第12話 夏休み
駅に着き、今日は解散となった。
椎名君は違う路線。佐野君は反対方面。寿里と私は同じ方面で一駅違うだけだ。
行きは、寿里は先に待ち合わせ場所に来ていたので早めの時間に乗っていたのか電車で会うことはなかったが、帰りは避けられない。
運良く電車がすぐに来て二人で乗り込む。この時間は社会人が多く、座れないので並んで吊り革に掴まる。
大人の夏休みは短い。学生はまだ夏休みだけど、多くの大人たちは働き始めている。
目の前に座る会社員風の女の人が寝ている。電車内は涼しくて気持ちいいからな。
私も社会人になったら疲れ果て、電車で他人の肩に寄りかかって眠ってしまうのだろうか。
すっかり暗くなった車窓を二人で見ている。中学時代の塾帰りを思い出した。
すると、寿里から口を開いた。
「今日はありがとう。楽しかった。梨花に悪かったかな。ホントは梨花が来るはずだったのに」
「ううん。本当は梨花、用事があるとかじゃなくて気分が乗らなかったみたい。それに梨花が寿里を誘えばって言ったんだよ」
「え? そうなの?」
寿里はホッとした表情をした。高校生になって変わったといっても根はいい子だ。それはわかっている。
「それにしても、椎名が柚衣に話しかけてたのって……そういうことだったんだね。柚衣は教えてくれないし、なんでだろうって思ってて。佐野ね! あいつ奥手そうだもんね」
……根は……いい子だ……。
「で? どうなの? 柚衣は。佐野のこと」
「えーっと……まだわからない」
「佐野いいやつだよ。真面目だし優しいし」
出た。いいやつ。それだけじゃ決められないじゃん。わかっているのにそうやって適当な友達には適当に勧めてくるものだ。
でも梨花にも佐野君いいじゃんって言われたっけ……。
「とにかく今日は楽しかった。映画は面白かったし、椎名のバイト先に行けたし、彼女に会えたし」
「椎名君ってさ、彼女いたんだね……」
フラれた者同士だと思い、ついつぶやいた。
「え!? ……クラスで知らないの柚衣だけだと思うよ」
呑気だねー、と言いたそうな呆れた表情だ。
え!? 寿里は知ってたの?
*夏休み他人の肩で眠る他人*
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