親愛なるカエデちゃんへ。ハッピーバレンタイン。From:ハル

奇蹟あい

To:カエデちゃん From:ハル

 私の目はいつもカエデちゃんの姿を探している。


 笑った顔、怒った顔、まじめな顔、ふざけた顔、とぼけた顔、驚いた顔、かなしそうな顔、泣いている顔……。


 いつからだろう。

 気づくとカエデちゃんのことばかり考えている自分がいた。


 ずっと見つめていたい。

 ずっと一緒にいたい。

 隣に並んで歩きたい。


 どうしてそこにいるのは私じゃないの?


 どうして。


 どうして。



 他の子にそんなやさしい表情で微笑まないで。

 私のことだけを見て!



 ああ、なんて私は嫌な子なんだろう……。



 カエデちゃんはみんなにやさしい。

 アイドルの私たちにも、マネージャーのみんなにも。


 私が特別だなんて自惚れはない。


 だけどね。カエデちゃんが「ハルル」って呼んでくれる度に胸が締め付けられるように苦しくなる。心臓が高鳴って口から飛び出そうになるのよ……。



 カエデちゃんのことが好き、なんだと思う。


 異性として。


 おかしいよね。女の子同士なのに。

 だけど自分ではどうしようもないのよ。


 どうしようもなく好きなの。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

親愛なるカエデちゃんへ

 

 私、カエデちゃんに初めて出逢った時のことは正直覚えてないのよ。

 たぶん、サツキのマネージャーさん、くらいの印象しかなかったんだと思う。


 それがいつからかな?

 ううん、劇的なきっかけなんてなかったんだと思う。

 サツキのために、他のみんなのために一生懸命動いてくれる姿を見ているうちに……。


 アカリさんの代わりにオーディションに出てくれるって聞いた時は安心したな~。

 私、あの時、カエデちゃんが代理で出るって聞いて、何の不安もなかったんだよ。

 これまで見たどんなアイドルの子が代わりに出てくれるよりも、カエデちゃんが出るって言ってくれて、ホントに良かったって思ったの。


 だけどあのオーディションでは、カエデちゃん自分のパフォーマンスはしなかったよね。アカリさんの完コピだった。

 オーディションとしては正しかったとは思うけど、私はちょっと残念だったな。カエデちゃんと一緒に踊りたかったよ。


 いつかそんなチャンスがくるといいな。



* * *


 カエデちゃんがMINAさんとデートしたって聞いた時、私、ちょっとめまいで倒れそうになっちゃったんだよ。


 MINAさんがモデルだから?

 美人だから?


 ずるい。


 私だってアイドルなのに……。


 もしかして……胸が小さいからダメなの?

 ウミやレイちゃんみたいに……。



 なんかもう、全部わけわからなくなっちゃって、頭ぐちゃ~ってして、わ~って感情をぶつけたのに許してくれたよね。

 

 私のすごさがわかっちゃうデートだっけ?

 もう夢みたいな1日だったな……。


 何もかも楽しくて夢みたいだった。



 でもこっそり動画に撮られてるなんて!

 私とカエデちゃんだけの思い出のはずが、世界に配信されちゃうなんて!


 恥ずかしくて死にたいよ……。


 だけどあれを良い演技だってみんな褒めてくれて。

 すっごい複雑な気持ちだけど……私のすごさがわかっちゃった、のかも。悔しい。



* * *


 あ~、映画の撮影、楽しかったな~。

 カエデちゃんと二人きり……でもなかったかな。

 マキさんがちょっと……でも、時々やさしいし複雑な気持ち。


 エチュードまたやりたいな。

 私、演技好きかもしれないってあの時初めて思ったのよ。


 なんだかいつもカエデちゃんに引っ張ってもらってるね。


 撮影自体はすっごい大変だったし、役者になるって生半可な気持ちじゃダメなんだってわかったの。

 マキさんは本番でもやっぱりすごいし、どうやったらあんなふうになれるんだろうって今でもわからないけど、とにかく一歩ずつ進むしかないかなって思うのよね。

 私、役者になりたい!



 だけど謎解きイベントはもうやりたくない!

 あれは役者の仕事とは違うと思うのよ!

 マキさんだって泣いてたし……。


 カエデちゃん1人で全部謎を解いちゃうし……また助けられちゃったな。



 そうそう、舞台挨拶!

 定期公演が延期になって気持ちを切り替えるのが大変だったけど、洋子ちゃんもマキさんもすっごく気を遣ってくれて。

 映画を一緒に撮った家族みたいですっごくすっごく救われたなって。


 カエデちゃんと同じ部屋でお泊りできたし。

 温泉も一緒に入れたし!


 でも私良くないと思う!

 温泉でタオルを巻くのはダメだと思うのよ!


 恥ずかしいのはわかるのよ?

 私だって恥ずかしいよ。うん……マキさんみたいになりたい……。

 がんばってチーズ食べようね。



 もうすぐ定期公演だね。

 ミュージカル楽しみにしてるよ。

 リハーサルだけじゃなくて本番も生で観たいな。

 観客席に座って観たらさすがに怒られるかな? 




 ごめんね、長くなっちゃって。

 定期公演がんばろうね!


 ハッピーバレンタイン♪




 P.S. 私、ダーリングさんのことは許してないからね。



From:ハル


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  なんてね。


 こんな手紙渡せるわけないじゃない……。



 カエデちゃん、ハッピーバレンタイン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

親愛なるカエデちゃんへ。ハッピーバレンタイン。From:ハル 奇蹟あい @kobo027

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ