第4話 経済格差

 山崎聡志は友人を誘って、焼き肉を食べに来た。


「ベーシックインカムってどう思う」

 山崎が言った。


「日本では無理だと思うよ」 

 物理学者の鈴木が言い放った。


「俺はやるべきだと思う。でも人口が多すぎる。2060年には9000万人を割るらしいが」

 香山義雄が言った。


「ベーシックインカムって、社会保障や年金問題、格差問題などを解決するのに有効な手段だ」

 財務省勤務の金田が満足げに言った。


「サウジアラビアって、教育費も医療費も無料で、所得税も住民税も無税だよな」

 山崎は言った。


「原油国でオイルマネーがあるからな。それにレンティア国家として国民に高福祉が提供できなければ、王室は支配の正当性を失うからね。しかし、原油価格の下落で雲行きが怪しくなっているから、必死で改革しているようだね」

 大地が言った。


「日本だって資源国だよ。日本は都市鉱山があり、金だって南アフリカの埋蔵量より多いんだ。日本はリサイクルしなければいけないよ」

 鈴木が楽しげに言った。


「日本の一人当たり名目GDPはサウジアラビアと同じぐらいだろう。日本だって出来ると思う」

 金田が誇らしげに言った。


「以前、サウジの2倍はあった。狭い日本、人口増やして年金どうするの。AIに就職先が奪われるのが分かっているのに、人口増やすなんておかしいよ。さらに、外国人の労働者受け入れで解決しようとするなんて、それに外国人の生活保護者も増加しているらしい」

と、大地が心配そうに言った。


「ベーシックインカムの財源は消費増税と法人税増税と金持ちの累進課税だろうが、200兆円の内部留保も問題になってから、今では500兆円を超えている。1974年、所得税最高税率75%だった。法人税最高税率は1984年43.3%だった。政府はどうなの、約83%に当たる330万円以下の所得層に、消費税を掛けるのに必死なんて。消費税は、税収の約40%だから。とにかく、100歳まで寿命が伸びたら年金が問題だよ。ただ、新NASAは年金運用の下ざさえになるから、政府も上手いこと考えたな。消費税引上げより効果的だと思う」

 と、山崎は不安と安心が入り混じった表情で言った。


「地球は一つ。分け合わなければ。地球創生46億年の歴史の中、産業革命後の200年ぐらいで、所有権を誰が主張できるんだ」

と香山が怒り気味に言った。


「世界の火山の25%もある日本は、人口を減らした方がいい。少ない人間で富を分配する日本にした方がいい。経済ばかり言っているが、資本主義を根本から考え直さないと世界つまり地球は破滅するかも。

 地球温暖化は問題だ。現在は顕生代第四紀完新世で、更新世の約260万年前から始まった第四紀氷河時代だ。そして、10万年周期で氷床の発達と後退を繰り返してきた。今現在は、氷床の後退期の1万年しか続かない間氷期だ。だが、その後の氷期は10万年続く」

と、大地が意味深に言った。


「確かに、現在は氷河時代だ。地球上に大陸並みの大きさの氷床が存在しているからね。氷河時代の要因として、地球の公転軌道の変化や太陽の出力変化、太陽系公転での分子雲の影響、大気の組成、プレートの動き、火山活動の影響などがあるとされている。 

 地球に資源がなくなり、住めなくなれば、月や火星に移住しなければならなくなる。そんなこと出来るわけないし、国として資金は必要だ。国民に分け与えるだけじゃ駄目だよ」

と鈴木は未来を見据えて言った。

「そういう場合でも、金持ちばかりが助かるという図式だろう。資源だって、都市鉱山のように再生できる。人口を減らせば、食料だって、世界中で分け合える。化学肥料で土地を使用不可能にしなくてもよくなる。生物絶滅のような大噴火もある」

と、山崎は言った。


「地磁気逆転は360万年前から11回はあったようだ。地球のバリアである磁場が弱まり、最高テクノロジーが破壊されるかもしれない。最後の地磁気逆転は77万年前で、今度いつ起こってもおかしくない。ちなみに中期更新世がチバニアンとして地球史に残るのだろうが、この時代の地磁気逆転は植物に影響がなかったらしく、人類にも影響がなかっただろう言われている。しかし、その時代には精密機器はなかった。

 でも、約3億6000万年前から2億6000万年前のカルー氷河時代にはベルム紀で95パーセント以上の生物種が絶滅した。それは、陸上植物の進化により、長期間にわたって地球上の酸素濃度が増加し、二酸化炭素濃度が減少した結果とされている。その後、氷河時代明けのジュラ紀には生き残った恐竜の繁栄と大量絶滅があった。


 そして、約260万年前にこの第四紀氷河時代が始まった。この中では、歴史に消えた古代文明がある。

 恐竜も人間同様にメタンを吐き出す事はお構いなし。この恐竜の吐き出すメタンは、現代の牛、山羊、羊などの反芻動物の吐き出すメタンと人間界が排出するメタンの総量と、ほぼ匹敵すると言われている。

 氷河時代でもない恐竜の時代は、現代より高温多湿だったらしい。現代が間氷期の氷河時代ということが信じられなくなる。こんな地球規模の異常気象に、人間はいつまで耐えなければならないのか。金星のようになるのか、雪球地球になるのかどちらにしても、人間は生きられない。

 今、他の惑星へ移住する事を考えるなら、この地球を立て直すことを考えるべき時に来たと思う」

と、大地が熱く語った。


「だから、お金が必要だよ。将来のために」

と金田が力を込めて言った。


「お金じゃない。知的生命体としての心だ。地球のような惑星は、天の川銀河の中に何千億個の恒星があろうと何千億個の銀河があろうとないと思う。地球は奇跡の産物だと思う。ただ、地球がなくなれば、また何億年かのちに、同様な奇跡の惑星で偶然の生物が生まれると思う。


 他の惑星へ行けても、今のままでは、地球同様に破壊するよ。地球その物も分かっていないのに、他の惑星のメカニズムが分かるわけがない。今は、世界の幸福を考えなければ。世界的にも人口は減らすべきだ。異常気象は人口爆発に合わせて発生したものだと思う。

 世界人口は2000年前、約3億人だった。それが、18世紀の産業革命以降、世界人口は増加の一途だ。1900年には約16億人、1950年には約25億人、1998年には約60億人、そして2020年には約76億人だ。予測では、2050年には100億人を超えていくと言われている」

と、香山がこの変貌を案じて言った。


「こんな事を話している俺たちは、牛肉を食べている。確かに、売れる牛肉のために、森林を伐採し畜産のための放牧をし、飼料を生産している。日本は、それを輸入し、このように美味しく食べている。また、化粧品やお菓子など食料品を生産するために、熱帯雨林を伐採して、パームヤシ畑を作っている。


 世界は今の食生活がやめられないでいる。そして、便利が普通になり、化石燃料を使い二酸化炭素を排出している。猛暑、豪雪、集中豪雨、突風、洪水、干ばつ、森林火災などが起こっても、気象のメカニズムを説明されるだけで現状を変えられないでいる。豊かさを選択しただけだ。地球の何千年いや何万年、何億年より、寿命の100年を選択しただけだ」

金田が人間の慣れを言い当てたように言った。


「でも、その100年を世界中の人が大事に生きてほしいだけだよ」

山崎は願いを込めて言った。


「人口が増えるのには、理由がある。人口爆発の原因は貧しさではなく、貧しさが人口爆発の結果なんだ。

 自給自足をしていた時代は人口が安定していた。しかし、先進国の大量消費、大量廃棄が人口バランスを崩した。貨幣経済が生産拡大を招き、その犠牲の上に発展途上国の人々の土地や家が奪われ、労働力としてしか生きられなくなっているという悪循環で、人口爆発が起こっている現実がある。医療の発展による死亡率の低下だけでない問題だ。

 そこに、農薬や化学肥料による土壌汚染が加わって、環境汚染や資源枯渇が起こっている。そして、全世界の水の7割が農作物に使われているが、世界中で水資源の枯渇があり、スラム街では1日バケツ2杯の使用制限があると言われている。ワイン1本652.5リットルの生産に、スラム街の人の2週間分の水が使用されているようだ。

 全人口に必要な穀物が生産されているにもかかわらず、3分の1が家畜の餌に使用されている。牛肉1キログラムの生産に6から20キログラムの穀物が使用され、飢餓人口が8億人もいる現実が一向に改められないでいる」

金田が経済格差の矛盾を指摘した。


「発展途上国の中には、貿易やグローバル化そしてサプライチェーンなど耳障りのいい言葉に惑わされ、その実態はモノカルチャー経済に苦しんでいる。主食にもならない商品作物を独裁者や軍隊を持つ権力者などに強制栽培させられている」

山崎が怒りを込めて言った。


「日本も食料の自給率を上げなければいけない。内需拡大は必要だ。」

と、香山は言った。


「無農薬の農業も必要だ。工作できる土地でなければ、宇宙移住の夢想状態に入る」

と、鈴木は言った。


「農産物を生産するために、地下水を枯渇させてはいけない。狭い日本で、1億人を超えているなんてあり得ない。先進国は、人口減少を経済に不利益と考える傾向がある。

 しかし、今の世界は国民間の格差を広げているだけだ。干ばつが、豪雨で解消されるかというと、それは違う。水資源は地球温暖化で年降水量が少ない年と多い年、そして少ない国と多い国など極端すぎる」

と、大地は言った。


 みんな、美味しいものを食べながら、沈んだ気持ちになっていた。


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