水降の短編集

水降 恵来

怖い話「深夜ドライブ」

 この物語はフィクションです。

 ええ、フィクションです。フィクションですとも。

 フィクションでないはずがありません。


 あれは 大学3年生の頃、夏も終わりかけの、確か9月頃のことだったでしょうか。

 当時、教育実習生として私は友人A、友人Bの二人と一緒に短期間アパートを借りて、暮らしていました。


 教育実習生って、どんなことをするのかご存じですか?

 授業を行う上で、指導案というのを書かないといけないんです。

 私たちが行っていたのが厳しい学校でしたので、指導案では、全体を見通した計画をたてて、この授業ではどんな力を伸ばすのか、そのためにどんな順番でどんなことを教えるのか、そしてどんなことを黒板に書いて、どんなことを話すのか、そして、予想される子どもの反応、そして、教材の準備、それら全てを毎日考える必要がありました。

 慣れない作業に毎日毎日、寝るのは時計が3時を回ってから。

 そして、毎朝6時に起きる生活。

 そんな生活が2週間以上続いたある日の話です。


 その日の夜も私たち3人は指導案を書いていました。

 時間は深夜2時頃、疲労もかなり溜まっていて、各々が同じ部屋で黙々とパソコンを叩く音だけが聞こえているそんな部屋で。

 突然、友人Aが立ち上がり言いました。

 「なあ、ちょっと気分転換にドライブでも行かない?途中でコンビニに行ってアイスでも食べようぜ」

 それに友人Bも

 「いいねえ」

 と立ち上がり、大きく背伸びをしながらその話に乗ってきました。


 当時、車を持っていたのは私だけだったので、ドライブに行くとしたら私が運転することに。

 その時は、私も作業には嫌気がさしていたので、「仕方ないな」と言いつつ、車を出すことにしました。


 私たちが借りていたアパートから少し進むと、片道三車線の大きな道に通じており、そこの道沿いならコンビニの一つや二つすぐに見つかるだろうと車を走らせることに。

 北の方角へ車を走らせていると、予想通りコンビニがすぐに見つかり、私たちは駐車場でアイスを食べてから戻ることにしました。

 しかし、私たちが通ってきた車線と対向車線の間には、普段交通量が多い為か、事故防止の柵があり、対向車線に出ることができません。


 そこで、私たちは、どこかでUターンしようという話になり、先ほどまでの道を再び走っていきました。

 しかし、しばらく進んでも、なかなかUターンできる場所も、ましてや交差点も見つからず、ただひたすら北へ北へと真っすぐ進んで行きました。


 深夜2時過ぎ、建物の明りは消えて、車線も減ってきて、街灯の明りすらなくなって…。


「ここどこだ?」

 最初に声をあげたのはBでした。


 その言葉に私は車のブレーキを踏みました。

 私たちがいたのは、古びた家が立ち並ぶ、車2台がなんとかすれ違えるかどうかといった小道。

 家のどれもが光が無く、あるのは、私たちが乗る車の明りのみ。


 先ほどまで、大通りを進んでいて、一度も曲がることなかったはずなのに、辺りは陰鬱とした雰囲気で満たされていました。

 一目みて分かるボロ家が立ち並ぶ通り、車外を見渡しても、街灯も、家の明かりも明り一つなく、静寂に支配された通り。


「とりあえず、車を進めるよ」

 その少し異質な雰囲気に、車内には重苦しい空気が流れていましたが、ひとまず車をゆっくりと走らせることに。

 すると、目の前に鳥居と小さな神社が見えてきました。

 道の真正面、そこに神社があり、道はその神社を避けるように左に伸びています。


 その道は車がすれ違うことはおろか、ドアを開けることすらできそうにないほど狭い道。


 私は神社の前で車を止めました。

「この道を通らないといけないのか…。」

 私が独り言のようにつぶやいたとき、後部座席に乗っていたAが話しかけてきました。


「あの神社行ってみる?」


「いやいやいや、ないわー」

「却下」

 友人Bも私も即刻否定しました。


「いや、でも気にならない?」

「気にならないって言ったら嘘になるけど、わざわざ行く必要なくね?」

AとBのそんな問答を聞きながら、私は再び車を走らせます。

狭い道、車体を擦らないように、気を使って運転しているとAがまた話を始めます。


「なぁ、神社行ってみようぜ」

 私もBも「だから行かないって」と話したものの、そのとき何かAに違和感を感じたんです。

「なぁ、神社行ってみようぜ」

 「行かないって」

「なぁ、神社行ってみようぜ」

 「しつこい」

「なぁ、神社行ってみようぜ」

 「・・・」

「なぁ、神社行ってみようぜ」

「なぁ、神社行ってみようぜ」

「なぁ、神社行ってみようぜ」

「なぁ、神社行ってみようぜ」


私とBは、お互いに何か嫌なものを感じたのか、後部座席の方を見ることもなく、返事をすることもなく、ただ友人Aの声を無視して、道をひたすら真っすぐ進みました。


 それからどれだけ真っすぐ走ったかは覚えていません、徐々に街灯の明りが見えて、車線が増えて、建物の明りが見えてきて…。

 私たちは当初走っていた方向とは反対側、大通りの南側から、元来た道へと戻ってきたのです。


 絶対に通るはずのない南側の道路から。


 「あれ、どうしてここに?」

 最初にそう話したのは後部座席に座るAでした。


 夏も終わりに近づくと、この話を今でも思い出します。


 私たちが行ったあの場所は、一体何だったのでしょう。

 そして、もしあのとき、神社に行っていたらAは、私たちはどうなっていたのでしょう。


 この物語はフィクションです。

 ええ、フィクションです。フィクションですとも。

 ・・・フィクションでないはずがありません。

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