第3話 四月から

「霧島さん、ほらっ! コイツ!」


 一時間目が終わったあと、急に話しかけられ、振り向いて視線を上げる。

 ドアが開かれていて、一番後ろの私の席から廊下にいる椎名君が見えた。隣には……もしかして、この人が?

 私はとっさに立ち上がり、二人に近づく。


「昨日話した佐野!」

 その佐野君に視線を移す。この人が……。

 物静かそうな感じ。見た目は正直、タイプじゃない。椎名君のほうがかっこいい。


「どうも……」

 佐野君が頭を下げる。

「はじめまして」

 私も頭を下げる。

 

 よそよそしい私たちを椎名君がとりなすように「あっ、今日三人で一緒に帰らない?」と言う。

 

 急展開。でも今日は梨花と……。でも椎名君と一緒に帰れるなんて。でも私と佐野君をくっつけたいだけなんだよね。そう思うとテンションが下がってくる。でも……。


「ごめん、今日は梨花と約束してるから」

 でも、でも、を繰り返した結果、断ることにした。

「梨花って、仲川さん? じゃあ四人で……」

とう、いいから。急に言われても、迷惑だろ」

 佐野君は椎名君の頭を小突き、「ごめん、俺、冬李に教科書借りに来ただけだから。気にしないで」と言った。

「いえ……」

 確かに佐野君は数学の教科書を持っている。

 中だるみの二年生とはいえ、まだ四月なのに早速教科書を忘れるなんて。


「じゃあ、また機会があればということで」

 椎名君があっさりと笑顔で言う。


 二時間目が始まるチャイムが鳴り、佐野君は七組の教室へ、私と椎名君は席へと戻る。


 はぁ、椎名君と一緒に帰ろうって言われるなんて。

 でもまだ本気なのかわからない。椎名君と佐野君で、もしかしたらその仲間内で底辺女子をからかって面白がってるだけかもしれないんだから。

 だって私は佐野君と話したこともなかったし、可愛くもない。気になるなんて言われても信じられない。


 視線を感じて顔を上げると、梨花がこちらを見ていた。


 そしてもう一人……。


 

*四月から教科書借りる人だとは*

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