第31話
三人が眠るのを見守り、【シストラム】の調整を再開した。
【シストラム】にオレ好みの細かい調整を施す。
まずは発動に関して時雨には記憶領域に【シストラム】専用の魔力タンクを増設させてもらう。この魔術によって生まれた猫は持ち主を守る。守るなんて簡単な言葉だが、何から守るのか明確に作り上げなければならない。【シストラム】はあくまで補助だ。
ここがあまりにも難しいのでもう諦めてオレの記憶欄から自己防衛に関する記憶を探し出し抽出――防衛対象を時雨に切り替えて植え付けた。不具合が生じるかも知れないがそこは要調節で。
便利に活用できるように痒い所へ手の届くような仕様を追加する。
生物では無いので、色々な形に変化できるように調整を施す。例え高い所から落下したとしても空気抵抗を利用して落下速度を軽減し、膨らんでクッションとなることで守るようにも機能を増設する。
空間に遊びを作り、発動者の望む形に関する答えを刻んでゆく。
高い所にある木の実が欲しいと発動者が望めば、猫は木に登り木の実を採り持ち戻る。
発動者はあくまでも時雨なので最初の顕現だけは時雨の魔力を利用しなければならない。
現れた猫に自然より魔力を吸収してため込む性質を足す。そうすれば持続性が良いかもしれない。一度貯めた魔力は時雨の魔力タンクに保存され、顕現する時に持ち出されるように付け加える。時雨は戦士タイプなので魔術回路と本来のタンクは繋がっていない。時雨に魔術を使えるようにはしない。あくまでも【シストラム】専用の魔力タンクを増設するだけだ。
猫は時雨を守る。
使える魔術は、【ネイル】、【蔓蛇】、【継修】、【継再】の四つだけだ。
回復魔術は自分にしか発動できないように縛りを入れる。この縛りで文言を軽くし僅かだがコスパ(コストパフォーマンス)を上げる。使える魔術を増やすと重くなるので最低限で留める。いざ使い発動が遅くてダメでした。なんてことのないようにする。
自分を回復する機能は、あくまでも自己治癒能力を高めて施す演出へと切り替える。他人を回復する機能を付け足さないのは、他人にとって都合の良い存在になって欲しくはないからだ。自分を何よりも大切にしてほしい。
あらかた出来上がった。
最後に組み込むのは武器化だ。
これ自体はそこまで凝らなくてよい。尻尾を掴めば武器になる。材質は黒檀(ダマスカス)。武器に変わった直後に硬さのみ黒檀化する。時雨には槍を教えているけれど、剣にも短剣にも変化するように調整する。形と色をシンプルにすることで文字数を減らす。剣、斧、槍、棒、ナイフ。これぐらいで良いだろうか。
減らした文字数にオレの記憶欄にある剣の動きを刻み込む。これはあんまりうまく行かないかもしれない。試しだ。これが成功すれば猫剣を握った時にだけ、剣が動きを誘導してくれる。
時雨の記憶欄に増設した魔力タンクに【シストラム】をリンクさせ、記憶欄に【シストラム】の魔術記号を刻む。これでいつでも【シストラム】が発動できるはずだ。
次の日、朝から訓練――【シストラム】を時雨に説明し訓練する。
時雨は思いの他、猫を気に入ってくれた。
「なにこれ? なになに?」
「猫だ」
「猫?」
「キャット。ニャーって奴」
「ニャー? キャット? よくわかんない。名前とかあるの?」
「だから猫だって」
「ねーちゃんオレには?」
「うーん……」
これやると人生が変な方へ変わっちまいそうなので他の人にやるのはちょっとな。
「なんだよ。ずりーな。時雨ばっかり……」
「いや、優遇しているわけじゃないんだよ。これは……人生をもしかしたら変な方向へ変えちまうものかもしれないからな」
「変なもんなの?」
「そうだな。別にいいぜ? くれてやっても。ただし自己責任だぞ」
「ほんとー? くれ‼」
シャガルにくれてやるのは構わない。シャガルに魔力タンクを増設し【シストラム】を記憶欄に植え付ける。
「シストラムって心の中で思うか言葉で言えば使えるから」
「シストラム」
唱えたのはニーナだった。
「使えないんだけど」
「いや、お前にはやってねーから」
シャガルの前にも黒猫が現れてシャガルに体を摺り寄せた。
「あたしにも頂戴よ。っていうか何なの? これ?」
「魔術の一種だ」
「あんたって魔術師だったの?」
「三流だけどな」
「ふーん。で? あたしには?」
「別に構わないが人前では目立たないように、あくまでもペットとして扱ってくれよ。お前達も」
「はーい」
「わかったよ。ねーちゃん」
身支度を整えたら時雨を可愛がる――後ろから抱えてお腹を撫でる。頭に唇をつけ、髪を撫でる。甘えるように頬を寄せる時雨の背中に手を柔らかく這わせる。足を指先で揉みほぐし、ついでに肩甲骨を剥がす。愛でるついでに柔軟を促し体をほぐす。シャガルが傍に来たのでシャガルにも柔軟するように促す。頭を手の平で撫で、そのまま甲で頬を撫でる。
二人が顔を伏せて足を延ばす――不意に目の前に顔を表したニーナ。近づいてくる顔と唇、触れて寄せて、ほんの数秒。余韻ばかりが恨めしく、もっと触れたいと考える自分を押し殺す。湿り舐める唇は彼女の味がした。
それから時雨とシャガルを訓練する。ニーナも少し加わった。昨日も感じたけれどニーナの剣技……と言うよりも短剣技能は高かった。短剣だと考えるのは彼女が手に持った木の棒が短かったからだ。
隠し方が上手だ。刃を相手に認識させないように振る舞うから挙動を把握し辛い。威圧感を与えずに不意打ちを当てられる。刃を現さないが堅実に防ぎ、手首などの末端を斬りつけてじわじわと消耗させてくる。こういう戦い方もあるのだと認識する。手首であっても人間とっては十分に致命傷だ。
ニーナにその技を時雨に教えてくれと頼んだが断られた。
仕方なくニーナの解析データーより抽出してオレの記憶領域に植え付けておく。
訓練が終わったら水場で軽く汗を流し――二人が顔を洗うために視線を下げた隙に、唇を寄せる。ニーナは見開き止まり、そっと手を握り離した。
しかし顔を洗っていると背中を何度か叩かれた。
朝食を食べて少し休憩、お昼前にギルドへ寄る。
「やっときた。シックスさん。普通境会からの依頼は朝から受けるものですよ」
「まだ朝だろ」
「お昼前です‼ へへへ……お願いしまうよう。シックスさん」
「境会からの依頼って?」
割り込んで来たニーナの視線が刺さる。コイツ本当に境会が嫌いなのだな。つうか耳元で言うな。全員の視線が向いてない隙に頬に唇を押し付けられる。
「……境会から慰問の依頼が来ているんだ」
「指名ですよ‼」
「ふーん」
なんだよ。睨むなよ。
「140チークですよ‼」
昨日より値段が上がっている。
「昨日より値段が上がってないか?」
「今朝通達が来たんですよ」
「受けます」
ニーナが答えた。
お前が答えるなよ。傍に来た時雨の頭を撫でる。時雨とシャガルが他愛のない会話をし揶揄いあっている。打ち解けて来た証拠だ。傍に来たシャガルの頭を撫でる。
「それで? 依頼内容って、なんなの?」
「聞いてないのですか? 慰問です」
「え? ……え⁉ 慰問って? 慰問……」
ニーナの視線が不安気に揺らぎ刺さる。
「どうした?」
「……別に。何も……受けるの?」
「お前が返事しただろ」
「勝手にすれば」
気まぐれな奴。
慰問に指定されているのはオレ一人だ。他の三人は何時もの依頼をこなすと。大丈夫か不安になる。しかしもう猫もいるし、ある程度は大丈夫だろう……【触覚】で把握もできるし。
――亡くなったら亡くなったで。
人は、死ぬ時は死ぬ。
ラーナ……。オレは。
ラーナを空へ返した時、小指の指輪も解けて無くなってしまった。
「……くれぐれも気を付けてくれよ」
「ねーちゃん大丈夫だって俺に任せてよ」
「お母さんあとでぎゅーしてね」
「ふんっクソ野郎」
二人は可愛いのに、ニーナがぼそり呟いた台詞に今すぐにでも捕まえてめちゃくちゃにしてやりたくなる。振り回されている。
「近々キャラバン【銀のキバ】の皆さんが到着するはずですので、それまでの辛抱ですよ。そうしたらもう少しゆっくりできますよ。へへへ……」
今も十分ゆっくりだけどな。とは語らなかった。
三人と別れ慰問を受けに境会へ――ニーナの視線が少しだけ。もたれかかるような気だるげのような。腕から手首、手から指先、ニーナの動作は春よりの秋だった。
「……10チーク。忘れないで」
秋を通り越して冬だな。腕に爪を立てられて血が滲んだ。
「……わかってる」
ギルドを離れ、歩いている途中の露店で売り物のテントを視認。値段は240チーク。テントもありだと考えた。ギルドで部屋を借りる場合に、一部屋200チークか一人200チークか聞いていない。考慮すべきだ。部屋の大きさもある。それならばテントを買って外に設営したほうが良い。一週間200チークより大切に使えばそれなりの期間を過ごせる240チークの方がお得だ。240チークなら手の届く範疇だ。
露店では野菜も眺める。野菜は栽培されているものと自然から採集されるものの二つがある。栽培されている野菜はタマネギのようなものとジャガイモのようなものだった。
一見タマネギに見えるが、皮を剥くと中身は六つの欠片になっている。
ジャガイモはイモのように窺えるが、こちらも中身は違うかもしれない。
露店を徘徊しながら境会へ向かった。
慰問――どんな依頼かと構えれば修道女の世話だった。
境会には毎日沢山の怪我人や貧しい者が訪れる。修道女は炊き出しや怪我人の世話で身の回りの世話が疎かになりがちだ。だからその世話を代わりに行って欲しいとそんな内容だった。なぜオレを指名したのかは謎だ。
この境会には【触覚】持ちが一人いる。
その人物を特定し観察することも視野に入れていた。
まずは廊下などの掃除――糸の張った天井を箒で払う。天井に巣を張るのは芋虫状の昆虫で蜘蛛ではないようだ。肉食の芋虫。この芋虫は……食えるのか。
ひとしきり思案したが見た目があまり旨そうではないな。
人の皮膚を噛み破るほどの力は無いようだ。
皆忙しいのか廊下を掃除するよう指示され放置されていた。
廊下は床をはじめ、壁も天井もレンガ造りだ。部屋以外は靴を履く。オレはまだ裸足だ。
水拭きもして欲しいようなのでサッと掃いて、雑巾と言う名の服の切れ端を渡されていたので拭いてゆく。だけれどそれが面倒になったので魔術でサッと水を走らせ汚れを外へ放出し魔術を消す事で水も消した。水圧を強めて放出すれば汚れも落とせるのだが、水圧をどうやって強めるのかが問題だ。
まぁいいか。
終ったと告げると驚かれ、確認のち次は修道女の身なりを整えて欲しいと指示された。
伸びた髪を一定に切りそろえ、襟足や肩の産毛などを剃って整える。
「オレはお姫様カットしかできないぞ」
そう告げたがお姫様カットがどんなものなのか修道女達は知らず、構わないと告げられたので流れ作業で20人ぐらいがあっという間に通り過ぎていった。
お姫様カットは思いのほか気に入られていた。あれでいいのかよ。
当然魔術を使える者と使えない者がいる。役割分担はしっかりと為されているようで、魔術が使える者を、魔術を使えない者がサポートする仕組みになっていた。
オレは適当にいじってしまったので魔力タンクにほぼ底は無いが、通常魔力タンクには大きさがある。
境会は能力差が如実に表れる場所でもあったが、生まれながらの能力に関係なく皆が平等のようだった。それでも組織である以上、上下関係はあり、それはオレでも理解はできる。先輩後輩関係もあるだろう。
時折視線を感じ、皆遠目からオレを眺めているようだった、窺っているようにも感じる。
「ご苦労様です。貴方は良き人のようですね」
「どうも……」
確か助祭のヘザー。改めて顔へ視線を流すと額から左目にかけて線のような傷が存在していた。
「あぁ、これですか? 幼少の頃にゴブリンに攫われた経験があるのです」
「悪かった」
「かまいませんよ。今はもう遠い過去ですから」
「まだ仕事はありますか?」
「いいえ。本日はこれで終了です。貴方は魔術師のようですね」
「少しだけ魔術が使えるだけです」
「そうですか……。ところで、ここから少し離れた村があるのですが、もしや立ち寄られましたか?」
「丁度通りはかかりました」
「やはりそうですか。村人たちが、貴方にとても感謝しておりました。なんでも……貴方が傍を通りかかると傷が癒えたとか……」
「それは知らないです。通りかかっただけで実は何もしていません。そこからさらに遠くの村から来ただけです」
「盗賊を退治したのでは?」
「さぁ……。オレが通りかかった時には盗賊は倒れていました。何処かの勇者が賊をやっつけたのではないでしょうか」
「……そうですか。わかりました。聖なる水で体を清めていってください。グレイス? 手伝って差し上げて」
「いや……」
「遠慮なさらず。貴方は良く働いてくれました。明日以降もお願いすることがあるかもしれません。よろしくお願いしますね」
改めて眺めると、ヘザーはいい女だった。シルエットで体型が透ける。
「シックスさん。こちらへどうぞ」
「別にいいのだが」
「いいえ、頑張った方は必ず報われなければいけません。貴方は今日仕事を頑張りましたので」
断れる雰囲気でも無さそうなのでついてゆく――連れていかれたのは共通の水浴び場のようだった。おい、オレは男なのだが。
「どうかしました?」
「いや、オレはここには入れない」
「……やはり。安心してください。ここは男女共用です」
中へ通されると確かに男女が混在し、主に水浴びできない男性女性達を修道女達が世話しているようだった。どいつもこいつも傷だらけだ。ただ年老いた、ただ傷ついただけの人達ならば修道女はここまでお世話等しないだろう。それなりに徳を積んだか何かしらの功績があるのだろうなと勝手に憶測する。
「怪我人を世話しているだけですよ。元気になったらお世話はしません。悪用する方もおりますので」
「……顔に出てたか?」
「外部の方にはここが慈愛団体に見えるようですので一応訂正いたしたく」
「違うのか?」
「ここは慈善を施す場であり、慈愛ではありません。服を脱いでこちらへ座ってください」
「自分でやるからいいのだが」
「貴方は境会の廊下を綺麗にし、姉妹の身なりを整えてくださいました。ですので私達は貴方を綺麗にするのです。服を脱いでこちらへどうぞ」
押しが強い。
服を取られてしまい、布を渡され股間を隠し椅子に座らされた。
「……綺麗な髪ですね」
なんだろ。場違い感があった。
頭、髪、背中を洗ってもらったのだが何処も素手だ。液体石鹸で足まで洗って貰った。ただ……流すのは水だった。お湯じゃない。聖なる水を沸かすなんてダメらしい。
聖なる水は温めても聖なる水だろうに。
温めたら効力が無くなるってどんな聖なる成分だ。
まだ聖水の解析をしていなかったが……あーあーダメだコレ。女神関連の御業だ。オレには解読不能だ。
魔力を中和する成分なら人に含まれる魔力も中和してしまうはずだ。
しかし現在その様子が無い。この聖なる水は、魔力を中和するわけでもなく魔物を退ける力も有している。
だが同じ成分を持った魔術なら作れそうだ。単純に【聖水】という魔術を作りストックした。
違和感、視線をあげる。視線の先にはくたびれた老人がいた。この感触は【触覚】で探られている感覚だ。このじじいが【触覚】の持ち主か。
解析データーを開く。
確かに【触覚】持ちだ。このじじい……記憶欄が曖昧になっている中で、唯一ぼやけていない記憶がある。どうも戦闘技能に関するものだ。抽出しストックしておく。
「あのじいさんは?」
「……あぁ、あの方は拳聖様ですよ。その活人拳で昔、あまたの人々を救ったそうです。お弟子さんも沢山いらっしゃるのですよ。今は引退して療養しております」
「拳聖とは?」
「さぁ……良くはわからないのですが、何でも武術の使い手の方のようですね」
近接格闘術系か。覚えておいて損はないな。
水場を後にした時には陽が傾いていた。三人とはギルドで落ち合う予定を立てている。髪がまだ乾いていないけれど、境会を後にする。
「こちらが依頼達成書になります。ギルドに提出なさってください」
「久しぶりにさっぱりした。ありがとう」
「いいえ……。ところで、その、髪を、また、売って頂けませんか?」
「いいけど、何に使うんだ?」
「お守りです。綺麗な髪をお守りに縫い込めると願いが叶うというジンクスがあるのですよ。貴方の髪でお守りを作りたいと言う方は私の他にもおりますので」
「まぁ別にかまわないが」
「では……これくらいをまた10チークでいいですか?」
「あぁ」
「貴方は本当に良い方ですね。貴方に良い事がありますようにグレイスは祈っております」
「そうかよ」
「それと、これ、水筒です。良かったらお使いください」
「いいのか?」
「はい。中には聖水が入っております。見た目より多めに入るのでご活用ください。聖水は腐りにくいので長持ちしますし。あとこれも……ちょっとかさ張りますが布の切れ端です」
「……ありがたい」
グレイスと別れ境会を後にギルドへ帰る。
境会の入り口までグレイスに見送りされ気まずかった。
街中を進みギルドへと。
ギルドは外からでも賑やかな様子が窺えた。沢山の人達がいる。二十人近いだろうか。中へ入るとニーナ達もいて、ニーナは男性と楽しそうに談笑していた。視線が一度こちらへ向いたが、声もかけては来なかった。
受付により依頼達成書を見せる。
「おかえりなさい。うまく出来たようですね」
「あぁ、良くわからん依頼だったけどな」
「報酬の140チークです」
「あっ‼ お母さん‼」
時雨の勢いある体重を受け止める。皆の視線が刹那集まり会話が止まった。けれどまた談笑の渦に飲まれてゆく。シャガルも側へ。
「この人達、銀のキバって猟兵団の人達なんだってさ」
「そうなのか。シャガル。お前泥だらけだな」
「へへっ。今日は時雨と二人でイノシシを一頭もって帰ってきたんだ」
「そうか。頑張ったな」
頭を撫で頬も撫でる。
「お母さんっ。時雨は⁉ 時雨も頑張ったよ‼」
「時雨も良く頑張ったな」
「ねーちゃんすげーいいニオイする」
「へへーお母さんは何時もいいニオイだよ」
二人の相手をしていると、数人がオレの前へと現れた。
「失礼。俺達は猟兵団銀のキバだ。俺達が来たからにはもう安心していい。この街の秩序は俺達が守る」
「そうですか」
「あぁ‼ お前らも猟兵なのだろう。今まで良く頑張ったな‼」
手が伸びて肩に触れようしたので避けた。知らない人間に触れられるのは嫌なものだ。オレも迂闊に誰かに触れるのはやめよう。
「触れられるのはちょっと」
「そうか。だがこれからは安心していい‼ この銀のキバの団長であるこのフリーマンがお前達を守ると約束しよう‼」
「大丈夫だ。お構いなく。同じ猟兵として邪魔にならないようにはする」
「うむ‼ いい心構えだ‼ これから夕食なのだがお前もどうかな?」
「誘って貰って悪いが子供の世話がある」
「ふむ。俺達はこれでも星六つのキャラバンだ。後で後悔しないようにな」
何の後悔だ。
ニーナをチラリと眺める。
「へぇ……キース様はこの猟兵団のエースなんですね」
「そうなんだよ‼ それよりニーナ。君ってほんと可愛いね」
女性が男性に絡まれた時大変そうだが彼女の本心をオレが察することはできない。嬉しいし楽しいのかもしれない。
「もう一度聞くが今夜どうかな?」
何だコイツ。肩を掴まれて気分が低下する。
「ガキの世話があるっつってんだろ。さわんな」
「うひょーっ気がつえー。俺は嫌いじゃないぜ。お前のような女」
「おい。俺が先に声をかけたんだぞ」
「そりゃないぜリーダー。こういうのは早い者勝ちじゃないだろ」
オレは男だ。同性に好んで触れられる趣味もない。
「はい。こちら今日の報酬です。ギュダランさん。そう言うのはギルドとして許容できませんよ」
「じゃあ、今夜は君に相手をしてもらおうかな」
「ギュダランさん」
「はっはっはっはっ」
眼鏡に手を振られて引っ込むように促されたのでお金を受け取りギルドを後にする。ニーナに目配せしたが、ニーナは視線を逸らした。
「ニーナ」
「先に帰ってて」
「話わかるじゃんニーナ」
「キースさんってほんとかっこいいですよね」
それがよいしょなのは聞いていても良くわかる。でもまんざらではなさそうだと表情から察した。別にオレじゃなくとも構わない。感情はどうにもならない。
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