第49話 Side. サラ(9)

 自らの聖女としての力を示したサラは、感涙にむせぶ群衆に笑顔で手を振ってから建物の中へと消えていった。それを慌てた表情のダニエラが追いかける。


「聖女様!」

「はぁい。なんですかぁ? ダニエラさぁん」

「なんですか、ではありません! サラスブルグには結界がないため、ザンクトを名乗る資格はございません。もしこのことが他国に知られたら……」

「えぇ~、大丈夫ですよぉ」


 サラはあっけらかんとした表情でそう答えた。


「それは一体……」

「だってぇ、今からぁ、サラたちがぁ、魔窟にぃ、行ってぇ、聖杯をぉ、取ってきまぁす」

「はいっ!? 聖女様が直接魔窟の攻略に向かわれるのですか!?」


 サラの口から飛び出した爆弾発言に、ダニエラは目を見開いて驚いた。


「はぁい。そうでぇす」

「そんなっ!? お考え直し下さい! やっと、やっとお越しいただけた聖女様にもしものことがあれば!」


 ダニエラは顔面蒼白になりながらも、なんとかサラを止めようと説得をする。


「だってぇ、聖女のぉ、サラはぁ、みんなをぉ、祝福でぇ、強くぅ、できるんですよぉ? だったらぁ、サラがぁ、行ったほぉがぁ、いいとぉ、思うんですぅ」

「で、ですが……」

「それにぃ、サラだけぇ、町にぃ、残ってぇ、みんながぁ、死んじゃったらぁ、サラぁ、悲しいですぅ

「う……」

「でもぉ、サラがぁ、いればぁ、みんなをぉ、助けられますよぉ?」

「そ、それは……」


 ダニエラは頭を抱えつつ、なんとか反論しようとしているが、口をパクパクさせるばかりで言葉が出てこない。


 それを見たサラはニッコリと天使のような微笑みをダニエラに向ける。


「じゃあ、ちょっとぉ、着替えてきまぁす」

「え? あっ、その……」


 なんとか引き留めようとするものの、ダニエラの口からは言葉が出てこない。そんなダニエラを尻目に、サラは自分の控室へと向かうのだった。


◆◇◆


「聖女様、お召し物をお持ちいたしました」

「はぁい。いつもぉ、ありがとぉ」


 うん。いい感じね。ちゃんとあたしの言ったとおりの服になってるわね。


「じゃあぁ、着替えるのぉ、手伝ってくださぁい」

「「「はい! お任せください」」」


 あら、あたしの下僕ちゃんたち、すごい気合が入っているじゃない。


 十二歳以下の付き人志望の男の子たちに来てもらったけど、やる気があってかわいいわぁ。


 本当はメイドが欲しかったんだけど、なんかこの町、二人しか女がいないらしいのよね。


 命令すればやってくれそうだけど、女の身の回りの世話は男の仕事らしいしね。それにかわいい男の子に囲まれるのも悪くないじゃない?


 ふふ。この子たちの中からあたし好みのイケメンに成長する子が出たら、あたしが食べちゃってもいいかもね。


 なんてことを考えている間に着替えが終わったわ。


 うん。完璧じゃない。あたしの完璧なスタイルがよく分かるわね。


 このシルクのブラウス、胸がきつくないし、さりげなくフリルが付いててちょっとかわいいわね。


 それに腰をベルト代わりのコルセットできちんと絞ってるから、あたしの完璧な体のラインを見せつけられるのもポイントよね。


 あ、でもね。あたしの場合は腰が細いから、コルセットは体型補正じゃなくて服がダボっとするのを防ぐために使ってるのよ。


 ふふ、コルセットがきつくないなんてね。すごくない?


 ホント、この優越感ったら!


 それと、ボトムスはシルクのレギンスの上にミニスカートを重ね履きしているわ。そこに黒のニーハイロングブーツを合わせて、あたしの美脚を見せつけているの。


 絶対領域を出しても良かったんだけど、行き先は一応森の中だしね。山の中では肌を露出させないほうがいいって小説にも出てきてたし、こういうところはちゃんとしないとね。


 後は帽子をかぶって、さあ、行きますか!


 あたしが部屋の外に出ると、そこには魔窟攻略に行く男たちが集まって、ひざまずいてあたが出てくるのを待っていてくれたわ。


 先頭はイケメン警備隊長のヘルムート様ね。その後ろに警備隊の精鋭たちと、それから精鋭の冒険者たちが並んでいるわ。


 あれ? 冒険三兄弟もいたのね。なんか犬? の魔物にやられかけたけど、あれでも精鋭って本当かしら?


 ふふ。跪いているくせに、あたしから目が離せなくなっているのがよく分かるわ。


 胸、腰、太もも、それから顔に行ってまた胸ね。


 ホント、男って胸が大好きなのね。


 ああ、気持ちいい。


「みなさぁん、今日はぁ、集まってくれてぇ、ありがとぉございまぁす」


 ふふふ、みんなあたしのことを一心に見てる。


「サラとぉ、みなさんでぇ、一緒にぃ、魔窟をぉ、やっつけましょぉねぇ。みなさんにぃ、祝福をぉ」


 はい。みんな頑張れー。サクッと魔物をやっつけるのよ。


 ドンドン!


 わっ! びっくりしたわね。いきなり一斉にみんなで、胸に当てていた拳で自分の左胸を叩くんだもん。


 なんなの? それ? 片っぽだけゴリラの真似?


「聖女様! お待ちください!」

「あれぇ? ダニエラさぁん、どぉしたんですかぁ?」

「聖女様! どうしても行かれると仰るのでしたら、私もお連れ下さい!」

「えぇ? でもぉ、女の人はぁ、そぉゆぅのぉ、しないんじゃないんですかぁ?」

「聖女様が行かれるのに、私が行かないなどということがどうしてできましょう! それに私の魔法はきっと聖女様のお役に立てます!」

「そぉですかぁ? じゃあぁ、一緒にぃ、がんばりましょぉ。はぁい、祝福でぇす」

「っ!? あ、ありがとうございます!」


 なんだか大げさねぇ。ま、いいわ。さっさと行って、さっさと終わらせちゃいましょ。


 ふふふ。ダンジョン攻略なんて、いよいよそれっぽくなってきたじゃない。


 あれ? 魔窟だっけ? ま、同じようなもんでしょ。


================

 次回更新は通常どおり、2024/03/19 (火) 18:00 を予定しております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る