第50話 Side. サラ(10)
「聖女様! あれが魔窟のコアではないでしょうか!?」
「わぁ、ホントですねぇ。ダニエラさぁん、やりましたねぇ」
「はい! すべては聖女様のおかげです!」
うん。どう考えてもあたしじゃなくて、ダニエラさんが頑張ったんだけどね。
ああ、ええとね。あれからすぐに魔窟に向けて出発したのよ。
ほら、元々場所は分かっていたじゃない? だから一直線に魔窟に向かって、そのまま突入したのよ。
で、その後はもう、ダニエラさんが出てくる魔物という魔物を次々に倒してくれたの。
ほら、あれよ。無双ってやつ?
ヘルムート様たちも頑張っていたけど、もう比べ物にならなかったわね。女のほうが魔力が強いって神様が言ってたけど、あれを見ると納得だわ。
たしかに力は男のほうが強いけど、それだけだわ。
女はいつだって選ぶ立場で、男は選ばれるために死に物狂いの努力をする。それがこの世界なのよ。
うんうん。そうよね。正しい世界だわ。
あーあ。日本もこうだったら良かったのに……。
「さあ、聖女様」
あっと、そうだったわ。今はやることをやらなくっちゃね。
「はぁい」
あたしはサクッと魔窟のコアに神聖力をぶつけて、一瞬であたしの聖杯に変えてあげたわ。この程度のことは簡単よね。
それにしても、ダニエラさんから聞いていたよりも簡単だったわね。普通はもっと時間が掛かるって言ってたけど……ま、歴代最高の聖女であるこのあたしに掛かればこんなもんってことかしら?
さて、持って帰りますか。
……せ、聖杯って意外と重いのね。
って、あんたたち、何こんなとこで泣いてんのよ。感動するのは帰ってからにしなさいよね!
こいつら、帰るまでが遠足って言葉、知らないのかしら?
小学校で習うことなのにね。まったく、世話が焼けるんだから。
「魔窟はぁ、やっつけましたぁ。聖杯をぉ、持ってぇ、早くぅ、町にぃ、帰りましょぉ?」
◆◇◆
ふう。帰ってきたわ。
イケメンのヘルムート様の馬に乗せてもらって、これから凱旋パレードよ。
門をくぐれば住民たちがあたしを出迎え……って、臭っ! 町の中心以外はホントにひどいわね。
これ、早くなんとかしないと!
じゃなかった。住民たちが集まってるんだから笑顔で手を振ってあげないとね。
……ちょ、ちょっと馬の上はバランスが悪いわね。左手が聖杯で塞がってるから、右手まで鞍から手を放すと落ちちゃいそう。なら!
「ヘルムート様ぁ、サラがぁ、落ちないようにぃ、支えてぇ、くださいねぇ」
「もちろんです。腰を失礼します」
ヘルムート様が腰を支えてくれたわ。
うんうん。がっちりしていて安定感があって、これなら安心して手を放せるわね。
あたしは右手を放して住民たちに笑顔で手を振ってあげたわ。
ふふふ。気持ちいいわぁ。感謝されるって最高ね!
そうよ。ホントに、本ッ当にこの世界に来て良かったわ。
完璧な美貌と歴代最高の聖女、そのうえ逆ハーしながら知識チートで町づくりなんて、これ以上の贅沢ってあるのかしら?
あはっ。そう考えたらホントに楽しくなってきたわ。
あたしはその気持ちを乗せて、詰めかけた住民たちに思いっきり笑顔で手を振ってあげたわ。
◆◇◆
さて、町長公邸に帰ってきたわ。
うーん、パレードも悪くはなかったけど、臭いはやっぱり耐えられないわね。さっさと下水道を整備させないと。
「聖女様?」
「はぁい。なんですかぁ? ダニエラさぁん」
「ええと、ここは町長公邸なのですが……」
あれ? なんの話?
「はぁい。そぉですよぉ。ダニエラさんのぉ、お家でぇ、サラのぉ、今のお家ですねぇ~」
なんだかよく来てるから、このエントランスロビーも見慣れちゃったわね。
「そ、そういうことではなく、なぜ神殿でなくこちらに?」
「えぇ? だってぇ、あの神官さんのぉ、ところはぁ、嫌なんですぅ」
「そ、そうでしたか。ですが彼は今牢獄におりますし……」
「それにぃ、あのぉ、神官さんはぁ、神様とぉ、関係ないぃ、人ですからぁ、あのぉ、神殿もぉ、サラとぉ、神様とぉ、関係ないとぉ、思いまぁす」
「か、かしこまりました」
「じゃあぁ、結界、張っちゃいますねぇ」
両手でこの優勝トロフィーみたいな聖杯の取っ手を持って、あとは目をつぶってここに神聖力を流し込んで……結界を、えい!
くっ! これは……かなり力を持っていかれるわね。歴代最高の聖女のあたしでこれってことは、他の雑魚聖女たちだと結構大変なんじゃないかしら?
ま、あたしならこのくらい、余裕だけどね。
「はぁい。これでぇ、結界のぉ、かぁんせぇでぇ~す」
なんか聖杯がキラキラ輝いてて、すごい綺麗ね。
でも、ここにちゃんとあたしの神聖力があって、あたしがなんでもできる状態なのもちゃんと分かるのよね。
ふふふ。もしかしてあたしの神聖力がこんなに綺麗なのって、もしかしてあたしが綺麗だからかしら?
ふふふふふ。そう考えるとなんだかすごく愛着が湧いてきたわ。
……でも、ちょっと、重いわね。あれ? なんかちょうどいいところにちょうどいい台座があるじゃない。
とりあえずここに置いておきましょ。
なんか貴重品っぽいし、しばらく展示でもしとけばいいんじゃないかしら? あたしの神聖力がどれだけ綺麗か、自慢できるしね。
「せ、聖女様!? 一体何を?」
「しばらくぅ、ここにぃ、置いて、サラのぉ、国民のぉ、みんながぁ、見学ぅ、できるよぉにぃ、してあげてくださぁい」
「へ? 見学?」
「はぁい。そぉでぇす。きっとぉ、みんなぁ、見たいとぉ、思うんですぅ」
「か、かしこまりました。ではそのように手配いたします」
「よろしくお願いしまぁす」
◆◇◆
聖女サラによって張られた結界は前代未聞の規模であった。それは小さなザンクト・サラスブルグの町や周辺の森、そして町に面した入り江を覆うだけに留まらず、なんと沖合に浮かぶ島のさらに先までもがその範囲に入っていたのだ。
そのことに住民たちは驚き、歓喜し、そして聖女サラに感謝の祈りを捧げて忠誠を誓ったのは言うまでもない。
さらに翌日からは町長公邸のエントランスホールが午後のみ一般解放され、警備隊の兵士たちが厳重に警備する中ではあるものの、なんと実際に動作している聖杯の様子を見学できるようになった。
本来、聖杯とは町の命綱とも言える大切なものだ。にもかかわらず、それを誰もが見学できるようにするという前代未聞の寛大な措置は住民たちの心を鷲掴みにし、聖女サラに対する忠誠心を高める結果となった。
また、その波紋はザンクト・サラスブルグだけには留まらない。
なんとサラによって結界が張られたちょうどそのとき、沖合を一隻の貿易船が航行していたのだ。
聖女の持つ神聖力の強さと結界の広さは比例する。
このことはこの世界に住む者たちにとっては常識であり、当然貿易船の乗組員たちもそのことをよく知っていた。
つまり、沖合を航行していた貿易船の乗組員たちは理解したのだ。
何もない海辺の限界集落だったクラインボフトが前代未聞の強い力を持つ聖女を推戴し、将来極めて有望な聖国となったということを。
このことは彼らによって世界中に伝えられることになるのだが、サラたちはまだそのことを知らない。
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ストック切れにつき、今回で毎日更新は終了いたします。今後は毎週一回土曜日の更新を目指し、執筆を進めていく予定です。
従いまして、次回更新は 3/23 (土) 18:00 を予定しております。。
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