシャに近づき手をかざした。
「スキル『七無双』、『7つの美徳
そう唱えた瞬間アイシャは光に包まれ、次の瞬間にはもともと怪我があったのかどうか分からないくらいキレイに怪我は治っていた。
「ッ!?あっ、ありがとうございます!」
「別にいいよ。自分で助けたいと思ったから助けただけだし」
「ですが、感謝ぐらいはさせてください」
「そっか、ならそれは受け取っておく」
「それと、おそらくアイシャ様がもうすぐお目覚めになるのでそれまでここにいてはくれませんか?」
「分かった。自分で助けた人の責任は最後まで見ないとな」
「ありがとうございます」
そうしてレイは、アイシャが目覚めるのをここで待つことにしたのだった。
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