第51話 新しいアイデア
一週間後、俺たちは再びアルバン・エ・フロランにやってきた。
「ヒーナ・ヨゥツバー様、彼氏様、ようこそお越しくださいました」
フロランさんは俺たちを出迎えてくれたが、どことなく浮かない表情をしている。
「さあ、どうぞこちらへ」
俺たちはお店の奥の応接スペースへと案内された。そこにはいかにも頑固そうな中年の男性がいる。
「ヒーナ・ヨゥツバー様、彼氏様、この者は私どもの工房の共同代表で主任技術者のアルバンでございます。この度はご注文いただきました馬車の設計について詳しくお伺いしたいとのことで、同席させていただきます」
紹介されたアルバンさんはまず、右手を左胸に当て、深々と陽菜に対して礼をした。続いて俺に向かって手を差し出してくる。
「アルバンだ」
「祥太・味澤です」
俺はアルバンさんと握手を交わした。
「陽菜・四葉です。アルバンさん、よろしくお願いします」
陽菜がそう言うと、アルバンさんは再び右手を左胸に当て、深々と礼をした。
「アルバンと申します」
「はい。それじゃあ、座りましょう」
陽菜の仕切りで俺たちは着席し、ようやく説明が始まる。
「ヒーナ様のご要望をまとめて検討してみたんだが、色々と問題が出てきた。まず彼氏さんに聞きたいんだが、アンタは四頭立ての馬車を一人操れるのか?」
「四頭立てですか……騎士団で習ったのは二頭立てまでですので、自信がないです」
「なるほど。じゃあ、御者を雇う予定は?」
「ありません!」
陽菜が話に割り込み、ピシャリとそれを遮った。
「そ、そうですか。変なことを聞いてすいません」
アルバンさんは陽菜の反応に驚き、慌てて謝る。
「あ、いえ……その、それで?」
「はい。だとすると、ご要望のものは難しいです」
「なんでですか?」
「いえ、この座席を組み替えてできるベッドというものが問題でして、簡単に申し上げますと、軽くすると強度が足りず、夜に破損する可能性があります」
「え? そうなんだ……」
陽菜はなんのことだか分かっていないようだが、要するにアレか。夜に二人でプロレスすると壊れるってことか。
……ま、まあ、そうだよな。男女がわざわざ二人で旅をして、同じ場所で寝るのならそう考えるのが当然なんだろう。
特にこの世界の女性には貞操観念なんてものは存在しない。女性が上位で、しかも女性が望まない限り子供ができる心配がないのだ。そもそもそんな考え方が生まれようはずがない。
「ですので、これを実現するためにはかなり重量のある材料で作る必要があります。ですがそうすると他の部分にも影響が出てしまい、全体的な重量の増加に繋がってしまうのです。四頭立ての操縦が可能でしたらご要望どおりにお造りすることは可能なのですが……」
「そっか……どうしよう? 祥ちゃん」
「そうだね……」
どうするべきか……。
しばらく悩んでいると、陽菜が突然声を上げる。
「あ! そうだ! じゃあ、キッチンカーにするのってできますか?」
「キッチンカー? でございますか? それは一体どのような……」
「はい。キッチンカーって言うのは食べ物を移動販売できる車で、こう、横がパカッて開いてお店になるんです」
「???」
アルバンさんとフロランさんは言っていることが理解できないようで、ポカンとした表情で陽菜の説明を聞いている。
「陽菜、ちょっと待って。どういうこと?」
「え? だってさ。祥ちゃんの美味しい料理を売りながら旅すればいいかなって思って。ほら、将来お店を持つときの練習にもなるでしょ?」
「あ、ああ。うん。そうだね……」
あまり上手くいく気もしないが、陽菜がせっかくそう言ってくれているのだ。ちょっと真面目に考えてみよう。
「ええとですね。行商人とかいるじゃないですか」
「はい」
「その行商人が使うようなイメージで、馬車をそのまま店舗として使うような車両です。紙とペンを借りられますか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。こう、こんな感じで……」
俺は駅前で見たキッチンカーをイメージして、下手なりに頑張って絵を描いて説明した。
「な、なるほど……」
「こういったものも可能ではありますが、料理というのは……」
「あ、それは俺が固有魔法を持っていまして、それで料理はできるんです」
「そ、そうでしたか。さすが、ヒーナ・ヨゥツバー様が選ばれた彼氏様ですな……」
フロランさんは困惑しつつも、笑顔でそう言ってこちらを立ててきた。一方のアルバンさんは真剣な様子で考えているようだ。
「なあ、彼氏さんよ。この馬車でヒーナ様はどこに座るんだ?」
「御者のすぐ後ろとか?」
「何? そんな場所に?」
「え? なにか問題でも?」
「いや、ヒーナ様がいいならいいんだが……」
「いいよ。むしろ祥ちゃんとおしゃべりできるからそのほうがいいかも」
「そ、そうですか……」
アルバンさんは困惑した様子でそう答えた。
ということは、この考え方はこの世界の女性としてはかなり異質なのだろう。
まあ、なんとなくどういうことなのか理解はできるが……。
「それでしたら座席を御者台の真後ろに置いて、一列にしましょう。そうすれば元々の客室がなくなって、そこにクローゼットを移動できます。着座は衣装室の中を通るようにして、残りを荷台と販売スペースにする。ベッドは荷台にマットレスを敷いていただく形にはなりますが、それなら二頭立てで十分な重量に収まるでしょう」
「いいね。祥ちゃん、どう?」
「うーん……これだと後輪の上に販売カウンターが来るんですよね?」
「ああ、そうなるな」
「それだとちょっとカウンターが高くなりすぎな気がするんですけど、クローゼットを後ろにして、真ん中を荷台にするのはどうですか?」
「ん? それだとベッドはどうするんだ? 真ん中の荷台に直接マットレスを敷くのか? 前のなら荷台が高いから、靴を脱いで上がればいいが……」
「前輪と後輪のところが高くなってるじゃないですか。それを利用して、角材を渡してベッドフレームにするのって難しいですか?」
「ん? どういうことだ?」
「こんな感じで……」
俺は組み立て式のベッドをイメージして、絵で説明する。
「おお! なるほどな! それはいいアイデアだ! ということは、荷物の積み下ろしも車体右側のドアを使うってことだな」
「はい。後ろから積み下ろしするよりも簡単でしょうし」
「ようし。となるとやっぱ車体のベースは荷馬車じゃねぇな。聖女様の外出用モデルをベースに……」
アルバンさんはぶつぶつと何かを
「ヒーナ・ヨゥツバー様、彼氏様。貴重なご意見を賜りありがとうございます。それではまた一週間後、こちらにお越しくださいますでしょうか?」
「わかりました」
こうして俺たちは再びアルバン・エ・フロランを後にするのだった。
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