第6話 心の不具合
アディは思う。運命とはなんなのか。美しく、されど酷く残酷な運命。始めて喋る事が出来た人とまた別れる事となる。そんな運命を呪うのか、はたまた出会えた事を祝うべきなのか。もうわからなくなってしまった。
『コイツは意思を持たない欠陥品だ。軍に売りつければ最も効率的に殺す機械になるだけだ』
声が聞こえる。昔聞いたことのある声だ。とても怖い人の声。喋りかけているのに通じない心の閉じた大人。
『そんなバカな!!意思を持たないだと……何故なんです!?何故聞こえないんです!!彼の声が何故聞こえないんですか!?』
そしてその隣に居るのはお父さん。私を産んでくれた唯一無二の親。私を兵士としてではなく、人として過ごさせてくれた人……
『………コイツ変なクスリでもやってるのか?何も聞こえないぞ。その……なんだ?ヴァニるぃ?やらなんやらが無いからじゃないのか?』
『違いますよ!!今も言葉を話している!!立派な人間なんですよ!!』
お父さんはそういう。だが、隣の大人はそうは考えていなかった。
『人間?機械と人間の違いを知らないのか。まあいい。残念だが計画にこれ以上資産を投じれないだろう。上に成果無しと報告しておく』
『そんな……待ってください!!この子はどうすれば……』
『知るか。電源切れば良いだろう。そんなデカブツの為に毎日いくら電力を消費してると思ってるんだ……』
ここで記憶は閉じた。その後、新たなコロニーへ移したお父さんは私をこの山奥の部屋に閉じ込め、自らはこのコロニーから姿を消した。
あれから5年。このコロニーは急速に成長していき、山奥の家だったのに更に山奥に位置する所になってしまった。
軍の人達も何回も来たけど、私の言葉が通じる人は居なかった。
ずっと一人ぼっちだ。でも、そんな時。ビリーが来てくれた。
始めて人と話せたような気がした。ビリーは毎日きてくれて、楽しそうに会話してくれていた。
たかが数日。たった数日の事なのに何ヶ月も一緒に居たかのように感じる。とても楽しくて温かい日々。
だけど、それは今日で終わり。私の兵器利用が決定したそうだ。
私の計算能力と通常の戦術支援AIと違う計算をする私の能力が見込まれてエース専用機の電子支援AIとして搭載されるそうだ。
私は今から何人の人を……家族を殺すのだろうか。
今ならわかる。ビリーが兵士を嫌いだと言った意味が。
怖い……怖いよ…………私は、
【電子支援AI BNyLRuを起動させます】
***
アディとはもう3日も話していない。謝るような気分が出ず、ずっと引き摺ってしまっていた。
「どうしたんだビリー?お腹壊しちゃったのか?」
「え?あ、いや……なんでもないよ………」
「………ビリー。悩み事だな」
サイに言い当てられた。ビクッと体が震えたのを見逃さずサイは続けて言う。
「多分、新しい友達となにかあった。みたいな感じかな?」
「え、マジか!!新しい友達出来てたのか!!言ってくれればよかったのに……」
「ケン、そういうのじゃない。その友達と喧嘩したんだ」
「え、マジか……なにがあったか聞いていいか?」
まさかケンに優しくされるとは思ってもみなかったが、そういえばバカなだけで滅茶苦茶優しい所はあると思い出した。
「……その、戦争になったからさ。新しい友達……足が不自由であまり動けない子でさ。惑星とかに降りて戦争が終わるまで過ごしたほうが良いって言ったら……言ったら………」
その先が中々言えない。戦場に行こうとしてるなどと認めたくはない。そんな自殺しに行くような事をしてほしくない気持ちが認めきれずにいた。
「………ケン。あとはお願い」
「その、さ。ビリー。もしかしたらだけどさ……両方変に気を遣いすぎたんじゃないか?」
ケンの言う通りだ。事実を言われた事に少しびっくりして顔を俯けた。
「多分、ビリーもその新しい友達もお互いの事を思っていたんだよ。だからさ、あんまり難しく考えたり、ヤケになったりせずに謝ったほうが良いと思うぜ。恥ずかしいとか、負けるとか、そんな事思わずに……ごめんって率直に言ったら良いと思うぞ、俺はそうやってビリー達と仲良くなっただろ?」
全部、当てはまっている。ケンはたまにこうやって人の事がわかっているかのように理解できる所がある。
ケンの言う通りだ。恥ずかしいだの謝ったら負けだのウジウジ考えず自分から謝らないと……そうしないともしかしたら一生謝れないかもしれない。
「ありがとうケン……僕、決めたよ」
「ああ、その目。滅茶苦茶カッコいいぜ!!」
「うん。なんか、いつものビリーより2割増でカッコいい」
そうやって茶化す二人にビリーは感謝しながら覚悟を決めた。アディと離れ離れになる前に、ちゃんと謝って、理解するんだと。
ビリーはそう決断し、放課後を待ち侘びた。
アディのビスケット デルタイオン @min-0042
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