第24話 エリンギの塩バターソテー
朝、目を冷ました私はテントの外へ。世界樹の葉の光を浴びながら伸びをする。
ヴァルはまだテントの中で寝ている。今のうちに朝食を準備してしまおう。
昨日採ったキノコがまだ少し残っているので、それを使って料理をしようと思う。残りのキノコは……エリンギか。なら……。
「……塩バターソテーがいいかしらね」
よし。準備をして調理開始だ。
まずはエリンギを厚めにスライスする。
マッチを使ってかまどに火をつけて。
続いて、フライパンに油を敷いて温める。充分に温まったらエリンギをフライパンへ。エリンギの両面に色がつくまで焼き、塩とコショウをかける。最後にバターを投入して、それがエリンギによく絡んだら、完成だ。
バターの香りが食欲をそそる。パンと一緒にいただこう。
かまどの火を消して、私はふと自分の手を見た。なんとなく、手の平を眺めながら、何かが出てこないかとイメージする。が、何も発生しない。そりゃそうだ。私には魔法は使えないのだから、でも……もし魔法が使えたなら、と想像することはある。
もし魔法が使えたなら、私は……。
その時、テントからヴァルが出てきた。私は手の平から彼へと視線を移す。
「おはよう。ヴァル」
「おはよう……ん、良い匂いだな」
ヴァルは鼻をひくひくと動かしている。私が「エリンギの塩バターソテーよ」と言うと、彼はのそのそ近づいてきた。彼はフライパンの中の料理を見ながら嬉しそうな表情をする。
「良い匂いだな」
「ええ、パンと一緒に食べましょう」
「その意見には賛成だ」
私はフライパンからソテーを皿に移し、それを運ぶ。ヴァルは空間魔法を使ってパンを取り出してくれた。違いに向かい合って座り、食事を始める。
フォークを使ってソテーを一口。
口の中にバターの風味が広がり、濃厚な味を楽しみながらエリンギの触感をしっかりと感じることができる。
「我ながら上々の出来ね」
「ああ、良い味だ」
「それは美味しいという意味?」
「まあ、美味しい……な」
少し歯切れの悪い言い方に聞こえたが、彼の表情を見るに、照れているだけだと思う。彼も素直になってきたということだ。
パンをかじって時々ソテーを口にしながら朝食を続ける。
「今日は昼には目的のポイントについてキャンプを張る」
「うん」
「上層には魔蜂と思われる気配が集まっている。だから、奴らをキャンプ地点から安全に倒していく」
「うん?」
ヴァルの言葉に対して相槌をうっていたが、その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。キャンプ地点から安全に……そう聞いて、ある光景を思い出す。ヴァルが私に魔法の弓を見せてくれた時の光景だ。
「魔法の弓で狙撃するってこと?」
「そうだ。それが一番、安全かつ確実だ」
「その意見に賛成よ。安全であるに越したことはないわ」
「なら、決まりだな」
その後、食事が終わり、片づけも終わったら、すぐに出発することになった。
「エルシー。出発前に飲んでおけ。魔除けの効果がある」
ヴァルに薬の入った瓶を渡される。彼が昨日作っていた魔除けの薬だ。
「……分かったわ」
瓶のふたを開けて、匂いを嗅いでみた。あまり強い匂いはしない。一息にそれを飲んでみる。苦いが、飲めないというほどの味ではなかった。
「これ、本当に魔除けの効果はあるのよね?」
「効果は保証する。イレギュラーが起こらなければ安全なはずだ」
「そう。イレギュラーが起こらないことを祈るわ」
ヴァルが空間魔法でキャンプを収納し、次の目的地へ向かって歩き出す。
それから、道中とくに魔獣と遭遇したりすることもなく進むことができた。魔除けの薬は実際に効果があるのかもしれない。
しばらく歩いて、昼には無事に目的のポイントに到着した。私の目では魔蜂の姿を確認できないが、ヴァルはここから魔蜂を狙うことができるというのだから、魔法って凄い。
ヴァルが空間魔法でキャンプを張り、魔除けの結界も張る。すぐにでも攻撃を開始できるようだったが、ヴァルは「少し集中したい」と言って、その場に座って目を閉じてしまった。精神統一というやつだろうか。
私はどうしようかと考え、一応ライフル銃の手入れをしておこうと考えた。そこまで銃に詳しくないとは言っても、最低限の手入れくらいはできる。鞄をテントの側に置いて、その場に座り込んで銃の手入れをした。その後、腰に下げた弾薬ポーチも確認する。そこには充分な量の弾丸が入っていて、弾切れの心配は無さそうだ。
一通りの手入れと確認が終わったところにヴァルがやってきた。
「エルシー。何をしてたんだ?」
「一応、戦闘の準備をね。していたのよ」
「なるべく、お前が戦わなくても良いようにするつもりだが、何事も準備をするのは良いことだ」
そう言ってヴァルはうんうんと頷いた。そんな彼に私は質問する。
「ヴァルの方こそ、集中はできたの? 精神統一ってやつ?」
「ああ、集中できた。が、腹が減っってしまった」
タイミングよくヴァルの腹の虫が鳴った。グウゥ……と可愛い音だった。彼は恥ずかしそうな顔をしながら「何かを作ってくれないか」と言う。
「何か、力のつきそうな美味しいものを」
ヴァルから美味しいものを作ってくれという注文がきた。もちろん、その期待には答えたい。
「分かったわ。とびきり力のつく、美味しいものを作ってあげる!」
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