第20話 それぞれの教育

2024/02/22 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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 翌朝、俺は陽菜の着替えを手伝ったあと、一人で宮殿の隣にある騎士団本部にやってきた。


「お前がショータ・アジーサワーか?」

「はい」

「俺はアニエシア騎士団の騎士、エドガールだ。魔窟攻略隊の隊長をしている。聖女様より、魔窟攻略のためにお前を鍛えよとのご命令を賜った。魔力が高いそうだが、常識知らずなんだそうだな」


 言葉にややとげがあるが、ぽっと出の外国人を一から教えるなんて面倒なのだろうな。仕方がない。


 俺は少しでも印象をよくするべく、素直に頭を下げる。


「はい。よろしくお願いいたします」

「……いいだろう。これから魔窟攻略が終わるまで、お前は俺の部下だ。甘えは一切許さん。覚悟しておけよ」

「はい!」

「いい返事だ。これから俺のことは隊長と呼べ」

「はい、隊長」

「よし。まずはこの見習いの服に着替えてこい。すぐに訓練を始めるぞ」


 こうして俺はいきなり騎士団の訓練に参加することになったのだった。


◆◇◆


 騎士団の訓練場を十周し、その後はひたすら素振りをやらされた。他の騎士たちは剣を交えての訓練をしているが、俺は素振りをずっと続けている。


 理由は体力がないことに加え、剣術の基本ができていないからだ。剣なんて、せいぜい学校の授業で剣道をやらされたくらいなのだから当然といえば当然だが……。


 そうしているうちに、正午の鐘が鳴り響いた。


「ようし! 今日の訓練は終わりだ! ショータ以外は解散!」

「「「はっ!」」」


 こうして騎士たちは解散していき、俺だけは訓練場に残された。


「ショータ、食え」


 隊長が突然、黒パンを手渡してきた。


「え? これは?」

「お前のメシだ。それを食ったら次の訓練は魔法だ。聖女様のご命令で、一か月でモノにしなければならないからな」

「は、はい……」


 俺はぼそぼそとした黒パンを無理やり飲み込んだ。


「よし。じゃあ、次は魔法だ。お前、攻撃魔法はどのレベルまで使える?」

「え? すみません。どのレベルっていうのが分からないんですけど……」


 すると隊長は大きなため息をついた。


「そこからか。まったく。見てろ」


 隊長はそう言うと、手を訓練場の中央に向かって突き出した。


「このぐらいか!」


 隊長は拳大の火の玉を飛ばし、数十メートル先の地面に着弾させた。


「それともこのぐらいか!」


 続いて顔ぐらいの大きさの火の玉で同じことをした。


「もしくは、ここまでできるのか! うおおおおおお!」


 隊長は両手でようやく抱えられるほどの大きさの火の玉を作りだした。


「はぁっ!」


 隊長は火の玉を撃ちだし、同じように数十メートル先の地面に着弾させる。


「はぁ、はぁ、はぁ。どうだ?」

「えっと、すみません。そう言う魔法は……」

「なんだと? なら生活魔法レベルか」

「その、生活魔法も……」

「なんだと!? はぁ。聖女様はなんでこんな奴を……はぁ」


 隊長は大きくため息をついたが、すぐに話を続ける。


「じゃあ、体内の魔力は感知できるか?」

「え? あ、はい。それは」


 亜空間キッチンに行くときや、食材を出したり調理するときにやっているのでそれは分かる。


「なら、魔力の放出に問題があるってことだな。魔法を使うには、体内で練り上げた魔力を正しく使う必要があるんだ。まずは魔力を練り上げ、右手の人差し指に集めて見ろ。一定以上集まると、こうなる」


 隊長はそう言って人差し指を肩ぐらいの高さで上に向けた。すると人差し指がぼんやりと淡い光を放つ。


「これが、集まった魔力がそのまま漏れてる状態だ。あとはこの魔力をどう使うかをイメージすれば魔法は発動する。たとえば、魔力の供給をこの太さのままにして、火をイメージすれば生活魔法の着火になる」


 すると隊長の指先にロウソクほどの小さな火が灯った。


「やってみろ」

「はい」


 俺は食材を出すときの要領で魔力を練り、指先に集めた。すると指先からものすごい光が放たれる。


「うおっ! 待て! 待て待て待て!」

「あ、はい」

「馬鹿野郎! 強すぎだ! もっと弱くやれ! あんなとんでもない量の魔力を火にしたら大事故だろうが! お前は加減ってものを知らないのか!」

「すみません」

「いいか? もっと弱くやれ。コントロールできねぇ力はただの凶器だ。まったく。聖女様も最初からそうと仰ってくだされば良いものを……」


 隊長はぶつぶつと文句を言ってはいたものの、熱心に教えてくれたのだった。


◆◇◆


 祥太が魔法の訓練を始めたころ、陽菜は聖女に呼ばれて中庭にやってきた。中庭には色とりどりの花が咲き誇っており、そんな美しい庭の一角にあるガゼボでは聖女が優雅にお茶を飲んでいた。


「ヒーナ、よく来たのう。さあ、掛けるが良いぞえ」

「はい」


 陽菜が腰かけようとすると侍従の男がすっと近づいて椅子を引き、着席を補助する。


「ありがとうございます」

「恐縮でございます」


 侍従の男はそう言ってニコリと微笑んだ。


「さて、陽菜よ。昨晩はどうじゃったかえ?」

「えっ?」

「ふむ。色々と用意させたはずじゃったが?」

「あの、なんのことですか?」

「寝間着じゃよ。できるだけセクシーなものを運ぶように命じておいたのじゃがな」

「ええっ!? あれって聖女様の命令だったんですか?」

「なんじゃ? もしや、彼氏は気に入らんかったのかえ?」

「しょ、祥ちゃんはそんな無責任な人じゃないですから、ちゃんとあたしのことを考えてくれてて……」


 恥ずかしそうにそう返事をした陽菜だったが、聖女はポカンとした表情を浮かべている。


「うん? 無責任? 何を言っておるのじゃ?」

「え? えっと、その、え、え、え、エッチなことは……その、あ、あ、赤ちゃんが……」

「む? なんじゃ? 赤子なぞ、そなたが作らなければいいだけの話じゃろう?」

「えっ?」

「ん?」


 二人は困惑した表情で互いの顔を見つめ合っている。


「……ふむ。まさかそこからとはのう。異世界は何もかもが違うのじゃな」

「すみません……」


 陽菜はよく分かっていない様子ながらも相槌あいづちを打つ。


「良いかえ? そなたの世界ではどうだったか知らぬが、この世界ではのう。意に反して子ができるなどあり得ぬ。単にセックスを楽しむか、ポンと男児を産んでやるか、それとも命がけで女児を産むか。それらはすべて女が自分で決めることじゃ」

「そうなんですね……」

「うむ」

「じゃあ、無理やりされて傷つく女の子はいないんですね……」

「無理やり? おかしなことを言うのう。もしや異世界ではそのようなことがあるのかえ?」


 聖女はやや驚いた様子で聞き返すと、陽菜は小さく頷いた。


「ふむ。なるほどのう。じゃが、この世界ではそのようなことは起こり得ぬ。筋力だけで魔力の弱い男ごときが、女に勝てるはずがなかろう?」

「えっと……」

「それに、じゃ。もし抵抗できぬ場面でそのようなことをしようとする愚かな男がおったとしてじゃな」


 聖女はそこでもったいつけるように間を置いた。


「は、はい……」


 聖女はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、言い放つ。


「突っ込まれているときに、モゲる魔法でも掛けてやればよかろうて」

「えっ? もげ……る……?」

「そうじゃ」

「も、もしかしてもげるって……」


 しどろもどろになっている陽菜の反応が面白いのか、聖女はいたずらっ子のような表情を浮かべている。


「ふうむ。まずはそこから教えてやるとするかのう」

「は、はい。ありがとうございます?」

「良いかえ? モゲる魔法はのう。体内のマナを……」


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 次回更新は通常どおり、2024/02/23 (金) 18:00 を予定しております。

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