第34話 ランダムドーピング

 制限が撤廃されて以来、俺は思う存分料理ができるようになった。


 どの料理も基本的に好評だが、特にハンバーグの人気がすさまじい。やはり柔らかくてジューシーなハンバーグの美味しさは異世界でも共通なようだ。


 そうこうしているうちに魔力の配分についても大分感覚が掴めてきたので、そろそろ朝食に当たりを混ぜて見ようと思う。


 さて、今日のメニューはエッグベネディクトだ。


 レシピは色々あるが、今回はオーソドックスなベーコンとポーチドエッグ、そしてイングリッシュマフィンのものを作る。


 イングリッシュマフィンはトーストし、ベーコンはしっかりと焼いておく。


 そのイングリッシュマフィンの上にベーコンとポーチドエッグを乗せ、ここにオランデーズソースを掛けてやる。ちなみにオランデーズソースというのは、溶かしたバターに卵黄とレモン汁、塩を入れて混ぜ合わせたものだ。


 あとは胡椒をかけ、隣に野菜サラダを盛り付ければ完成だ。


 ちなみに、今作ったこのエッグベネディクトにだけは、全般的なステータスアップの効果が付いている。といっても、この世界に来て最初に作ったものと違ってかなり効果を弱めてあるので、きっと今日は妙に調子がいい、程度になるはずだ。


 当たりは……そうだな。とりあえずあと三つくらい作って様子を見ようかな。


◆◇◆


 その日、魔窟のコアを目指して進む五人の先遣隊の行く手に、巨大なクマの魔物が現れた。


「あれは! まずい! マーダーベアだ!」

「なんだと!? ここまで強い魔物がいるとは!」

「引け! 正面から戦うな! いったん引いて、おびき寄せて不意打ちをする!」

「はい!」


 先遣隊の騎士たちは大急ぎで逃げ出すが、なんとその行く先にもマーダーベアが立ち塞がる。


「なんだと!?」

「いつの間に!?」

「くそっ! 向こうのマーダーベアは?」

「追いかけてきています!」

「くっ! 切り開く! マーダーベアの出現をキャンプに伝えるんだ! 一人だけでも必ずたどり着け!」

「「「「はい!」」」」


 先遣隊の隊長が悲壮な決意でそう命じると、隊員たちの心は一つにまとまったようだ。全員がきりりと締まったいい表情をしている。


「俺が囮になります!」


 一人の騎士がそう宣言すると身体強化を発動し、帰り道を塞ぐマーダーベアに向かって一気に走りだす。


「待……え?」

「なんだそれ?」

「どうなったんだ?」


 気付けばマーダーベアは真っ二つになっており、囮になると走りだした男は十数メートル先の壁に激突していた。


「いててて……なんだ? 何が起きたんだ?」


 激突した男はそう言って目をぱちくりさせながら、周囲の状況を確認し始めた。一方の残された騎士たちはというと、あんぐりと口を開け、我を忘れて呆然としている。


「あっ! 後ろ! 危ないです!」


 囮になった男が大声をあげ、ようやく我に返った騎士たちが後ろを振り返る。するともう一頭のマーダーベアが迫ってきていた。


「しまった!」


 と、次の瞬間ものすごい突風が吹き、気付けばマーダーベアは真っ二つになっていた。


「え?」

「まただ……」


 騎士たちは目をぱちくりしながらお互いに顔を見合わせる。


「はっ!? そうだ! あいつは?」

「……あそこで壁にぶつかってるな」

「おいおい、どうなってんだ?」


 再び騎士たちはお互いに顔を見合わせた。


 それからハッとした表情になり、周囲を警戒し始める。すると真っ二つになったマーダーベアの遺体がまるで何もなかったかのように消えていく。


「他に魔物は……」

「気配はないな」


 なおも警戒を続けるが、やがて隊長が表情を緩めた。すると他の騎士たちもホッとした表情を浮か、壁に激突した男のもとへと向かう。


「おい! 大丈夫か?」

「は、はい」

「お前! いつの間にあんな速くなったんだ?」

「え? それが、自分でも何が何だか……」

「でも、すげぇじゃねぇか」

「そうですね……」


 仲間たちは褒め称えるが、当の本人は納得していない様子だ。


「とにかく、一度戻ろう。マーダーベアが出たことを伝えなければ」


 こうして彼らは撤退し、祥太たちのいるキャンプへと帰還した。


 そしてマーダーベアの出現と討伐を隊長のエドガールに報告をすると、彼はエドガールと模擬戦をすることになった。だが彼がマーダーベアとの戦いで見せたスピードはまったく出ず、一瞬であしらわれる。


「……この程度でマーダーベアを倒せるはずがない。きっと暗闇でマーダーベアと他の魔物を見間違えたのだろう。次からはきちん魔物の種類を確認するように」

「はい……」


 先遣隊の五人は納得いかない様子ではあるが、首をひねりつつもエドガールの言葉を受け入れたのだった。


◆◇◆


 朝食に当たりを入れ始めてから五日ほどが経過した。どうやら毎日のようにヒーローが出現しており、攻略はかなり順調に進んでいるらしい。


 狙いどおりといえば狙いどおりなのだが……おかしいな。そんなに強力な効果にしたつもりはなかったのだけれど。


 うーん。もしかして、鍛えている騎士たちが食べると強化される幅が大きくなったりとかするのかな?


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 次回更新は通常どおり、2024/03/06 (水) 18:00 の更新となります。また、明日も一挙三話更新の予定です。

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