第8話 梅雨明け
その後も勉強は捗らず、期末テストの結果は前回よりも下だった。
帰宅後、残念な結果を見せられて明らかに元気をなくした母に「次頑張るから!」と言って自分の部屋へ逃げた。
あーあ、勉強も寿里に越されてたりして。……でも今はそんなことどうでもいい。
今日の放課後、ついに椎名君に遊びに誘われたのだ。夏休みに映画を観に行こうって。
もちろん佐野君もいる。「霧島さんも友達誘って」と言われたので、梨花に確認するため、スマホを取り出してLINEをした。
数分後、梨花の返信が来た。
〈ごめん、私はいいかな〉
え? 行かないの? 梨花も椎名君や佐野君と仲良くなりたいと思ってた。
明日も学校があるので〈そっか〜わかった〉とだけ送り、明日詳しいことを聞こうと思った。
梨花が行かないなら、誰を誘えばいいの? 思い浮かぶ顔はあるけれど……。
そして次の日。梨花から話を振ってきた。
「ごめんね、柚衣。あまり気が乗らなくて」
「無理しなくていいよ。私も正直どうしようかなって思ってて」
休日に私服で会うのは緊張する。でも誘われたのはうれしいからやっぱり行きたい。
「寿里ちゃん誘えば?」
やっぱり言われてしまった。そりゃあ、寿里は椎名君と遊びたいに決まっている。でも、私から誘われるなんてプライドに傷がつかないだろうか。……なんて、本当は寿里が来たら私がかすんでしまうという思いのほうが強い。
「考えてみる……」
放課後、椎名君に話しかけられた。
「映画、誰か行けそう? 別に、三人でもいいんだけど」
三人なんて、両手に花状態になって申し訳ない。クラスの女子に知られたら反感を買いそうだし。
「梨花を誘ったけど、用事があるみたいで」
ちなみに梨花はすでに部活に行っていて、いない。どうしよう、早く返事したほうがいいよね。それにしても私って梨花しか友達いないと思われてるかな……。実際そうなんだけど。
つい、寿里のほうへ視線を向けてしまう。目が合った。
「あっ、寿里に聞いてみる。いいかな?」
「内藤? いいよ、聞いてみて」
椎名君の許可がすんなり出たので、寿里の席へ向かう。
「寿里、ごめん突然。夏休みなんだけどさ、椎名君が映画観に行こうって」
「いいの? 私で」
寿里のことだから、聞き耳を立てていたに違いない。梨花の代わりだとわかっていて、少し卑屈になっているようだ。
「おう、行こうぜ! 内藤、どうせ暇だろ?」
椎名君も会話に加わり、寿里がうれしそうに「うるさい!」と笑う。意外と素直だ。私に誘われた屈辱よりも椎名君のことを好きな気持ちのほうが強いみたいだ。
私は複雑だけど、少しホッとした。
*誘われて誘う梅雨明けの教室*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます