第17話 水羊羹
仲川梨花は、自宅のキッチンのテーブルで問題集を開いている。家族は出掛けているので集中して勉強できる。 とはいえ、最近、集中力がさほど長く続かない。スマホを覗こうか、いや、一度触るとずっと触ってしまう。と考えていたところに、LINEの音だ。結局、スマホを見てしまう。
友達からのLINEを見て、微笑み、片腕を上に伸ばした。
……佐野君のほうがいいのにな。
佐野君は背が高くて大人っぽいから、目を引いて、一年の頃からすれ違うたびに「あの人だ」と思っていた。
それにミステリアスな感じがあるから柚衣と付き合うことになったら、どんな人かわかるのかなって思って、少し楽しみだった。
でも柚衣は椎名君を好きだと言うのだから、もちろん応援する。
寿里ちゃんの思いが報われてほしい気持ちもあるけど……。
寿里ちゃんは私の前の席だ。茶髪にパーマ。初日は少し怖そうと思ってたけど、同じ中学だった柚衣に話しかけているのを見て少し安心した。
寿里ちゃんは、授業中や授業と授業の間の十分休みに後ろを向いて、私に宿題のわからなかった問題を質問することがたまにある。
ある日、「いつも聞いちゃってごめんね。椎名みたいに年上の恋人がいれば教えてもらえるのになぁ〜」とつぶやいていた。
寿里ちゃんは椎名君が好きだから、椎名君と付き合うことしか考えてないでしょ、と思ってしまった。もちろん、口には出せないけど。
「また寿里、梨花に宿題教えてもらってたでしょ」
柚衣は寿里ちゃんがいないところで少し嫌そうに言うけど、私は別にいやじゃない。宿題をそのまま写されているわけじゃないし、私も教えることで、より身についていると思うから。
それに、寿里ちゃんは教えてもらったお礼といってお菓子をくれる。パックで売っている個包装のチョコレートなんかを。
少し驚いたのは水羊羹をもらった時だ。個包装のチョコレートに比べたら重いし、渋い。
「親がお中元でもらったの。美味しいから食べてみて」
なんとなく、こういうところは柚衣の友達だなって思った。
「私、甘いモノつい食べ過ぎちゃうんだよね〜」
そう笑う寿里ちゃんの肌は荒れている。化粧でカバーしきれていない。
ふと、恋の病という言葉が浮かんだ。ただのニキビで大げさだけど、恋……というか本気の片思いって楽しいだけじゃないんだなって思った。
柚衣ものめりすぎなければいいけど。来年は受験生だし。
*宿題に付き合うお礼水羊羹*
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