第3話(大学生視点)

「あっ、え、」

ゆっくりとこちらを見た顔は、ゆでだこのように赤く、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

「もう我慢キツイだろ。うちでしてけ」

なるべく反応しないように、なんでもない風に言ってやる。

「…はい、すみません…」

消え入るような声。波が引いたのか、恐る恐る立ち上がった。

(重っ、)

カバンを持てないってことは明確だったため、重い重いカバンを肩にかける。そして、手に持っていた鍵ですんなりとドアを開けた。

「ほら行ってこい」

「ありがとう、ございます、」

よち、よち、よち、よち…

膀胱が少しでも揺れたらアウトなのだろう、エレベーターを降りた時のようなアグレッシブさはなく、頭に本でも乗せてるのかってぐらいに歩みは遅い。

(せめて便器の準備をしといてやろう)

歩いて数歩の距離だが、彼にはまだ半分以上の距離がある。腰を突き出して、足をクロスしながらだから歩幅が極端に狭いのだ。彼の隣をすり抜けて、放出場所の扉をあけて、便器のフタを開けた。のがダメだったようだ。

「ぁっ、」

力の抜けた声。と同時にブカブカの制服を滑り落ちる、大量の尿。萌え袖気味になっている小さな手は白くなるまで力を込めている。のにも関わらず、その液体は止まることはない。

「あ、ぁ、ぁぁ…」

口をだらしなく開けて、足もプルプルと震えて。でも手には力を入れようと頑張っていて。

ばちゃばちゃばちゃ…ぱちゃ…しゅぅ…

あっと言う間にできたフローリングの床の水溜り。前を押さえた少年は、全てが終わったあとも、一歩も動くことはなかった。

(マジで漏らしたんだ…)

最後に自らが漏らしたのも、他人の失敗を見たのも、もうかなり昔の出来事である。こんなに盛大にやらかしたのを見るのが久しぶりすぎるからか、ドク、ドク、と何故か心臓がうるさかった。

(とは言っても…)

目の前の放心し切った少年をそのままにしておくわけにはいかない。幼い子供の相手の仕方もまた、とうの昔に置いてきてしまったため、困惑してしまう。

「とりあえず着替えるか。シャワー使え」

背中を2度3度叩き、そう声をかけてやると、突然背中が震えだす。何故かはすぐに分かった。目に溜まっていた涙の層がどんどん分厚くなったから。

「ごめ、なさっ、ごめ、なさいっ、」

しゃくりあげるような泣き声。顔を別の意味で赤く染め、チンコを手から離せないまま、涙を流す。

「そんな気にすんな。誰でも失敗ぐらいするから。服洗濯回しちゃうから早く脱げ」

「はい…」

何とか風呂に押しこんでから早3分。しゃあああ、とシャワーの音が鳴り響く。

(とは言っても…)

制服の洗濯ってどうすれば良いんだっけか。彼に聞いても多分分からないだろうし、自分の時の記憶は曖昧。

(へえ、洗濯機でいけるんだ)

裏に付いているラベルを見ると、それが分かり少し安心した。

 でも、何だろう、このドキドキは。

ズッシリと重さを含んだかなり小さなズボン。微かなアンモニア臭。昔は履いていたなぁ、感傷に浸りそうな薄黄色に染まった失敗ブルマ。

(なんで…)

ふと下半身に違和感。痛みを感じるほどに勃ち上がっていたソレ。

(俺、変態じゃん…)

若干幼さを残した、今にも泣きそうな、不安そうな顔。ぶかぶかの学ランで必死にもじもじを隠そうとする姿。そして、あの、放出劇。

(やめろやめろ、俺はショタコンじゃないからなっ、)

 戸惑いを隠せないまま、その邪心を払うべく、投げつけるように失敗衣類を洗濯機に入れた。

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