第4話 春の草

「椎名と何話してたの?」

 

 帰りのホームルームが終わり、梨花に帰ろうと声をかけようと立ち上がったとき、寿じゅに話しかけられた。


 寿里は同じ中学出身だ。私たちの学年でこの高校に進学したのは私と寿里しかいない。

 私たちの関係は……あとで語るとして、寿里は椎名君と仲がいい。よく楽しそうにおしゃべりをしている。

 一緒に帰ろうと言われた、なんて言わないほうがいいよね。


「たいしたことじゃないんだけど」

「だから何を話してたの?」

 明らかに寿里は苛立っている。


「柚衣、間に合わないよ! 先行くよ!」

 梨花の無邪気な声に振り向く。梨花、ナイス。暇人の私たちに急ぐことなど何もないというのに。

「あっ、梨花待ってー! じゃあね、寿里、また明日」

 私はかばんを掴んで立ち上がり、すでに廊下にいる梨花のほうへ駆け足で向かう。

 後ろから「もうっ」という寿里の声が聞こえた。


「ありがとう、梨花。助かったよー。寿里って椎名君のことになると怖いね」

 梨花と一緒に帰るといっても電車は反対方向なので駅までの約十分の間だけだ。

「柚衣、椎名君と何があったの? それに……今日、七組の椎名君の友達とも話してたね」

「佐野君、知ってるの?」

 梨花とは一年生の頃も同じクラスだ。佐野君とは接点なさそうだけど……。

「佐野君っていうんだ。名前は知らなかったけど見たことはあったから」

「椎名君にね、その佐野君が私のこと気になってるから仲良くしてあげて、って言われたの」

「へぇ、そうなんだ」

「驚かないの? からかわれてると思わない?」

「そんな人じゃないと思うけど。柚衣は可愛いし。なんとなく合う気もするけどな」

 かわいい? 私が? 梨花はそう思ってくれてたの?

「佐野君、いいじゃん! 私は椎名君よりかっこいいと思うな」

「え? そう?」

 絶対、椎名君のほうがかっこいいと思うけどな。

 

 私のことを可愛いと言ったり、梨花の美的センスは変わっているのかもしれない。



*春の草男子の話してる帰路*

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