二章 青薔薇少年
クーフォイ家に奇跡が起きた、神童が生まれたらしい。当主ジェームズの一人娘であるミリアが、名門を首席で堂々と後にした秀才のトムと結婚し、愛を育んだ結果だろう。
トムはその群を抜いた賢さよりも品行方正の印象が先を行くほどの好青年であった。
そんなトムの結婚をなぜ性悪のジェームズが了承したのか。
その理由は私情を多分に含んだもので、結婚の許しを貰いに来た愛娘ミリアが、知らない好青年に自分には見せたこともない頻度と完成度で笑みを向け続けるのに耐えきれなくなったからだった。ジェームズにとって相当な苦痛だったに違いない。
ジェームズに似て性悪だったミリアの棘を削ぎ落し、一途で可憐な恋する乙女に変貌させたトムには結婚について怪訝な顔をしていた外野の貴族達の度肝を抜いた。
二人の周囲に溢れるほどの幸せはミリアが改心したことによる神の祝福だろう。ミリアのトムとの子供が欲しいという願いも叶い、ミリア・レドールは幸せの絶頂にいた。
神童が生まれたと分かったのは出産から時が経ち、レドール家がクーフォイ家に成長した息子のお披露目をしに来た時だった。4歳になったばかりの神童、レオはジェームズが知性の低さを誤魔化す為に買って以来一度も読んだことがない分厚い植物学の本を手に取り、その綺麗な青色の瞳を輝かせながらミリアの元へ駆け寄っていった。
「ママ。薔薇はね、何色もの花を咲かせる綺麗な植物なんだけど、青の薔薇はまだ発見されてないんだよ面白いね。」
「そうね、とても面白いわね。何の本に書いてあったの?」
「薔薇を35年研究してるレンブル・ロバートっていう学者さんが書いた植物学の本!」
「そうなのね、凄い人が書いた本なのね。他にはどんなことが書いてあったの?」
「他にはね、薔薇の棘は薔薇が自分の身を守るためについてるんだって!」
「パパにもその話聞かせてくれないか?とても面白い。」
「うん!えっとねえっとね」
レオのその好奇心と探求心、何より知性はジェームズとその妻キャサリンの理解の限界を容易く超えた。クーフォイ家特有の真紅の瞳が丸く大きくなっている。流石のジェームズも薔薇の話をしているのはわかる、レオがどれだけ植物が好きなのかもわかる。それはもう痛いほどに。わからないのはそこではない。なぜこんなにも流暢に言葉を喋り、なぜこんなにも簡単に文字が読めるのかそれが分からなかった。齢四にしてなぜこんなにもオーラがあるのかが分からなかった。クーフォイ家に奇跡が起きた、思考が止まる程の奇跡が起きたのだ。
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