第22話 Side. サラ(1)

 あれ? ここは……? え? なんで砂の上に座ってるの!?


 ……あ! そっか! あたしの世界に着いたのね。


 ここはどこかしら?


 わぁ! きれいな海!


 すごい! 真っ白な砂浜に青い海だなんて、まるで海外リゾートみたいじゃない!


 ちょっと波打ち際まで行ってみよう!


 って、あれ? ひゃっ!?


 立ち上がろうとしたんだけど、バランスを崩して転んじゃったわ。


 いたた……あれ? なんで?


 あたしはもう一度、慎重に立ち上がったわ。


 あ! そういうことね! ふ、ふふふ。この大きなバストのせいで体のバランスがおかしくなってたのね。


 すごい。足元が何にも見えない!


 それにこの真っ白で細くて長い手足!


 髪だって憧れの金髪じゃない!


 やった! さすが神様! ありがとうございます!


 それからあたしは転ばないように慎重に波打ち際まで歩いたわ。


 波間に映るあたしの姿と言ったら!


 ああ! 嬉しい!


 これからあたしはこの世界で素敵な恋をするのね。逆ハーも普通だって言ってたし!


 楽しみだわ!


 ……あれ? そういえば、人はどこにいるの?


 こんなに綺麗なビーチなら海の家くらいあってもいいと思うんだけど?


 あっ! まずい! ずっとこんなところにいたら日焼けしちゃうじゃない!


 でも……あら? 何かがこっちに来るわね。


 えっと、犬……? の群れ? 


 あ! もしかして聖女のあたしが降臨したのを知って、ワンちゃんたちが遊びに来たのかしら?


 ふふふ、そうよね。何せ、歴代最高の聖女様だものね。


 ……え? 何? なんなの? あの犬。なんか目が真っ赤に光ってて、涎をダラダラ垂らしてるじゃない。


 ひっ!? もしかしてあれって魔物!?


「危ない!」

「このフォレストウルフめ!」

「よ、よくも女性を!」


 三人組の剣を持った男たちが颯爽とやってきて、あたしを守るように前に立ってくれたの。


 やん♡男らしい! 素敵!


 それから男たちは犬たちを倒……ちょっと! 何やってるのよ! やられそうじゃない!


 こうなったら仕方ないわね。歴代最高の聖女の神聖力、みせてあげるわ!


 あたしは両手を組んで、彼らに聖なる加護を与えてあげたわ。


「なっ!? なんだ!? 急に力が!」

「うおおおおおお! これは!」

「勝てる! 勝てるぞ!」


 ふう。すごいわね。さすが、歴代最高の聖女の神聖力ね。


 彼らはあっという間に犬たちをやっつけてくれたわ。


 すると血まみれの彼らはあたしのほうに歩いてきて、ひざまずいたの。


「お怪我はありませんか? お美しいお方」

「は、はい」


 あれ? ちょっと待って? あたし、キャラ、変えたほうがいいわよね?


 お嬢様風? それともやっぱり愛され系かしら?


 うーん、でも逆ハーをするんだったら小悪魔系かな?


 あろう小説だと、やっぱり逆ハー狙いの転生女はそっち系よね。


 でもそれは破滅ルートだし……。


「あの?」


 あっと! いけない。


 どうしよう! キャラ、まだ考えてないのに!


 ……ああ、もう! いいや! とりあえず、逆ハー転生女で!


 ダメなら後で変えればいいでしょ!


 ええと、甘ったるい不思議ちゃんみたいな感じよね? それだと……。


「えっとぉ、皆さんのぉ、おかげでぇ、助かりましたぁ」


 あら? こいつら、顔を真っ赤にしながら喜んでるじゃない。


 なんだ。これで正解なのね。じゃあ、このキャラで行きますか。


 あろう小説だとこういう女はざまぁされるけど、ちゃんと真面目にやって、その展開だけ避ければいいだけだもんね。


 大丈夫よ。あたしはこの手の小説、たくさん読んだから、ざまぁされる要因は把握してるわ。


 濡れ衣を着せない。


 ちゃんと真面目にいいことをする。


 あとは、何より大事なのは他人の婚約者を奪わない。


 これだけ守ってれば大丈夫なはずよ。絶対逆ハーハッピーエンドにしてみせるんだから!


「わたくしはぁ、サラってぇ、言いまぁす。皆さんのぉ、お名前をぉ、教えてくださぁい」

「はっ! お、俺は、カミルと申します! しがない冒険者です」

「俺はマックスです! 同じく冒険者です!」

「お、俺、パウルっす。ぼ、冒険者っす」


 ふーん。このカミルってやつがリーダーなのかしら? 一番年上っぽいし、きっとそうね。でもなんか地味顔で、王子様って感じじゃないわね。


 マックスってやつも微妙ね。こんな狐みたいに目つきが鋭いやつ、好みじゃないもん。


 で、このパウルってやつは論外ね。背が高いのだけはいいんだけど、こんな筋肉ダルマ、ちょっとキモいもん。それに、この厳つい見た目であんなおどおどした口調もキモいわ。


 あーあ。全員ブサメンだなんてツイてないわ。


 ああ、でもキモオタじゃないだけマシね。


「わぁ、カミル様とぉ、マックス様とぉ、パウル様ですねぇ? 皆さんはぁ、サラのぉ、命のぉ、恩人ですぅ」


 ふふ。好みじゃないやつらでも、ちゃぁんと媚びは売っておかないとね。どこで破滅フラグが立つかなんて分かんないもん。


「あっ! お怪我をぉ……」

「そんな! サラ様のようなお美しいお方を守れたのであれば、俺たちの傷など勲章でございます!」


 ふふふ。やっぱり女が尊重される世界なのね。じゃあ、ここはさらに恩を売って、あたしの下僕になってもらいますか。


「大丈夫でぇす。サラがぁ、治してぇ、あげまぁす」


 あたしは祈りを捧げて、三人の怪我をさっと治してやたわ。


「どぉですかぁ? 傷むところはぁ、ありませんかぁ?」


 ふふっ。どう? あたしの聖女スマイルは?


 あ、効いてる効いてる。ポカーンってなってるくせに、耳まで真っ赤になってる。


 ああ、気持ちいいわぁ。


「あ、あのぉ……?」

「はっ!? も、申し訳ございません。まさかサラ様が聖女様でらしたとは……! も、もしや戦いの最中で急に力が出たのは聖女様にご加護を……」

「はぁい。あ! もしかしてぇ、サラぁ、余計なことをぉ、しちゃいましたかぁ?」

「いえ! そのようなことは決して! 聖女様のご加護をいただけるなど! ありがとうございます! オラッ! お前らも」

「はっ!? そ、そうでした! 聖女様! ありがとうございます」

「あ、あ、ありがとうございます!」


 あはは。大人の男たちがこんなに感激するなんて、ホント気持ちいい。


「あ、あのっ! サラはぁ、当然のことをぉ、しただけですぅ」

「なんとお優しい!」

「それよりぃ、サラぁ、町にぃ、行きたいんですぅ」

「それは! 気が利かずに申し訳ございません! すぐにご案内いたします! さあ、こちらへ」


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 次回更新は通常どおり、2024/02/25 (日) 18:00 を予定しております。

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