第2話 6年間
この6年間はクソみたいな日々だった。
まず第一クソ要素だが、飯がまずい。
硬いパンと味のないスープが1日2回。
時々スープに味があることもあるが、基本的には無かった。
これに関しては途中から苦痛ではなくなった。
第二クソ要素は弟の存在だ。
俺には1人弟がいる。
そいつだが、まぁ性格が悪い。俺が牢屋に入れられてからは毎日のように魔法の練習だとか言って魔法を当てるは暴言を吐くはのやりたい放題。
特にスキル『賢者』を授かってからは酷かった。
なまじスキルがスキルだ。弟が快楽のために適当に打つ魔法でもそこそこ威力が出る。
まぁ、これに関しても途中から何も感じなくなったが。
だが、牢屋生活も苦痛だけでは無かった。
それは、俺のスキル『七無双』の存在だ。このスキルの効果を知ってからはこのスキルを試したくてしょうがなかった。
このスキルの効果はざっくり言うと『七のつくものなら操つれる』と言うものだ。
具体例を出すと『七面鳥』が出し放題になる、などである。
このスキルを使って俺は色々なことを試した。
どのようなものは操れるのか、逆にどのようなものは操れないのか、などと時間を忘れて没頭した。
その結果、このスキルは『基本的に七という数字が変わらないものだけを操れる』、ということになった。
例を出すと、『七面鳥』は基本的に名前から七がなくなることがないから、操ることができる。
だが、人の年齢は17歳でも1年経てば18歳になる。このように『七』という数字が変化するものは操れないみたいだ。
まぁ、俺もそこら辺を完璧に把握してるわけじゃないからなんとも言えないが。
ちなみに、名前に『七』という数字が入ればいいだけで、それがアラビア数字の7でも漢字の七でもローマ数字の
俺はこのスキルを使って戦闘もできるようにした。
まぁ、この話はまた今度するとしよう。
なぜ俺がこんな話を始めたかと言うと、俺がこの牢屋生活からおさらばできそうだからである。
まぁ、同時にヴァイオレット家からもおさらばすることになると思うが。
そんなことは置いといて、今朝、6年ぶりに我が父が俺の牢屋に来たのである。そして、
「お前に話がある。だから午後に俺の部屋に来い。案内は使用人にさせる」
とだけ言い残していったのである。
ちょうど今日は俺の16歳の誕生日だ。前に16歳まで面倒を見てやると言っていたから、きっと今日でヴァイオレット家を追い出されるのだろう。
正直言って、追放なんざどうでもいい。俺には別にお姫様と結婚したい願望なんてないしな。
なんなら牢屋生活からおさらばできるなら両手をあげて喜びたいくらいである。しないけど。
逃げれるのに逃げてはいけないというのは中々に苦痛だったしな。
そんなことを考えていると、上からカツっカツっ、と言う音が聞こえてくる。
きっと使用人だろう。もう直ぐ午後になるし。
「レイ様、当主様がお呼びです」
やはり現れたのは使用人だった。名前はたしか、グレイだったかな。
この人は今でも俺を様で呼んでくれる数少ない使用人である。
「分かった。直ぐに連れていってくれ」
「かしこまりました」
そうして、俺は牢屋から6年ぶりに出た。
んん〜、外の空気が気持ちいい……とはならない。まだ外じゃないし。
冗談はさておき、俺はグレイの後ろをついていった。
そして、ある扉の前で止まった。
「レイ様、私は当主様がなんと言おうとレイ様の味方でございます。私はレイ様の強さではなく人柄に惹かれたの1人ですから」
ふっ、こいつは……。
グレイの言葉に俺は心が温まるような気分になった。
そういえば、人に温かい言葉を向けられるのっていつぶりだろうか。
投獄されてからしばらくはまだ温かい言葉で励ましてくれる人もいたしな。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
今はただ、グレイの言葉を噛み締めておこう。
「ありがとうな、グレイ」
「私はレイ様の使用人ですから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「それでは、また会える日を楽しみにしています」
「あぁ、それじゃあな」
きっとグレイも俺がこの後どのような処遇を受けるか分かっているのだろう。
だがそれでも、俺はまだ少しでも味方がいてくれることが嬉しくてたまらなかった。
そして俺は、父さんがいる扉を開けるのだった。
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「やっと来たか」
扉を開けると、目の前には仕事をしている父さんがいた。
「レイ、今日限りでお前のことを追放とする。二度とこの家には帰ってくるな」
「分かっているが、一応理由も聞いても?」
「まぁ、お前とする最後の会話だ。そのくらい答えてやろう。お前は、我がヴァイオレット家に生まれておきながら効果もわからないスキルを授かった無能だ。今までは私の評判のために家に置いておいたが、お前ももう16歳だ。家から追い出しても文句は言われまい」
「そうか、じゃあ俺はもう行くな」
「何処へでも行くが良い。もうお前は、ヴァイオレットの人間ではないのだから」
「じゃあな父さん。いや、サイラス•ヴァイオレット」
そう言って、俺は部屋を後にした。
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あの後俺は6年ぶりに、まだあったことが不思議でたまらない自分の部屋に戻り、必要そうなものを鞄にしまい、家を出た。
幸いなことに、弟と出くわすことはなかった。これはとても嬉しかった。
さて、家を出たはいいものの、これからどうしよう。
食べ物には困らない。
寝泊まりする場所も最悪自分で作ればなんとかなる。
お金も、部屋にあった分でしばらくはなんとかなるだろう。
よしっ、それじゃあとりあえず帝都でも目指しますか。あそこなら色々あるだろうし。
今後の方針を決めた俺は、さっそく帝都に向かって歩き出したのだった。
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