第32話 Side. サラ(2)

 筋肉ダルマにお姫様抱っこされて、町まで連れてきてもらったわ。さすがに運んでもらうのはちょっと嫌だったんだけど、仕方ないじゃない。


 だってこのブサメンたち、歩くの速すぎなのよ。


 どうして女の子の歩くペースに合わせられないのかしら? こういう男、絶対モテないわよねぇ。


 あ、でもあたしが全然動けないっていうのもあるんだけどさ。


 ほら、あたし、バストが大きいでしょ? それでバランス狂っちゃっててさぁ。


 それに、手足だってこの細さじゃない? だから筋力が全然ないの。


 なら、男の人と同じように歩けるわけないのは当然でしょう?


 ま、この筋肉ダルマ、筋肉ダルマなだけあって安定感は抜群だけど。がっしりしてて、筋肉がちがちで。


 えっと、それでね。あたしたちはちょっとした丘を越えて、石を積んだ壁で囲われた町の門に着いたんだけど……。


「開門! 開門しろ! 魔物に襲われていた聖女サラ様をお助けした! 今すぐ開門しろ!」


 カミル、だったっけ? リーダーっぽいやつがものすごい大声で門番の兵士に言ったわ。


「は? 聖女サラ様? 一体どちらの聖女様だ?」

「どちらの聖女様でもいらっしゃらない! 魔物に襲われていたところをお救いしたんだ! 早く町に入っていただき、一刻も早くお休みいただかないと!」

「何? 本当に聖女様なのか?」

「ああ! そうだ! 聖女サラ様は俺たちに加護を下さり、フォレストウルフの群れを倒す力をお与え下さった! しかも傷ついた俺たちを一瞬で治してくださったんだ! 聖女様で間違いない!」

「そ、そうか。そこまで言うなら、今すぐ神殿に連絡して迎えを呼ぶ。おい、お前、聞いていたな?」

「はっ! 連絡してきます!」

「ああ、頼んだぞ」


 あれ? お迎えが来るの? 助かるわね。でも、早くしてね。


 って思ってたら、兵士のおじさんがあたしの前にひざまずいたわ。


「地上を照らす太陽、聖女サラ様にお目にかかり、光栄の至りに存じます。クラインボフト警備隊門兵長ルトガーがご挨拶申し上げます」


 ああん。いいわね。あたしが太陽だって。


「ねぇ、降ろしてぇ?」

「は、はいっ!」


 よいっしょっと。


「聖女のぉ、サラでぇす。ルトガー様ぁ、よろしくぅ、お願いしまぁす」

「っ!?」


 あはは。いい歳したおじさんのくせに、顔が真っ赤になってる。おっもしろーい。


「どぉしましたかぁ? お顔がぁ、真っ赤ですよぉ?」

「い、いえっ! せ、せ、聖女サラ様があまりにもお美しく……っ!」

「まぁっ! ルトガー様ったらぁ、お上手ですぅ」


 そう言ってニコリと微笑んであげたわ。


「っ!?!?!?」


 あはははは。口、パクパクしてる。おっもしろーい。


 にしてもやっぱ、女は見た目よね。見た目さえ良ければ人生イージーモードなんだもん。


 ふん! あたしを散々馬鹿にしてきたやつら、ざまあみろ。


「あ、あのぉ」

「は、はいっ! なんなりと!」

「えっとぉ、サラぁ、ちょっとぉ、疲れちゃいましたぁ」

「っ!? こ、これは気が利かずに申し訳ございません! さ、さあ、どうぞこちらへ」

「はぁい」


 それからあたしは門をくぐって、石の壁の向こうに来たわ。


 ……えっと、うん。臭いわね。何この臭い? どうなってるの?


 せっかくヨーロッパっぽい素敵な建物がいっぱいあるのに、この臭いのせいで台無しじゃない。


「聖女サラ様、どうぞこちらの休憩室をお使いください」

「ありがとぉございまぁす」


 って、入ってみたけど、何これ? ソファーがすっごい硬いんですけど?


 あたしは歴代最高の聖女様なのよ? それなのにこんな硬いソファーに座らせるだなんて!


 って、思ってたんだけど、なんか馬車が来たわ。


 馬車! すごーい! 馬車なんて初めて見る! ちょっとボロッちいけど。


 あれに乗るのかしら?


 うーん。だとすると、ちょっとねぇ。


 歴代最高の聖女様のあたしが乗るのにあんな馬車ってなくない? あ、でも歩くよりはマシかしら?


 あれ? なんかハゲたおっさんが出てきたわね。


 うわぁ。デブで脂ぎっててキモ!


 でもなんかそれっぽい服着てるし、もしかして神官? それとも神父?


 お坊さんじゃないことはたしかね。


 あ、入ってきた。


「はじめまして。私めは神官のホルストと申します。聖女様がいらっしゃったとお聞きし、神殿よりお迎えに上がりました」


 あれ? この人は跪かないのね。もしかして疑われてるのかしら?


 うーん、じゃあさっさとあたしの力を見せて信用させてあげなきゃね。


「はじめましてぇ。わたくしはぁ、サラってぇ、いいまぁす。あのぉ、ホルスト様ぁ?」

「は、はい。なんでしょう?」

「どなたかぁ、困ってるぅ、人はぁ、いませんかぁ? サラはぁ、聖女なのでぇ、助けてぇ、あげたいんですぅ」

「そ、そうですか。では病院などいかがでしょう?」

「はぁい。もちろんでぇす。ホルスト様ぁ、サラをぉ、病院にぃ、連れて行ってくださぁい」

「かしこまりました。ではこちらへ」


 あたしは慎重に馬車まで歩いて、馬車に乗り込んだわ


 っていうか、どうしてあたしをエスコートしてくれないの? あたし、まだこの体に慣れてないから歩きにくいのよ。


 なんとかなるけど、胸が邪魔でステップ見えなくて、踏み外しそうで怖いんだけど。


 ……ふう。なんとか自分で乗れたわ。


 でもさ。何? この馬車? 椅子にクッションがほとんどないじゃない!


 こんなのに座ってたら……あっ!? 振動が! ちょっと! もっと静かに走らせなさいよ!


 なんなのよ! もう! あたしは聖女なのよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る