第11話 アイスコーヒー
夕方になると冷房の効いた店内は少し涼しく感じられた。羽織るものがあってもいいくらいだ。
椎名君と佐野君はアイスコーヒーを、私と寿里はホットを注文する。
椎名君の彼女が「砂糖とミルクは?」と問いかけると、佐野君だけが断っていた。
コーヒーのいい匂いがして、私と寿里の前には湯気が立ったコーヒーが置かれる。
砂糖とミルクを混ぜて一口飲むと、「あっつ」と思わず言ってしまった。
「ははっ、霧島、猫舌?」
猫舌と聞いてあの本のタイトルを思い出した。『カフェ店員と猫舌女』。寿里によると面白いらしいが、結局、読まずに返却してしまった。
何事もなく横でコーヒーを飲んでいた寿里がこちらを見ている。睨んでくるな、猫舌じゃない女。
それより……美味しい。梨花とたまに学校帰りにコンビニで買って飲むけど、それよりも美味しく感じた。どこかどうとかはわからないけど。
梨花にも飲ませてあげたいな、と思った。別の日に梨花と二人で来たら迷惑かな?
佐野君はブラックのアイスコーヒーを涼しい顔をして飲んでいる。苦くないのかな? 大人だな……。
「おいしかったー」とつぶやいたら、椎名君が「また来てよ。学校からも霧島の家からも少し遠いけど。佐野とも一緒に来てやって」と言って立てた親指を佐野君に向ける。
「え、えーと……」
佐野君は「困ってるだろ」と笑う。
佐野君。いまだにちゃんと会話したことないけど、本当に私のこと好きなの? 好きなんて言われてないか。気になる、程度か……。
店を出て、駅までみんなで向かう。
「楽しかったなー。またこのメンバーで遊びに行けたらいいな」
椎名君が両腕を夏の夜空に伸ばしながら言った。
「行こうよ。また! 四人で! 絶対!」
寿里が力強く言う。
そんなこと言って、寿里は椎名君と二人がいいんでしょ。
……だけど、寿里の言葉がなんだかうれしかった。
*甘くないアイスコーヒー惑わずに*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます