第21話 初秋

 ――やっぱり遠くから見てるのがいい。

 

 私は緊張から解き放たれて、ホッとした。友達と前を歩く佐野君はいつもの笑顔だ。

 

 きっと、佐野君は私と登校するの気まずかったよね。友達を見つけて助かった、という感じだったのかも。

 仮に私と付き合ったとしてもつまらないよね。

 そんなことを考えていたら少し気分が落ち込んできた。


「では、次の問題を解いてみてください」

 先生の声でハッとする。今は数学の授業中だ。

 板書はしているけれど、授業の内容はまったく頭に入ってない。


 ……また順位が下がってしまう。


 とりあえず、この公式に当てはめればいいんだよね。……あれ、なんかキリの悪い数字になっちゃった。


 数十分後、先生が口を開く。

「解けたかな? じゃあ、今日は二十日だから内藤さん」

 出席番号二十番の寿里が「はい」と返事をしてノートを持って黒板に向かう。


 寿里の答えと自分の答えを見比べる。

 えっ、違う。そんなキリのいい答えでは……。

「正解! よくできました」

 先生が微笑む。


 寿里の答えが正解なの? 

 悔しいけれど、寿里が黒板に書いた計算式を赤ペンでノートに写す。

 そっか、こうか……。なんだ、単純じゃん。

 それにしても、寿里って恋してるわりには勉強もしっかりしてる。


 なんか私って、この問題みたいに簡単に答えが出せることなのに、やり方を間違えて答えを出せなくしてるみたい。うまく説明できないんだけど……。

 別に誰にも説明しないけど、と自分にツッコミを入れていたら授業終了のチャイムが鳴った。


 のんびりと教科書やノートを片付けていると、「霧島さん」と声が聞こえた。

 佐野君が扉から顔を覗かせている。「佐野君」と私は立ち上がり、佐野君の前に立った。

「椎名君? 呼んでこようか? あっ、また教科書? だったら私が……」

「いや、違くて。あの、今日、帰り一緒に帰らない?」


 えっ。だって、朝……。私と、いやじゃないの?

「うん、一緒に帰ろう」

 聞きたいことはいろいろあったけど、私はあっさりと返事をした。


 佐野君は笑顔で「よかった。じゃあ、帰りね」と言って、隣の教室に戻っていく。

 私は席に着いた。なんだか、少し注目されていた気がする。

 ……だけど、椎名君にも寿里にも冷やかされなかった。


 もう、あれこれ考えなくていいのかな。自分の気持ちに素直になれば、答えは簡単に出るのかもしれない。


 そうして、佐野君と付き合うことになった。



*数学のように答えが出るしょしゅう

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