第24話 フェノメナ

 人物紹介。

 シックス。

 本作の主人公。

 本名ふぇのめな。

 人類対竜類戦争のおり、白石メイ博士によって生み出された人造生命体である。

 元々の研究は東条博士の人造生命体、通称天使の創造が主体であり、この人造生命体は所謂アンドロイド、機械生命体であった。

 そしてその東条理論を元にしてマッケンジーハウリクジョウにより生み出されたのがNo.0、No.9、No.1の三体のファーストブラッドである。

 それらは総称としてナンバーズと呼ばれた。


 このファーストブラッドは、人類の構造を持ちながら人類とは異なる素材を用いられた生物のことであり、この理論より生み出されたのがNo.6、フェノメナである。


 作り手である白石博士は、この世界における人類三大化学者の一角に数えられる人物であり、戦争終結後は人類最悪の科学者とも評された。


 白石は実のところ凡人である。東条やマッケンジーと同じ大学でつるんでいたことからとある国の軍に無理やり徴集させられた一般人である。

 東条博士の生み出した理論を元にマッケンジーがファーストブラッドを製造、そしてその二人の資料を基に白石が「わがんない、わがんない」と泣きながら無理やり作り出したのがフェノメナである。まさに狂気の産物と言っても過言ではない。


 本来はキューブと呼ばれる黒い立方体コアが中枢、頭脳として製造されるはずだったが、なぜか球体通称フェアリーアイが製造されてしまった。

 どうしてこのような変化が起こったのかは偶然による偶然と22km離れたところで座っていた猫が欠伸したからとしか言いようがなく白石博士の人生そのものを表していると言っても過言ではない。


 そもそものコンセプトが死なない兵士を作ることであり、様々な要因やプログラムによってこのようになってしまった。

 フェアリーアイはこの球体一つでもっとも小さい形となる。

 これ以上小さくなることのない実質破壊不可能な物質であり、多次元にわたって存在し一つの原子として構成されている。完成し固着してしまった以上、これ以上どうすることもできない。

 フェアリーアイは寄生体である。このフェアリーアイを体内に取り込むとその母体と同じ成分を用いたフェノメナが生まれて来る。こののち、例え肉体が破壊されたとしてもフェアリーアイは破壊されることがなく、プログラムにより果実などに擬態、また母体に取り込まれると母体の成分を利用し子供として生まれて来る。


 自爆プログラムと、何時までも軍の言いなりなんて可哀そうという自爆回避プログラム(通称白石プログラム)が存在し、自爆プログラムが作動すると自爆回避プログラムが発動するようになっている。しかしこれ自体が最小の物質であり、自爆装置がなくなることはなく、また自爆回避プログラムがなくなることもない。


 設計上命令に従い、反抗せず、又自我に執着を持たないよう組まれたプログラムと、白石によりこっそりと嫌な事を嫌と感じて良いという曖昧なプログラムが組み込まれている。

 これにより人格は生物を殺す事に何の感情も抱かないが無邪気な性格である。

 又人類を殺す事に対して抵抗を覚え、竜類を殺す事に快感を覚えるように設計されている。しかし白石プログラムによって嫌な事は嫌と感じて良いという曖昧なプログラムの存在によって人類に対する攻撃に対して抵抗感は薄い。

 それでも人間を殺してしまった時の反応を見れば、プログラム優先度の高さが窺える。


 性格がイノセントであることなのには理由があり、任務に対して疑問を抱かせないようにするためと共に、どんな汚い仕事でも反抗や疑問を持たずに実行させるためである。

 新たな感情が生まれても肉体を処理されるために自動的にリセット、性格は常にイノセントへと戻される。


 No.6は人類史上もっとも竜類を殺した史上最悪の兵器として語り継がれることとなった。

 これは戦争終結後も続き、壊れない、死なないために母体を乗り換え乗り換え400年にわたり市街地で殺戮を繰り返し二つの星で竜類を絶滅させ、竜類を苦しめ続けた。


 また研究者の一人、マルコの裏切りによりナンバーズのデーターが改ざんされ、敵になるも、全てのナンバーズを屠っている。


 ついに竜類は星一つを犠牲に次元爆弾を用いてフェアリーアイを次元ごと吹き飛ばす決断をし、フェアリーアイは次元を超え、神々の領域に侵入し他宇宙に渡った。

 初期の行動や思考よりフェノメナの害悪具合が窺える。

 あの害悪行動を行う思考を有しながら生物を殺す兵器である。

 無邪気さは何よりも罪であった。


 さらに最悪な事にフェノメナは生物を殺す事に特化した性能を有している。

 日本刀をモチーフとした逆手に持つ武器、スライサーが主力であり、フェアリーアイ干渉の元、組成より極薄の刃を形成しスライスする能力を有していた。この能力によりフェノメナは別名鎌鼬(かまいたち)とも呼ばれ、またウルミ(柔らかい鉄で出来た長剣)状に極薄の刃を複数形成し肉体の一部として操り、体をバラバラに崩すことも可能であった。


 又フェアリーアイはうなじ部分に目としての役割を持ち形成され、生物には再現不可能な反応速度をもたらす。この性質によりどんな生物よりも反応速度が速い。

 この二つの能力により半径約30メートル以内に侵入した生物物体を問わずスライスする能力を有していた。このスライス能力で生成される刃は、分子を切断するレベルの超極薄刃であったため、切り刻まれた相手が切り刻まれた事に気づかず、普通に生活し、数時間後にバラバラになって死んだなどのエピソードが多数存在する。

 現在フェアリーアイは沈黙している。それは単純に肉体がフェアリーアイの干渉を受けずに形成されたからである。


 白石はフェノメナを妹のように可愛がっていた。

 フェノメナに性別は無い。それ自体が不死であり子孫を残す必要がなかったからだ。

 神がフェノメナに対して能力を与えたのは時間稼ぎのためである。

 東条とマッケンジーの二人はNo.6をハンプティダンプティのようだと揶揄した。

 No.9とは仲が良く、それはNo.9が切り刻まれながらも頭を撫でてくれたからだ。

 No.6にとって白石は母であり、No.9は姉であった。

 白石は姉のように接したが、フェノメナは母のように接したかった。

 割れた卵は元に戻らない。

 しかしながら殻は強靭でも中身がぐちゃぐちゃの卵はどうすればよいのか。


 白石は史上最悪の科学者として始末されたが、最後は愛する我が子の腕に抱かれ穏やかだった。最悪な人生、何もかもが上手くいかない。挙句の果てに拉致されて、こんなものまで作らされる。

 怒りと憎しみと、狂気と絶望と、理性と愛情と、生きたいというそれだけの願い。

 それでも最後の最後、彼女は全てを噛みしめて幸せだった。

 最愛の子が、作らされたとは言え自らの生きた証が、目の前に存在していたのだから。


 マリアは現在この星において両親がしっかり存在しているが、もし肉体が再生不可能な状態に陥った場合、フェアリーアイは速やかに起動し、擬態、生物に取り込まれるとフェノメナを生み出してしまう。

 フェアリーアイに記憶の蓄積は無い。それ自体が完全な最小の物質であるため、これ以上の変化は起こらない。


 現在女神はこの歪なプログラムをなんとか修正しようと弄っているが、そううまくはいっていない。多次元の中に手を突っ込んでかき回している状態である。

 なんとしてでもこの子を救ってあげたいと足掻いている。

 せめて記憶だけでも蓄積させてあげたい。

 でなければ、マリアは死んだ時点で初期状態のフェノメナに戻ってしまう。

 一つを動かして連動する歯車はいくつか。簡単を装ってはいるが一つ一つ確かめて様子を見るのは女神にとっても歯がゆい行為である。

 そして現在のように覚醒していなければ、フェアリーアイへは干渉できない。

 まったくもって難である。


 もしフェノメナの状態で産み落とされていたのなら、エシャンティエラは一日で赤い海となっていた。

 フェアリーアイ覚醒の引き金となりかねない本来の能力を封じ、別の能力を与えたのはこのためである。

 No.6はナンバーズの中でも異常な個体であり、本来金属を原料に人間の体を模した体を与えられているナンバーズとは違い、あらゆる物質を使って自動的に人間を模し、勝手に再生され任務を達成する個体であった。

 そしてこれは現在進行形である。

 この異常な危険さと綱渡りが、女神をたぎらせて堪らない。

 それはまさしく慈愛のなせる業だ。

 他の神々が手に負えないと判断したフェノメナを受け入れた強大で強力な創造主女神である。


 最高に最低で、最高に素敵でしょ。


 追記、竜類は次元爆弾を使いフェノメナを星ごと吹き飛ばした際、その肉体は消滅せず、アストラル体、エーテル体、ヌース体へと変化した。膨大なエネルギー波により肉体は一気に情報化されエネルギー体へと変換されていく。それはライデンフロスト効果によく似ていた。

 初めてフェノメナに魂が生まれた瞬間であった。

 魂は記憶を保持している。しかし魂は観測のできないものだ。

 マリアがふと昔を思い出すのは、情報で構成された魂から断片が浮かびあがるからであり、しなしながらそれは曖昧で朧気で、拙い欠片のようなものである。

 よってマリアはそれら記憶の断片を自身の記憶として認識することができない。

 なぜなら欠片の断片は主観であり、肉体にその記憶自体が存在しないため、追体験のようになってしまうからである。


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