第4話(中学生視点)

「あ゛~…はずかしい…」

 中学生になって一ヶ月が経った夜。俺は布団の中で悶えていた。理由は人様の家でした失敗のせい。中学生にもなって、恥ずかしい。でも…ふわふわのタオルで髪を拭いてくれた手、帰る時に渡された、あとは乾かすのみの衣類、気にするなって叩かれた背中。優しくて、かっこよくて。凄くドキドキしてしまった。これが、憧れってやつなのかな…


(ヤバいヤバいヤバいヤバい!!)

 小学校の時より少し遠くなって複雑になった通学路。僕は制服姿で誰もいない道をおちんちんを握りしめながら走っていた。帰り道はよく、おしっこが漏れそうになる。

 なぜなら、僕は立っておしっこが出来ないから。

 小さい頃からトイレ周りが汚れるからと、立っておしっこすることを母さんはすごく嫌った。便器周りを汚すたび、ひどく怒られていたことから、立ちションの技術が進歩しなかっただけでなく、立ちション自体に苦手意識を持ってしまうようになったのだ。

 危険な時間帯は4時間目と、そして放課後。なにかと人の多いトイレで、一人個室に入るのが恥ずかしくて、ついつい我慢してしまう。朝は何度もトイレに行ってお腹を空っぽにするから、昼休みの人がいない時間帯まで我慢することは簡単だ。でも、牛乳やお茶を飲む昼休みが明けてからの我慢は辛い。授業は2時間だから我慢できる。でも、帰り道の途中でとてもしたくなるのだ。多分学校ではないことと、あとは帰るだけという心の緩みからだろう。加えて小学生よりも長い授業時間に移動時間。小学生の時でさえギリギリだったのに、さらに切迫した戦いを強いられることになってしまったのだ。

(う~…おしっこおしっこ…)

初めての6時間授業。もちろん、お腹にはたっぷりのおしっこが詰まっているわけで。右肩にかかった重い鞄は、前押さえを邪魔してくる。

もみ、もみもみもみ…

 6時間目の体育の後、あんなにお水飲むんじゃなかった。あとは帰るだけって思ったから油断していた。学校でしてこれば…それも思ったけど、掃除当番がいて、入りづらい。だから、一刻も早く家のトイレにありつけるよう、飛び出してきたのだ。

(も、漏れる漏れるぅ…)

きゅん、とおしっこが出ようとする感覚。立ち止まり、ぎゅ、ぎゅ、とおちんちんを上に押し上げる。

(っふぅ、おさまった、早く、帰らないと…)

時間が増えた分、おしっこ我慢がキツい。今の尿意は小学校の頃のエレベーター待ちの時くらい。動いている分、楽に感じるけど、気を抜いたら溢れ出してしまう。引っ張って、伸ばして。指で揉み込むように、波が来た時は緩急をつけて手のひらで。色んな触り方をして、おしっこをなんとかお腹の中に留めて、迎えたアパートの扉。ひたすらに走ってエレベーターのボタンを押す。

「早く、早く、」

おちんちんを握り締めながら、お腹を吸い上げながら、もうすぐという油断からくる強烈な尿意に耐える。狭いスペースの中をぐるぐる移動しながら。

(おしっこ、おしっこ、おしっこ、おしっこ…あっ)

「ぁ…」

ふと振り返ると、隣に住んでいるお兄さん。買い物袋を下げている。

「こんにちは…」

咄嗟に離した手。代わりにベルトを両手でぐいぐいと引き上げた。

(もう、中学生だもん…おちんちん握るのなんて、恥ずかしくてだめ…)

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