第5話 傷付いた優しさ
ビリーは学校が終わるとアディの元へ向かった。あの放送を聞いてから感じていた恐怖。それは自分だけでなく、他人が居なくなる恐怖もあった。その恐怖が一番強いのがアディであった。
あのカプセルに入っていると逃げる事が出来ないのではないか?と考えたがビリーはすぐに逃げるようアディへ言わなくてはと使命感に燃えていた。
「アディ!!今すぐに逃げるんだ!!ど、どこか安全な所に逃げないと……」
『ビリー……戦争の事ですね。大丈夫です。その事についてはもう対策を取ってあります』
だがビリーが考えていた事はアディも考えていたそうだ。その言葉にビリーは一段落ついたような安堵感に包まれて走ってきて疲れた体を労るように椅子に座った。
「良かった……安心したよ。アディはどうするの?やっぱりもっと安全な惑星とかに降りるの?」
『そうですね……そういう感じかもしれませんね……』
単純な興味本位な質問だったが、アディの言葉とライトの発光具合からなんだかあまり良くない質問をしてしまったようにビリーは感じた。
考えうる中でいけなかったものとは何か?答えを出す前にアディはフライングして答えを出した。
『正直、ビリーとは距離の関係で二度と会えないのかもしれないと思っています。我々の間に電子通話はありませんから』
「そうなんだ……」
そう、アディのカプセルのシステムは民間のものではなかった。そのためアディとスマホの通話アプリで話し合う事が出来ないのだ。
「でも、生きていればいつかまた出会えるかもしれないよ。その時になったら、昔話でも一緒にしよう」
この言葉は受け売りだ救助船に拾われた時の艦長に言われた言葉で、今もビリーの心に残っている名言だ。
生きていればそれだけで良い事だ。死んでしまっては元も子もないのだから。アディもこのようなカプセルの中に入るような生き方なのにそれでも生きている。ならば最後までその生き方を貫き通すほうが良いとビリーは思っている。しかし、アディはそうは思っていないようだ。
『ビリー。私には生き甲斐というものが無い。人とあまり話していなかった私とずっと会話してくれていたのは君一人だけなんだ。生きているというのは何かを必要としている事と同義。その必要な要素にビリーが居るのです』
始めてアディから聞かされた思い。自分が必要とされているという告白のような言葉。しかし、それとは別に居なければ死んでも仕方が無いと考えているという諦めたような言葉。
ビリーはなんて返せばいいか思いつかない。まだ少し幼いこの頭では的確な返し方が思いつかないのだ。
「で、でも……それは……」
それは駄目だと言えば良いのに。そんな考え方はやめようと言えば良いのに。なのに自分の口は動かなかった。それに……
「……アディは本当に大丈夫なの?」
ここまで生きるのが絶望的だと遠回しに言われればビリーとて気付く。アディは安全な場所に行くのではなく、危ない所へ行くのではないか?
『……ビリー。今日は帰ってください。明日は……来なくて良いです』
だが、アディは答えない。ライトも消え、どんなに質問しても沈黙を保つような感じがする。
ビリーはこれ以上は何をしても無駄だと悟り、出口へ向かう。
「………アディのバカー!!」
途中、むしゃくしゃした心の鬱憤を晴らすように悪口を大声で叫び外へ飛び出していく。
せっかく心配したのに……あんな返し方をして来るのだ。ビリーはアディの事を少し、嫌いになってしまった。
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