怖い話「先生どこ?」
この物語を聞くときは、決して怖がってはいけません。
いいですか、絶対ですよ。
何があっても怖がらないでください。
真夏。
降り注ぐ太陽の日差しが、アスファルトを焦がし、ネクタイを緩めてもなお、逆に熱気がシャツの中に入り込んでくる。
そんなとても暑い夏。
時刻は5時頃。
この日は、教員採用試験があり、今は試験を終え会場を出たところだ。
会場からは出ていく二百をゆうに超える人の波。
その波の一人が私だった。
「暑い、疲れた、面倒」
一日中拘束された疲労感からか、そんなことを思いながら、歩いていると、か細い声が聞こえてきた。
「先生」
言ってみれば、ここは多くの先生たちが集まる場所。
数百いる先生たちの中。
私に対してかけられた言葉ではないだろう。
そう思い、歩き続けていると再び「先生」という声が聞こえてきた。
今度はそれと一緒に、服のすそが掴まれる感覚。
私が振り向くと、まず目に飛び込んできたのは小さな白い足。
夏に裸足…。
私はまずいと思って前を向いた。
反応したことに気づかれてはいけない。
それがこういった類に対する最も簡単な方法である。
ついてこられていないか、しばらく歩いてから振り返ってみるも、そこには何もなく。
私は嫌な汗を感じながら、先程よりも早足で歩き出す。
「先生」
またそんな声が聞こえた気がしたが、気のせいだと言い聞かせながら、早足で。
それから、学校での勤務に戻っても不思議なことは続きました。
クラスの人数を数えたら、一人多くなっていたり。
「先生」と声をかけられたと思ったら誰も居なかったり、
覚えのない児童との面談の予定が入っていたり…。
中でも、最も気になるのは、時々視界の端にちらつく白い足、そして白い手。
そして…夢。
「先生、先生」
夢の中で、少女が走っている。
「さびしいよ、先生」
夢の中で、少女が叫んでいる。
「先生どうして」
夢の中で、少女が泣いている。
「先生、どうして」
声が近づいてくる。
「せんせい、どこ」
夢はいつもここで終わる。
いや、目が覚める。
何故か嫌な汗をかきながら、安堵感からため息をつく。
こんな夢を見始めて、一月ほど経ったころだろうか。
ある日の朝、姿見を見ると、私の後ろに、少女がいた。
ただ、私の体が邪魔で顔が見えない。
思わず、振り返ったが、そこには誰の姿もない。
私は見えたことがバレないようにと背後に置いてあった鞄の中身を見るふりをしながらも、冷や汗が止まらなかった。
その日、一日をどうやって過ごしたのか、記憶にない。
その日は、特に何もない穏やかな一日だったはず。
ただ、「先生大丈夫ですか」と同僚の先生に心配されたことだけは覚えている。
そして…夜がきた。
またあの夢だ。
「先生、先生」
夢の中で、少女が走っている。
「さびしいよ先生」
夢の中で、少女が叫んでいる。
「先生どうして」
夢の中で、少女が泣いている。
「先生、どうして」
声が近づいてくる。
「せんせい、どこ」
夢から醒めた私。
嫌な汗をかいているのが分かる。
夢で良かった。
再び寝直そうと体の向きを変える。
そこにあった白い顔がぐちゃぐちゃに狂った笑顔でいう。
「先生みーつけた」
この物語を聞くときは、決して怖がってはいけません。
いいですか、絶対ですよ。
何があっても怖がらないでください。
怖がっていたら、バレてしまいますので…。
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