第9話 夏の陰

 ついにこの日がやってきた。

 十四時に映画館のあるF駅に待ち合わせ。


 椎名君と佐野君と寿里と私。

 寿里の私服はやっぱりかわいい。中学の時と趣味が変わっていて大人っぽい。ロングスカートが似合っている。意外にメイクは学校の時と同じ感じで派手ではない。

 私はと言えば……自分なりに眉毛を整え、化粧下地にも使えるという日焼け止めの上から安いパウダーをたたき、色付きのリップクリームをしたぐらいだ。

 

 意外にも寿里は照れているのか、椎名君ではなく、佐野君ばかりに話しかけている。一年の時、同じクラスだったらしい。

 

 駅を出ると、強い日差しが迫ってきた。

 ビルで日陰になっている道を椎名君と私、後ろに佐野君と寿里のペアで映画館まで歩くことになった。

 

 観るのはヒット作を連発する有名監督の最新作のアニメ映画で、すでに椎名君が席を予約してくれている。


「映画、久しぶりだなー。霧島はどんな映画よく見る?」

「えっと、映画館よりテレビでだけど、やっぱりアニメとか、あとは……ミステリー系かな」

「ミステリー? 俺、考察系のドラマよく見るよ」

「考察、流行ってるよね! 『黒幕は誰だ』見てた?」

「見た、見た! 絶対、同僚のアイツだと思ってたのになー!」

「あはは、私も怪しいと思ってたよ。でも普通に予想が多かった主人公の親友だったね」

 

 そして、好きな考察系YTuberまで話が発展した。

 

 私、普通に椎名君と会話してる。

 椎名君やっぱりいいな。こんな私とも話を弾ませてくれて。佐野君もいるけど、無理にくっつけようとはしないみたいだし。

 そしていつの間にか、“霧島さん”から“霧島”に昇格だ。

 

 後ろにいる寿里は私たちを見て嫉妬しているだろうか。佐野君も……。



*夏のかげ嫉妬の視線感じつつ* 

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