第6話 五月雨

 六月に入った。下旬には期末テストが始まる。 

 中間テストの結果が返された時は焦った。

 受験を意識し始めている生徒が増えたのか、一年の時より順位が下がっていた。

 

 浮かれていたのかな。椎名君に声をかけられ、佐野君に気に入られていると言われ、何も進展していないのに寝る前にはありえない妄想ばかりしている。

 挽回しなきゃ! 放課後は学校の図書室で勉強しよう。

 

 ――放課後。

 図書室に行くと、特に読みたい本もないのに小説のコーナーを一通り眺めてタイトルに惹かれたものをパラパラとめくってしまう。今日は“恋”と付くものを特に。

 いやいや、勉強しに来たんだった。本はテストが終わってから!

 と、思いつつも勉強に飽きたら少し読もうと一冊手に取り、空いてる席に向かう。


 …………!!

 寿里がいる。教科書やら参考書やらを開いて真剣な表情で勉強している。

 きれい、だな……。誰かといる時より一人でいる時の寿里のほうがきれいだとふと思ってしまった。


 視線を上げ、私に気付いた寿里が「柚衣」と声をかける。


「あっ、寿里も来てたんだ」

「その本、私も読んだ。面白かったよ」

 寿里は私が手に持っている本を指差して言った。え? 『カフェ店員と猫舌女の恋』を?


「ホント? 楽しみ〜。久しぶりに本が読みたくなって。じゃあ、寿里頑張ってね!」

 私は振り向いて貸出カウンターに向かった。


 動揺して借りた本を鞄にしまわず、手に持ったまま足早に昇降口へ向かう。

 あーあ、勉強するはずだったのに。真面目に読む気もなかった本の表紙を見てため息をつく。


 外は雨が降っている。本が濡れないように鞄にしまい、しっかりファスナーを閉じた。


 傘をさし、さっきの会話を思い返す。……「頑張ってね」なんて、寿里は嫌味だと思っただろうか。

 そんなつもりはない。中学時代だったら、そのまま近くに座って一緒に勉強しただろう。


 なんだかなぁ。……家で、頑張ろう。



*図書室の友はうつくしつきあめ

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