青薔薇少年 アルファポリスにて重複投稿

ソウカシンジ

一章 クーフォイ家

 由緒ある貴族、クーフォイ家の話をしよう。クーフォイ家には富も地位も名誉も知性もあった。学問一つをとっても500年続く一族の歴史の中で、誰一人として名もなき門を潜るものがいなかった程だ。正に完璧な一族であるクーフォイ家は、平民の憧れそのものだった。ひとたび街を歩けば瞬く間にその噂が広がり、町が傾くかと言わんばかりにクーフォイ家目掛けて人が押し寄せた。更には手を振れば奇声が、微笑みを浮かべれば啼泣が町中に響いたそうだ。しかしながら、王族や貴族の間でのクーフォイ家の評判はとても良いものとは言えず「クーフォイ家は一見とても美しいが、その実は人をも殺める棘を持つ薔薇のような一族だ」と散々ないわれようだった。由緒ある貴族であるはずのクーフォイ家に何故そのような評価が下るのだろう。クーフォイ家の完璧な力を妬んでだろうか。気品のある貴族や王族がそのような卑しい感情を抱くとは思えない。

 では、その評判が本当なのかどうか真実を確かめてみるとしよう。今から見せるのはクーフォイ家のいつもの様子だ。いや、何かが違うみたいだぞ?

「我らには名門を潜るどころか、低俗な平民共の通う汚らわしい学舎に入る知力もないが、先祖代々受け継がれてきた天性の豪運を賭博で遺憾なく発揮し、一攫千金を繰り返してきたお陰で有り余る金を使っていとも容易く名門を潜ることができた。それだけではない、金をちらつかせ薄汚い心を持った数少ない貴族どもにクーフォイ家の評判を上げる噂を流させ、最終的に蹴落とすことで完璧な貴族という地位と、全ての平民に慕われる名誉も手に入れた。どんな努力も才能も金の前では虚しく霞む、全てが馬鹿々々しく思えてくるぞ。なあ、セバス。」

「誠に同感でございます、ジェームズ様。」

「実につまらん、お前の返答はいつも面白みがないな。まるで心にもないみたいではないか。」

「そんなことはございませんとも。私はジェームズ様のお話、いつも楽しんで聞いておりますよ。」

「まあいい、お前はこのジェームズ・クーフォイが側にいることを許した唯一の人間だ。それぐらいは大目に見てやろう。ところで、ミリアの様子はどうだ?」

「とても順調で体調も安定しているようですよ。出産予定日は…丁度今日ですね。」

「なにっ!それを早く言わんかセバス!急いで病院に行くぞ!」

「早急に準備いたします。しかしながらジェームズ様、ミリア様からは婿様と二人での出産をしたいと希望が出ております故、その希望を無視して立ち会ってしまうのはいかがなものかと。」

「そうか…仕方がない前言撤回だ。ミリアの可愛さに免じて孫が我が家に来るその時まではここで待つとしよう。」

どうやら噂は本当だったようだ。流石のクーフォイ家も王族や貴族までは騙せなかったらしい。それはそうともうすぐジェームズの娘のミリアが出産するようだ。はてどんな子が生まれるのやら。

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