第20話 残る暑さ
なんだか自分でも呆れてしまう。
椎名君が好きだったのに。彼女がいようと友達がライバルだろうと一途に思い続ける覚悟だったのに。梨花にわざわざあんなLINEまでしたのに。
なんて言おう。正直に電車で見とれたって言う?
そんなことを考えながら、今日も佐野君と同じ通学電車に乗る。
K駅に着き、ドアが開く音がする。一つ隣の反対側の扉に目を向けた。
あれ? 佐野君がいない。
「あれ? 霧島さん! おはよう」
…………! 佐野君の声。びっくりして振り向くと、やっぱり佐野君だった。
今日は私が立っている位置の反対側の扉から乗ってきたようだ。
「おはよう、佐野君」
私は落ち着いて笑顔で挨拶を返した。
私は立ち位置を横にずらして佐野君が立つスペースを作る。
「初めてだね。朝の電車で会うの」
「だね」
……会話に困ってしまう。佐野君は椎名君のようによく喋るタイプではないし。
すると佐野君はいつものようにタオルハンカチで顔の汗を拭く。
ドキドキする。 ……遠くから佐野君のことを見ていたいのに。
そして、たいした会話もなく学校の最寄り駅に着く。
改札を抜けて外に出ると日差しが顔に当たる。
「まだまだ暑いなー……」
佐野君が言い、ようやく私は佐野君のほうを向くことができ、横顔を見つめる。佐野君の顔や首は、汗だくだ。
緊張しながら一緒に歩いていると、少し前を歩いている男子に気がついた。前に佐野君が追いかけて話しかけていた男子だ。
あの子に声かけなくていいのかな……。
「前にクラスの友達がいるから先行くね」
佐野君はそう言って走り出し、その子のところまで行ってしまった。
行ってしまったけど、よかった。
もう心臓がバクバクして窒息しそうだ。
*心変わりは残る暑さのせい、たぶん*
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