四章 美しきもの
ジェームズの訃報には全平民が涙を流した。勿論平民だけでなく、キャサリンも、ミリアも、トムもそしてレオも、更にはジェームズをあまり良く思っていなかったはずの王族や貴族までもが、ジェームズの葬式に出席し嘘偽りない涙を流した。平民達は数が多すぎるので葬式には出席できなかったが、平民達の分以上にキャサリンが涙を流していた。
しかしながら何故、王族、貴族達は嘘偽りない涙を流せたのだろうか。いくら気高い王族や貴族であってもジェームズへの不満は残るはずだ。王族、貴族達が偽りない涙を流すことができた理由は、ジェームズの行いにあった。ジェームズは癌が発覚してから亡くなるまでの僅か四か月の間、罪滅ぼしに精を出した。まずは王族や貴族への謝罪、次に騙していたことを平民達に謝罪、最後は金の力で殺めてしまった人達への謝罪と墓参り。ジェームズはすっかり痩せ細ってしまった身体を精一杯動かし、毎日歩いた。自分の為ではなく他人のために。セバスに車椅子を押してもらいながら、国民一人一人の家を訪ねて贖罪をしたのだ。それだけで消えるほど軽い罪ではなかったが、精一杯体を動かし、精一杯謝罪するジェームズの姿は、次第に国民達の心を動かしたのだ。裏切られた平民も、被害者の遺族も、嫌がらせにあった王族、貴族達も最後はジェームズの為に涙を流したのだった。
葬式が終わり、暗く重い空気が漂う中でレオはセバスに声をかけた。
「ねえ、セバスさん。」
「なんでしょう、レオ様。」
「お爺様のこと好きだった?」
「そうですね、大好きでした。」
「そっか、どんなところが好きだった?」
「それはもう全てでございますとも。」
「悪いことをしているお爺様も好きだったの?」
「ええ。」
「どうして?」
「ジェームズ様は悪いことをした時に必ず、私に報告するのです。少し眉をひそめて、目線を逸らしながら。楽しそうに悪い話をしている時でさえ、決して私に目線を合わせませんでした。」
「それはどうして?」
「罪悪感があったのではないでしょうか?本当に罪を償う気がない人間ならば、そんなことはせず堂々と目線を合わせ、大笑いすると私は思います。私はジェームズ様のそんなところが私は好きでした。人には必ず美しきものがあります。」
「美しきもの?」
「はい。どんなに悪い事をした人にも必ず人を魅了し、惹きつけるものがあるのです。きっとレオ様も近いうちにそのことに気づくでしょう。人生は有限です、美しきものを見つけることは、レオ様の限りある人生を彩る重要な存在となるはずですよ。」
「そうなんだ、ありがとね!」
「いえ、お気になさらず。」
レオは話を終えるとミリアとトムの方へ駆けていった。セバスはその小さな背中に美しきものを感じたのだった。
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