第33話 Side. サラ(3)

 ふう。やっと着いたのね。ああ、もう。お尻が痛くなったじゃないの。


 ま、あたしは聖女の力で簡単に治せるんだけど。


 でも、あたしをこんなひどい馬車に乗せた罰よ。神官のおっさんは治してあげないんだから。


 あ、降りないとね。


 ステップを降り……えっと、どうしよう。胸が大きすぎてステップが全然見えないわね。


 あはは。巨乳すぎるのもちょっと考えものかもね。


「あのぉ」

「なんでしょう?」

「降りるのをぉ、手伝ってぇ、くださぁい」

「もちろんです!」


 あ! 筋肉ダルマが来た! あと地味顔も。


 いいわね。そうやってすぐに来るの、ポイント高いわよ。


 それに比べて神官のおっさんはダメね。女のエスコートすらしないなんて。


「さあ、聖女様。足元にお気を付けください」


 あたしは二人の男の手を借りて、一歩一歩ステップを降りたわ。


 うんうん。いいわね。お姫様って感じ。これでイケメン王子様かイケメン騎士様なら文句なしなんだけど。


 でも、ブサメン相手でもポイントはちゃんと稼いでおかないとね。こういうところを怠るとざまぁされるのよ。


「お二人ともぉ、ありがとぉございまぁす」

「「っ!?」」


 あはは、また真っ赤になった。ウケる~。


 さて、ファンサービスはこのくらいでいいわね。


 それじゃあ、あたしの聖女の力を見せつけてあげましょうか!


「ホルスト様ぁ、早くぅ、行きましょぉよぉ」

「ええ……」


 もう。また変な目で見てくる。いいからさっさと案内しなさいよ。


「神官殿! 聖女様をお待たせするとは何事だ!」

「そうだそうだ! 聖女様のお力は本物だ! 俺たちは聖女様にケガを治して頂いたんだぞ!」


 お! いいわね。もっと言ってやりなさい?


「……こちらです」


 ふ。勝ったわね。観念してようやく案内する気になったみたいね。


 それから建物に入ったんだけど……うっ!? 何これ!?


 なんか酷い匂いがしていて……あれ? この臭い、小さいころに行った田舎のトイレと同じ匂いじゃない?


 え? ってことはもしかして、これってうんちの臭い!?


 信じられない! 病院にうんちがあるなんて、頭おかしいんじゃないの!?


「止めておかれますか? 今なら聖女をかたったことは不問にして差し上げますよ?」


 はぁ!? 何言ってんの? 病院にうんちがあるのにびっくりしてただけだし!


「やりますよぉ! サラはぁ、聖女なんですっ! サラがぁ、聖女だったらぁ、責任をぉ、とってくださぁい!」

「ええ。もちろんですよ」


 はぁ? 何こいつ! ムカつくんですけど!


「神官殿! 聖女様になんたる不敬!」

「そうだ! 神官ごときが!」

「聖女の詐称は創造神様に対する重罪ですからな。お前たちも覚悟していなさい」

「「「なんだと!?」」」


 あっ! ダメッ!


「やめてくださぁいっ!」

「えっ?」

「せ、聖女様?」

「この男は聖女様を馬鹿にしたんですよ!」

「ここはぁ、病院ですぅ。サラがぁ、ちゃんとぉ、聖なる力でぇ、みなさんをぉ、治しますからぁ」

「聖女様……」

「す、す、すみせん」

「そうでした」

「じゃあぁ、患者さんのぉ、ところにぃ、案内してくださぁい」

「ちっ……こちらです」


 こいつ! なんなの? 舌打ちしやがったんだけど! ふざけんな! 覚えてろよ!


◆◇◆


「では、まずこちらの患者を治療していただけますか?」


 えっと、このおっさん何? 別に怪我してなさそうなんですけど?


「あのぉ、どこがぁ、悪いんですかぁ?」

「……」

「あのぉ? 聞こえてますかぁ?」


 答えないなんて怪しいわね。


「おやおや、どうなさったんですか? 治療できないんですか? そうですよね。聖女ではないんですから」

「おい! てめぇ! 聖女様がどこが悪いか聞いてんだろうが! 早く答えろよ!」

「そうだ!」

「ぶ、ぶっ殺してやる!」


 えっ!? ちょっと待って! ここ、一応病院よ!?


 いきなり剣を突きつけるなんて……!


「ひっ!? お、俺は悪くない! 俺はここの職員で、休憩していただけだ。俺は神官様に言われて……」


 は? 何こいつ? どういうこと?


「おい! てめぇ!」

「……仕方ありませんな。ではそちらの部屋に」

「てめぇが案内しろや」


 ううん。意外と……あれ? こいつらの名前なんだっけ?


 えーっと、冒険者って言ってたし、冒険三兄弟でいっか。


 うん。冒険三兄弟、意外と頼りになるじゃない。


「ちっ」


 神官のキモオヤジ、また舌打ちしやがった!


 むかつく! ふざけんな!


 はぁ。


 それでね。部屋に入ったんだけど……うん。ひどいわね。そもそも、まずはこのうんちの臭いをなんとかしなさいよ。


 でも、この人たちが病人なのは間違いなさそうね。みんなあたしのほうを見てるし、じゃあ見せつけてあげますか。


「みなさぁん。わたくしはぁ、聖女のぉ、サラでぇす。今からぁ、皆さんをぉ、治療しまぁす」


 あとは両手を組んで、聖なる力でこの人たちの怪我と病気を、はい。治ったわね。


 ふふ。さすがあたし。歴代最高の聖女様であるこのあたしの手にかかればこんなものよ。


「どぉですかぁ? まだぁ、調子がぁ、悪い人はぁ、いますかぁ?」

「お、おおお……」

「聖女様!」

「聖女サラ様!」

「ありがとうございます!」


 ふふふ。称賛の声が気持ちいいわね。


 ほらほら、もっとあたしをたたえなさい?


 さぁて、あのキモ神官は……あれ? いない? さっきまでそこに……あっ! 逃げた!


「ちょ、ちょっと!」

「あっ! 待てっ!」


 あ、筋肉ダルマが走った。速っ!


 もう捕まえてきたわ。やっぱり筋肉あると走るの、速いのねぇ。


「せ、せ、聖女様……つ、つ、捕まえました」

「すごっ!」

「え? 聖女様?」


 あ! いけない! つい地がでちゃった!


「わぁっ! すごいですぅ。足がぁ、とぉってもぉ、速くてぇ、サラぁ、びっくりぃ、しちゃいましたぁ」

「へ、へへへ。せ、せ、聖女様の、た、ためなら……」


 うわぁ。顔真っ赤。デレデレしちゃっててキモッ。


 あ! でもこれって、もしかしてキモオタの相手をするアイドルの気分なのかしら?


 うん。そう考えると悪くないわね。


 ふふふ。笑顔でアイドル、あたしもやってあげようじゃないの!

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