第21話 女性が少ない理由
魔法の訓練を終えた後、俺は急いで宮殿で一時間ほど女性の付き人としての教育を受けた。
当面の間はこの世界で生きていかなければならない以上、付き人として正しく振る舞えるようになることが、陽菜の隣に立つために必要なことだと思ったからだ。
付き人教育では礼儀作法だけでなく、陽菜の生活を補佐するすべてを教えてもらえる。ドレスの正しい着付けの仕方や髪の手入れやセットの方法、ジュエリーの選び方やコーディネート、さらには日常生活に不可欠な生活魔法までと多岐にわたる。
そうして今日のやることをすべて終えて部屋に戻ると、そこには陽菜の姿がすでにあった。
「ゴメン。遅くなった」
「ううん。祥ちゃん、色々と頑張ってくれてるんでしょ? それより着替えるの、手伝って?」
「うん」
そうして陽菜を夜用のドレスに着替えさせ、食堂へと向かった。
そうして席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。今日は聖女様と夕食を取るわけではないのだが、それでもたくさんの料理が大皿に乗って運ばれてくる。
「取り分けてもらえますか?」
「かしこまりました」
ウェイターさんに頼むと、すぐに料理を取り分けてくれた。
「じゃあ、陽菜、食べようか」
「うん。お祈りの言葉は覚えてる?」
「えっと、まだ」
「じゃあ、今日は俺が」
「うん」
「神よ。今日の糧をお恵み下さったことに感謝します。いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせてから、食事を食べ始める。
やはりお肉は新鮮で臭みもないが、味付けは今日も塩とハーブだけだ。二日連続でこうということは、もしかするとここには複雑な調味料がないのかもしれない。
ワインはあるようなのでワインビネガーくらいはあるだろうが、ケチャップとかソースとかマヨネーズとか、そういったものは多分ないような気がする。となると、当然味噌や醤油もないんだろうな。砂糖は……どうだろう? 蜂蜜くらいならあるかもしれない。
「ねえ、祥ちゃん。今日はどうだった?」
「うん。午前中はずっと剣の素振りをして、それから魔法について教えてもらったよ。で、それから付き人教育も受けた」
「えっ? なんで?」
「だって、知っておかないとどこかでミスしそうじゃん。そうしたら陽菜に迷惑かけちゃうし」
「そんな、迷惑だなんて……」
「それより、陽菜はどうしてたの? 聖女様に直接教えてもらったんでしょ?」
「うん。そうなんだけど……」
陽菜はもじもじと恥ずかしそうに頬を染めた。
「えっ? 何かあったの?」
「あ、その……ね。えっと……あ! そうだ! どうして女の人が少ないのかを教えてもらった」
「へえ? なんでなの?」
「あのね。なんか、産み分けができるらしいんだ」
「え? 産み分け? ってなんの話?」
「なんかね。女の人は、子供を産むときに男の子にするか女の子にするか、自分で決められるんだって」
「へぇぇ。なんか、さすが異世界だね」
「うん。それでね。びっくりしたんだけど、男の子ってね。十日ぐらいで生まれるんだって」
「へっ?」
「でも、女の子だと十か月ちょっとなんだって」
「はい? なんで?」
「それがね。女の子は魔力が高いって、神様も言ってたでしょ?」
「言ってたね」
「その魔力は、マナっていう生命力の源みたいなのが
陽菜は淡々と話を続ける。
「それでね。女の子の体は、子供を産むからマナがたくさん必要なの。でもそういう体に産んであげるためには、お母さんがお腹で赤ちゃんにマナをたくさんあげて、長い時間掛けてじっくり育てなきゃいけないらしいの」
「はえぇぇ」
世界が変われば人体の構造も変わるってことか。
「しかも、それが命懸けらしいの。だから女の子を産むのって、ものすごく勇気がいるんだって」
「なるほど。ってことは、男の子は?」
「なんか、気が向いたらポンって産むらしいの」
「ポンって……」
「なんか、おトイレよりちょっと大変かも、くらいな感じなんだって。生まれてくる子も、男の子だとこのくらい小さいらしいよ」
陽菜はそう言うと、両手で五~十センチくらいの隙間を作ってみせた。
「えっ!? そんなに小さいの?」
「うん。だからこっちの世界の女の人はね。付き人の男の人が頑張ったら、ご褒美に男の子を産んであげるんだってさ」
「お、おおう」
まさかそんな仕組みだったとは……。
でも、たしかにそれで人口が支えられているとなると、一夫一婦制で国が崩壊するというのも現実的な話に聞こえる。
「でね。男の子を産んだらお母さんは産みっぱなしなんだって」
「え? 育てないの? あ! もしかして、ポンポン産んでるから、数が多すぎるから無理ってこと?」
「うん。そうみたい。あとね。男の子だと自分の子供って感覚がないらしいの。どっちかっていうと、付き人にご褒美をあげた、みたいな感じなんだって」
「うわぁ。なんか、ホントに異世界だね」
「うん。でもあたし、やだなぁ。男の子でも女の子でも、もしあたしがお母さんになったらさ。ちゃんと愛情いっぱいに育ててあげたいもん」
「だよね……」
「帰りたいなぁ」
「そうだね。頑張ってクラスのみんなを見つけない」
「うん」
「俺、早くみんなを探しに行けるように頑張るよ」
「うん。待ってるね」
◆◇◆
食事を終え、俺たちはベッドに潜り込んだ。さすがに今日はずっと運動をしていたせいもあって、疲労感が半端ない。
これなら今日は早く寝付けそうだ。
そう思っていたのだが、なんと陽菜がこちらに寄ってきて、俺の背中にくっついてきた。柔らかな胸の感触が感じられて、股間の息子が……!
「陽菜?」
「うん。疲れてるのにゴメンね。でも昼の間、ずっと祥ちゃんと会えなかったから……」
「う……そっか」
そんないじらしいことを言われると、拒むに拒めなくなる。それにこんなに密着すると陽菜のいい香りが余計に強く感じられ……。
「祥ちゃん……」
「な、何?」
「あたし、帰りたい……。お父さんとお母さんに会いたい……」
陽菜の声は、ほんの
「陽菜」
俺は陽菜のほうを向くと、そっと背中に手を回した。
「帰ろう。みんなを見つけて」
「うん……」
陽菜はそう言うと、さらにぎゅっと抱きついてきた。好きな女の子が腕の中にいるという事実に、その柔らかい感触に、そしてあまりにもいい香りに思わず衝動に身を任せて滅茶苦茶にしてしまいたくなる。
ぐっ……ダメだ!
俺はその衝動をなんとか理性で抑え込む。
精神的に参って、頼ってくれているのだ。その信頼を裏切るわけには……!
そ、そうだ。ここは素数を、いや、羊を数えよう。
羊が一匹、羊が二匹……。
◆◇◆
羊は三千三百三十三匹まで数えたのだが、結局寝付くことはできなかった。そこで陽菜が寝静まったのを見計らってトイレに行き、臭い中でスッキリしたところでようやく寝付くことができたのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/02/24 (土) 18:00 を予定しております。
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