第21話 ラーナ

 夜の前、沈みゆき染まる湖が栄える村。ラーナはそんな村で生まれ育った。

 朝霧に触れ、森と呼吸する。青明かりと共に起き、帳と共に眠る。

 物心がついた時には母と二人きり。その生活がラーナにとっての日常と当たり前だった。


 朝は何時も井戸で水を汲み、母と手を繋ぎ森で食材を探す。簡単な朝食を作り振舞い、誰もいなくなった部屋を掃除する。

 幼馴染であるジョゼとレーネとは毎日会い遊ぶ。村の中を走り周り、木の棒を振り、井戸の水を汲んだ桶をひっくり返し怒られ笑う。

 また明日と手を振って。


 ジョゼとは仲が良く、レーネとはそれほど仲が良くなかった。レーネが単純にジョゼを好きなのだと理解し、ラーナはそれに微笑ましさも感じていた。

 それと共に、自身の母親であるスフィアが原因であることを薄々と感じてもいた。


 母親のスフィアはこの村の出身だ。だけれどスフィアは十代で猟兵となり、後半には村を一度出立している。

 戻って来た時には村を出ていった頃の明るく活発だったスフィアは存在していなかった。

 戦場に出て、そこで味わった生と死の概念がスフィアの精神を大きく変えてしまっていたからだ。

 仲間を失い帰って来たスフィアは宿を経営しながら、やってくる猟兵と褥(しとね)を共にするようになり……。

 すっかりと命の儚さに打ちのめされ溺れてしまっていた。女を知らずに逝く彼らを哀れとも考えたのだ。戦場に向かう彼らにせめてもの情けを。

 そうして生まれたのがラーナだった。


 娼婦と同様のことを繰り返すスフィアを村人たちは忌諱し、その扱いを見たレーネは大人たちと同じようにその娘であるラーナを父親のわからぬ子として見下した。


 スフィアは自身が関係を持つとはするものの、ラーナからはそれを遠ざけ、地下に頑丈な部屋を作り万が一にもラーナに危害が及ばぬように施した。

 猟兵が、決して善だけではない事を理解していたからだ。


 そうして少しの歪さを感じながらもラーナは二人の幼馴染と育っていった。

 時が経ちレーネはやがて村を出る。レーネの両親は村一番のお金持ちで商家の出、街で新たな商売を始めるために引っ越したのだ。

 ジョゼは泣いたがラーナは泣かなかった。


 やがて母であるスフィアは病にかかり旅立ち、ラーナは宿を閉じた。

 葬式は小さく、集まる人もいなかった。ラーナは一人で母の葬儀を行い遺体を燃やし埋めた。遺灰は森の毒草に撒いて、ここならば、誰も近づかず、母がゆっくり眠れるだろうと考えた。毒は孤独なラーナに良く染みた。毒の耐性を得たのはこの頃だ。


 ラーナはまだ子供だったが生活に困ることはなかった。

 生活に必要な一通りの行動を母より教えられていたし、加え貯えが十分にあった。さらに母と関係を持った猟兵からの遺品も送られてくる。


 自身が亡くなったのち、遺品を宿に送るよう猟兵達が手配していたからだ。

 自身に身を裂いてくれたスフィアへのせめてもの感謝の形だった。

 だからラーナが金銭で困ることはなかった。


 一人になった部屋の中は、ぽっかりと開いたラーナの心と同じ。

 母が居なくなり風通しは良くなってしまったけれど、けれどあの母と猟兵達の居た堪れなさが無くなったことにはほっとしてもいた。


 日々は流れ、やがて幼馴染であるジョゼが猟兵へと憧れを抱くようになる。田舎で暮らす事に嫌気がさし、反発もしていた。

 ジョゼの熱意に押され、ラーナも村を出て街へ向かい二人で猟兵となった。

 誤算があるとすれば、ラーナには戦いの才能があったという事。

 才能に溢れメキメキと頭角を現すラーナに対してジョゼはパッとしなかった。

 徐々に開いていく差。劣等感と置いて行かれる寂しさを感じジョゼは悩んだ。


 猟兵団オリガに誘われたことも拍車をかける。ラーナは請われて所属したが、ジョゼはおまけだった。

 猟兵団オリガは女傑オリガが頭領を務める傭兵団で、その当時街でもっとも勢いのある猟兵団だった。そこへ二人は所属し戦場に立つことで経験を積むこととなる。


 やがてラーナはオリガの魔槍と呼ばれるようになりランクも星六に、しかしジョゼは星三だった。

 ジョゼはラーナに対して劣等感を募らせた。

 元々子供の頃からジョゼはラーナに対して劣等感があった。

 運動も勉学もラーナは優れていたからだ。

 これはレーネも内心気づいており、母親が卑しい女だとすることで均等を保とうとしていた。

 好意の裏返しでもある。もし、もしどれだけ努力してもラーナに届かなかったのなら――心の底に根を張った劣等感でジョゼは努力ができなくなってしまっていた。

 その結果、年月の積み重ねが如実に表れてしまう。

 もしジョゼが幼少期より努力をしていたのなら、結果は変わっていたのかもしれない。


 又レーネとも再会する。

 しかしレーネは元のようなお嬢様ではなかった。両親が事業に失敗し挫折、レーネは娼館に売られ娼婦として生計を立てていた。

 レーネもまたラーナに対して劣等感を再発し、強く妬むこととなる。

 かつて娼婦の娘と馬鹿にしていたラーナが今や時の人となり、そして見下していた娼婦に自分自身が身を落としている。

 それはレーネのプライドを著しく傷つけた。

 レーネは羽振りの良い固定客を得るためにジョゼを誘惑し、ジョゼはレーネを抱く事で劣等感を埋めた。手の届かない高値の花になりつつあったラーナへの焦燥感と娼婦へと身を落としたレーネを重ね、レーネを助けなければと正義感を抱いた。又快楽に溺れた。


 ラーナがもう少しで星七に昇格するという所で、もう無理だと感じたジョゼはラーナに村に帰ろうと懇願するように言った。村に帰って所帯を持とうと言い、ラーナはそれに承諾してしまった。村を出たのはジョゼに押されたからで、猟兵になったのもジョゼがなろうと言ったからだ。だからジョゼが村に帰ろうと言うのなら帰ろうと考えたし、所帯を持とうと言うのなら別にそれも構わないと考えた。

 ラーナにとって猟兵であることも村で暮らすことも大して変わりがなかったからだ。


 ラーナは余裕のある女性だった。その余裕が良くなかった。なんでもこなせてしまう。お金にも困っていない。それがラーナから主体性を奪っていた。

 ジョゼと赤の他人とどちらを信用できるかと言えばジョゼであり、これから出会う男性達の素性が把握できない以上、ジョゼが良いと考えてもいた。

 惜しまれながらも猟兵を引退し、村に帰った。


 しかし村に帰ってジョゼと所帯を持ち、関係を持ったところでラーナは気落ちした。

 ジョゼが初めてではなかったからだ。

 母親が複数の男性と関係を持つことに歪さを感じていたラーナにとって、それは小さな引っ掛かりだった。

 街で複数の女性と関係を持っていたのではないかと疑い、嫌悪感をもってしまった。


 母が病に倒れた時、見送ったのはラーナだけだ。

 それがあまりにも寂しく、ラーナは心の奥底では温かな家庭を欲していた。

 また大きな手で頭を撫でられ喜んでいたレーネを覚えている。


 本当は甘えたいが、甘えられない立場ゆえに甘えられない人に育ってしまった。それがラーナだった。だからラーナはたった一人の男性にとことん愛されたかった。そしてその愛する人との子供を沢山作りたかった。

 ドロドロになるほど甘えられる人が欲しかった。

 だけれど、ジョゼに甘えられるわけもなかった。


 さらにジョゼはラーナのお金を承諾なく使いレーネを娼館から解放し村に雑貨屋まで買い与えた。

 ジョゼからすれば二人を幸せにする行為だったが、ラーナにとっては裏切り以外の何物でもなかった。解放するのは構わない。しかし一言あっても良いのではないか。相談すべき事ではないかとそう言う話だったからだ。ましてや仲睦まじい演技を視界に入れられて喜べるわけもなかった。

 ジョゼもそれを内心では感じていたが、誤魔化すように過ごしてしまった。


 レーネの事情を聞いたラーナにはどうしようもなく、子供までいると知ったレーネを娼婦のままでいさせるわけにもいかず、ジョゼとレーネが関係を持っているとは知りつつも、知らないふりを続けるしかない。その間にも心はすり減り摩耗していくがどうしようもなく、かつての母(スフィア)の噂を知った猟兵や聞きつけた猟兵が宿に来訪し、関係を迫ってくることも拍車をかけてラーナを疲弊させていった。


 壁一枚向こうでジョゼとレーネが関係をもっていることを理解しつつ、見て見ぬふりをした。言ったところでどうしようもなく、関係を持っていると言う事実に変わりもない。もう遅い。


 まさか婚姻してからジョゼに子供がいると知るなんてとラーナは憤りを感じたが、子供に罪はないと二人にそう告げられ、子供を言い訳にするなとは考えつつも唇を噛むしかなかった。子供に罪は無くとも親に罪はあるのだ。


 レーネの後の出がらしで子供ができるわけもない。

 かと言って母のように複数の男性と関係を持つのも気持ち悪いし受け入れがたい。最後の母のようにはなりたくない。

 戦場での女の扱いも知っている。いきずりの男と関係を持ち、心を壊した女がどれほど存在するか。それを知っているラーナに、身を崩すようなまねはできなかった。

 それでも明日はやってくるし日々の生活を送らなければならない。性欲が無いわけでもないし不満も募る。

 地下の部屋に閉じこもり眠る時だけがラーナの安息だった。


 ある日、二人の女性が宿に来訪し泊まった。片方が片方だけによく覚えている。

 ミラジェーヌ第三王女だ。数カ月前に逃げたジュシュアを討伐するとやってきて出て行った。その時の仲間はおらず別人と帰って来た。

 手に持っているのが宝剣だとすれば、ジュシュア討伐は成ったのだろうとラーナにも察せられた。同時にアカシャの民が黙ってはいないだろうなとも考えた。

 これからミラジェーヌ率いる王家には地獄が待っている。

 その予感をラーナはひしひしと感じていた。


 ミラジェーヌはしばらくと滞在し宿を出て行った。ラーナはミラジェーヌよりお金を預かり、あの子に良くしてほしいと頼まれた。

 あの子とはマリアの事だ。

 ラーナはその時のミラジェーヌの表情を良く覚えている。

 恋をしているかのような、愛しているかのような、焦がれているかのような温かくて柔らかい微笑みだった。心の奥底から心配し慕っていると滲み出ていた。

 そして見送りの時、マリアの表情を見ていた。

 あの泣きじゃくる様子を視界に収めていた。

 あぁ、私も、このように、私に対して心を引き裂くような痛みに囚われる人が欲しいとラーナは噛みしめたものだ。


 最初ラーナはマリアを可愛い女の子だと思い込んでいた。

 倒れたマリアは華奢で軽く、高熱で呻き苦しんでいた。

 宿を切り盛りする傍ら、二年以上目を覚まさず眠り姫となったマリアを看病し続けた。


 容姿から女の子だと思い込んでいたが、体を拭くために服を脱がすと男の子だった。その男の子はラーナの母性本能を強く刺激し隙間を埋めていった。鎖骨のラインに目を奪われチラリと覗く胸のラインに心臓が跳ねた。薄いピンクの少し尖ったトップは柔らかく……。


 ラーナの日課にマリアの世話が追加されていった。ラーナはそれが嫌ではなく好ましかった。猫を飼って撫でるように、犬を飼って散歩にでも行くように、ラーナにとってマリアは小さな小さな癒しとなっていった。


 朝起きてマリアの体を拭き、床ずれを防ぐために体を動かし、筋肉を揉み解し介抱する。流動食を口に運び下の世話をする。朝の支度をし、お昼になったらまた同じことの繰り返し、夜になったらまた同じ事の繰り返し。ほんの少しの欲望も叶えてもらう。


 ラーナは献身的にマリアの世話をした。

 それはお金を貰ったからじゃない。

 ラーナの元々の性格然り、マリアの存在はラーナにとって孤独を紛らわし、自らの必要性を再確認できるものだったからだ。


 何時の間にか仕事を終えると、マリアを寝かせた部屋で一緒に過ごすようになっていた。頬を撫でたり髪を撫でたり、添い寝したり。

 隣の部屋から聞こえてくる艶を帯びた声も、マリアが一緒だと不思議と気にならなかった。ジョゼが気づいていないと考えているものだから、ラーナは少し笑ってしまった。


 二年以上も眠りについていたマリアはある日当然呻きだし、意識を取り戻すようになった。穏やかな寝顔とは違い酷く荒んだ目つきをしていた。

 髪の色が急激に変化し、黒と赤と白の混じる銀髪へと変わっていく。


 当初こそマリアも困惑していたが、事情を説明すると、マリアの目つきが柔らかくなるのを感じて嬉しかった。わかっている。理解している。自分の世話をしてくれていた人だとマリアが理解していてラーナは嬉しかった。


 ラーナにとっては二年以上にもなる。もうマリアが存在することが普通になりつつあったラーナにとって、それは喜ばしいことだった。

 何より性格が良かった。

 頼んでいないと言われる世界だ。そんな事は頼んでいないと。

 助けを請われていたとしてもそう言われるのが当たり前の世界で、マリアの性格はラーナにとって都合が良かった。

 借金をしている。お世話になっているとマリアは言う事を聞いてくれた。それがラーナにとってはとても好ましかった。

 借金は踏み倒すのが当たり前の世界で、仕事を手伝ってくれるマリアが可愛いく、構いたくて仕方がなかった。

 一番は何よりも自分に従ってくれること。


 家はラーナのテリトリー。物の場所や配置、やり方はラーナが決め、それ以外のやり方には嫌悪を感じる。ジョゼがラーナの手伝いをすると文句を言われた原因の一つがこの家事のやり方や配置の把握の失敗だ。そんなのどうでもいいだろうとは言うが、仕事でも後輩が従ってくれなければ憤りや不満を覚える。

 ラーナがしつこく文句を言えば、ラーナもストレスだろうとジョゼは家事に一切手をつけなくなった。文句を言われるのも嫌だからだ。ジョゼが家事をやらなくなった原因の一つがこれだとラーナは自らの体験を思い出し溜息をつく。それはジョゼの態度ですでに把握してしまっていたことだ。


 マリアはラーナのやり方に極力従い、ラーナもマリアのやり方、配置に温和に対応した。自分がこの家にとってお世話になっている立場なのをマリアは良く理解しているとラーナは感じた。

 郷に入れば郷に従え。

 ラーナにとってその謙虚さは心に染みるものがあった。


 この世界の普通において、このような子は滅多に現れない。よほど親がしっかりしており育ちが良いか、何か裏があり意図的に行っているかのどちらかしかないとラーナは考える。


 尽くすと言うものも難しい。

 掃除をしたり料理をしたり、ラーナにとってはしてあげている事でもジョゼにとってはさせてあげている事だった。

 掃除も料理もジョゼが自分で出来るからだ。

 食べたい料理も本当は自分で決めたい。脳裏に並べられた料理と実際並べられた料理が違う。自分が選んだものならば不味くても仕方がないが、自分が選んだものでもなく味も好みでなかったのなら、仕方なく食べる部類に入ってしまう。

 一日なら良いがそれが毎日続けば不満も溜まる。

 別に無理して用意しなくてもいいのにとそう告げるジョゼにラーナは奥歯を強く噛んだ。


 文句を言わずにと言う時点でストレスになってしまっている。僅かな不満でも蓄積すれば爆弾となり、夫婦を続けるうちにそういった僅かな不満が少なからずラーナとジョゼの間には溜まっていった。ラーナもそれを意識して感じていた。


 最初からいくつかの料理名を告げ、その中からチョイスして貰えばいいだけだと今は理解している。

 相手に尽くすより、裏でこっそり自分を磨いてより良い女になった方が良いと今はそう考えている。

 無償の愛で何も求めず尽くし尽くしてくれる存在なんて母親しかいない。それに慣れてしまっている意識を改革するのも難しいとラーナも随分と考え悩んだ。


 お互いの行動を合わせるのも問題だ。

 例えとして海に行きたいジョゼと山に行きたいラーナがいる。どちらかにしか行けないのなら、どちらかが我慢をしなければいけない。毎回スケジュールを合わせるのもストレスになるし、相互が我慢し合わせ平等だから許される。

 しかしジョゼはラーナを優先せずレーネを優先した。

 不平等。理不尽。我慢。居た堪れない。

 ラーナはジョゼとレーネに対してストレスしかなかった。


 そんな中、誰かが自分のために何かしてくれる事自体が感謝すべきことであり、当たり前ではないと考えている節のマリアを眺め、ラーナはすぐにこの子を捕まえようと考えた。

 糸を張り巣を張り、マリアを絡めとろうと考えた。二年はラーナにとって長すぎた。今更マリアを手放せなくなっていた。

 何処かに行ってしまうのではないかと不安に囚われた。


 マリアがいなくなれば、またあの地獄のような日々が始まってしまうと悩んだ。ラーナはジョゼとレーネにはもううんざりだった。


 今更ミラジェーヌが迎えに来たとしてもラーナは納得できなかっただろう。

 二年間世話をしてきたのは自分だ。ラーナはマリアに対してその見返りを欲した。欲しいと考えてしまった。それを卑しいと感じていても、感情が納得してくれなかった。


 傍によるとぎこちなく、動きから意識してくれていると感じた。

 そのマリアの荒んだ言葉使いが、その荒んだ目つきが、自分(ラーナ)を知覚している間だけは和らぐと、それが堪らなくラーナには好ましかった。

 加えてマリアは都合を優先してくれる。

 我儘を言い意思を通し甘えられた。

 どうしてもマリアに傍にいて欲しかった。


 ジョゼとの関係までも利用した。遠くでレーネと仲良くしているジョゼを見せつけて反応を探った。気にしてくれているとわかった。

 絡めとれた時、ラーナはほくそ笑んでいた。

 だがラーナがいかに蜘蛛であろうとしても毒はなかった。ラーナは本来温和で直線的な性格であり策略とは無縁だったからだ。しかし捕らえた蝶は猛毒だった。


 些細な動作が無意識の誘惑としてラーナの意識に浸透していく。

 責任をとってと言うその言葉に打ち震えて喜んだ。

 私のものだ。私だけのもの。この子は私だけのもの。

 捕らえたはずの蝶の毒にやられ、ラーナは夢中になっていた。

 母性を激しく揺さぶられる。

 もうジョゼはいらなかった。


 ジョゼに離婚を告げた。ジョゼは冗談と考えているようだがラーナは本気だった。ジョゼと離婚してマリアと所帯を持ちたかった。

 本気じゃないと笑っていたジョゼも、いざ誓いが破られるとラーナが本気であることに気づく。襲ってきたのは焦燥感だった。劣等感と焦燥感に悩み、手の内からすり抜けようとしているラーナにいら立ちを覚えた。

「レーネを愛しているのでしょう? いいじゃない。二人で所帯を持てば」

 そう言われていざ失うとなると置いて行かれるかのような感覚にジョゼは囚われてしまった。

 怒っているだけだと本気に捉えることを拒んだ。


 しばらくすればまた元に戻るとジョゼはそう思い込んだ。思い込むことで自分を納得させようとしていた。

「俺はお前も愛しているんだ」

「そう言うのはもういいわ。疲れるだけだし」

「ずっと三人仲良くやってきたじゃないか⁉ ひどいと思わないのか⁉ レーネが可哀そうだと思わないのか⁉」

 焦燥感は執着となりジョゼはラーナをしつこく引き留めた。

「もう終わったのよ。貴方と私はもう終わったの。レーネと仲良くすればいいじゃない。もう関わらないでとは言わないけれど、ちゃんとしなさいな」

「俺は‼ お前達のためを思って頑張ってきたんだぞ‼」

「じゃあもう私のためには頑張らなくていいわ」

 ラーナにとってジョゼは過去の存在で、ただの幼馴染だった。離婚も成立している。ジョゼを視界に捉えると逢瀬がフラッシュバックし、それを激しく拒絶してしまうのもある。思い出したくもない。過去がなくならないのが何よりも苦痛だった。


 その記憶を持ってマリアに触れる自分が堪らなく嫌だった。

 何度体を洗っても拭えない。それをひた隠した。

 マリアにジョゼとの会話を聞かれるのも嫌だった。

 綺麗な自分だけを見て欲しかった。なんて浅ましいのだろうと自分でもラーナは理解している。


 それでもマリアを離したくなかった。マリアはジョゼと夫婦だった事を理解している。もちろん関係があることも理解しているだろう。

 拭うようにひたすらに関係を持った。爛れるように迫った。何もかも入れ替えてほしかった。マリアのニオイが染みこむたびに、愛おしさが増した。


 求めてくれる。求めてもいいと言ってくれた。好きだと言ってくれた。毒が回る。毒が回る。毒が回る。

 交わることを日課に組み込んだ。交わる事が日常で当たり前のことだと刷り込んだ。

 指輪は何よりも好ましかった。指輪をはめると、マリアの事以外がどうでもよくなった。ジョゼとの逢瀬の記憶もどうでも良くなった。

 そしてマリアが、そこまでして自分を欲している事に歓喜した。

 ラーナにとって、望んだ日々の始まりだった。


 病気だと言われようが依存症だと言われようが構わない。マリアの体のラインはラーナにとって好ましく、その義理堅い性格は唾を飲み込むほど欲するものだった。ラーナにとってマリアは理想の相手だった。

 愛情深く、いくら求めても拒まない。こちらの事も考えてくれて優先してくれる。

 時折別の女の事を考えていると察することもあったが、それはラーナを燃え上がらせるだけだった。


 ウッドデッキで夕日を見ながら交わす唇は、まるで初恋のように甘酸っぱかった。恋をしていると感じた。今恋をしているとラーナは感じていた。ラーナにとって初めての感情だった。

 全てあげると言われた時、マリアの中で何かが吹っ切れたのだと感じた。

 ラーナは嬉しくてたまらなかった。もうこの子は私のものだ。


 例えミラジェーヌが迎えに来たとしても、この子は帰らないだろう。

 恋と愛が混ざりあい、複雑な感情となって押し寄せる。

 好まずにはいられない。触れずにはいられない。

 爛れてはいたが、穏やかな日々だった。

 もうベッドから出さないというほど夢中になる日々だった。好きで好きでたまらなかった。もうマリアが触れていない箇所はない。

 何よりも余韻が良かった。


 逢瀬を終えた後、マリアが潤んだ瞳を向けてくる。座り腕の中に納められて、髪を通る指の感触と頭上で鳴り響くリップ音にラーナは顔を歪めてしまう。

「……チュッ」

 痛いわけじゃない。痛いわけじゃないのに苦しい。痛みじゃないのに、苦しいわけじゃないのに、内から溢れる歓喜のような感情の波に打ち振るわされて苦しいと悶える。


 何度も響くリップ音に息が止まり、頬を流れる雫が熱さだけを訴えて来る。

 今まで一度でもこのような筆舌に尽くし難い感情に囚われた事があっただろうかと鼻をすすり、マリアに身を寄せて悶える。

 聞こえる鼓動に溢れて堪らない。

 愛されている。私、今、すごく愛されていると。

 愛と言うベクトルの感情と波。

 歓喜の感情が胸を刺して痛かった。波のように押し寄せ身が震え、引くように余韻が残る。その痛みと和らぎの交差に突き動かされてマリアに身を寄せずにはいられなかった。その感情をマリアに伝えずにはいられなかった。背中へと回した手に力がこもって仕方がない。

「チュッ。ラーナさん。チュッ」

「あーもう……チュッ。なんでそんな事言うの。チュッ。好き。大好き。愛してるの。チュッ。マリア……マリア」

 堪らなくて堪らない。

 芯に染みわたるようにラーナは満たされていた。


 それからも些細な積み重ねにラーナは頬を緩めた。コップをとってくれる。絡まる視線と緩める頬。夕食時の美味しいと言う言葉。どれもこれも些細な事なのに。ラーナの中にふんわりと溜まって行く。

 私を思い、考え、行動してくれているとラーナは察してしまう。

 笑う時に思わず口を手で隠してしまった。はしたないと感じて欲しくないなんて。そんなお上品なお嬢様のわけはないはずなのに。

 土に汚れた頬。汗のニオイ。蒸れ。とても華やかとは……。

 私でいいのかな。答えは知っている。

 貴方がいい。答えも決まっている。

 これが欲しかった。これだけがずっとラーナは欲しかった。

 撫でるお腹が愛おしい。

 心のドアを少しずつ少しずつ開いてくれているようで零れそうになる。

 悲しいわけじゃない。寄せた頬、頬を伝い混じり合い、少ししょっぱくて、息が止まりそうで、思い出の中で打ちひしがれていたあの頃の自分が微笑んでいるのをラーナは感じていた。


 しばらくすると二通目の報酬受け取り案内が来て、二人はそれも無視してしまった。数日後ついに三通目がやってきて、そろそろ眼鏡が直接やってきそうだとラーナは重い腰をあげやっとギルドへと出向くことに。

 ついでに面倒な依頼をまわされるのだろうなと、背中にへばりついたマリアと離れがたく足運びもさらに重く鈍くなる。しかし眼鏡がここに来るのもそれはそれで面倒だとラーナは考えた。足は重いが終わらせた方がいいだろうと考えた。

「……ちょっとギルドに行ってくるわね」

「ダメ。やだ」

「すぐ戻って来る」

「オレも行く」

「ダーメ」

「なんで⁉ やだ‼」

「すぐ戻って来るから」

「そんなのやだ‼ なんで⁉ 離れたくない」

 子供みたい。でも子供みたいでも構わない。素直でいい。腕に力が込められてなお良い。くっつかれてなお良いとラーナは頬を緩ませる。

「ごめん。我儘言ってる。でも、離れたくなくて。苦しい。だからオレも一緒に行きたい」

「私も行きたくないのよ? それに二人だとすぐ一日が終わって取りに行けなくなるでしょう?」

「そうだけど……」

「浮気が心配?」

「……そんな事はない。オレが離れたくない」

「ほんとかなぁ?」

「やなの。少しも離れたくない。ため息ばかりでる。なんでこんなに離れたくないのかわからない。ごめん……なんか子供みたいで嫌なんだけど、抑えが効かなくて」

 子供みたいな性格の方が素なのだろうなとラーナは感じていた。無理して大人ぶっている。素と仮面。どちらもマリアを構成する要素で、おそらくどちらもマリアで間違えない。子供みたいな性格が嫌で作られた性格なのだろうなとラーナはそれを愛おしいと感じた。


 私と接する時は、素が大きく出て来るのだろうと、自分をさらけ出すマリアの様子が愛おしかった。同時に、今他の人間にマリアを近づけたくはなかった。家に閉じ込めて監禁したいとすら考えてしまった。誰にもマリアの存在を把握されたくない。自分一人知っていればいい。


 私だけのものだとラーナの素の側面も露わになっていた。

 思い描いていた理想の愛情。それを満たしてくれる人。奥底に仕舞い込んでいた感情が取り上げられるのを拒み理性では抑えきれない。

 こんな人、二度と会えない。絶対に手放したくない。


 何よりもミラジェーヌを警戒している。もう私のものだ。誰にも渡さない。私だけのものだ。指輪の効果によりたった一人に向かった愛情が二人の独占欲を加速させていた。

 ギルドではミラジェーヌの情報がマリアの耳に入ってしまうかもしれない。

 その時、マリアが動揺するような表情を見せたのなら、ラーナは自分でもマリアに何をするのか想像できなかった。本当に監禁してしまうかもしれない。


 このような感情が自分の中に渦巻いているなんてと、私ってこんな性格だったのかとラーナもため息が漏れる。

 それでも、それでも……その先は言葉では表現しきれずに、ただただマリアに好きでいてほしいなんて願望を噛みしめて口に出さず打ち震えるしかない。

「……私もね。貴方と離れたくないのよ? 貴方を閉じ込めてしまいたい。私だけのものよ。私だけのもの。貴方は私のもの。私もこう考えてしまうの。嫌よね?」

「別にいいけど……もっと考えていいけど。監禁は……トイレに困るから嫌だけど。トイレに外に出てもいいなら監禁してもいいけど」

「いいんだ」

 ラーナは少し笑ってしまった。どれだけ自分をさらけ出してもいいのだ。彼の前ではそれが許されている。伴侶だものねとラーナは安らかな気持ちになる。

 なんて満たされているのだろうと感じる。

「だから、一人で行ってくるわね。すぐ戻るから。ね?」

「うー……」

 それでも嫌だと言いたいのに、大人ならば我慢するだろうと、ラーナさんを困らせてはいけないと仮面が素を押し付けているマリアの様子にラーナは悶えずにはいられなかった。

「じゃあ……詰めていいから。いっぱい詰めて行くから、それでいい?」

「そう言う問題じゃねーよ……」

「ね?」

「違うの。ラーナさんの心に寄り添いたいの。ラーナさんに愛されたいの」

「愛してるわよ。ふふふっ。愛してる。愛してる」

「うー……」

 両手を握り頬へ当ててしまう。

 若い頃、オリガの頭領に愛される女になれと言われた事をラーナは思い出した。お前は世界で一番いい女じゃないだろうと言われ、うるせぇババアと反抗したのを今でも覚えている。

 こんな女は他にいないとそう言う女になれと。

 その意味を今ごろ噛みしめている。


 それからしばらくして、ラーナは自宅を後にギルドへと向かった。

 いっぱいだ。いっぱい。撫でるお腹も愛おしい。見えなくなるまでマリアが見送りしてくれて、何度も振り返りながらラーナは歩き出した。


 雑貨屋の前を通るとレーネがおり、レーネはラーナの姿を視界におさめると立ち上がった。前はレーネを見かけるだけでささくれていた感情が、今は何も感じない。スキップすら弾む。


 ギルドへ入り眼鏡ことキンジャ・マクレイニへと軽く手を挙げて挨拶をかわす。

「やっと来たか」

「ごめんなさい。お待たせしちゃって」

「マリアはどうした?」

「あの子はお留守番よ」

「そうか」

「気になる?」

「あのくらいが一番死亡率が高いからな。何百日も眠っていたんだ。今あぁしているのが奇跡なくらいだ。……それじゃまず猟兵ラーナ。お前に聞きたいことがある。こないだの依頼中に関してマリアの戦闘能力とテーブルラインを聞きたい。あんたはどう思う?」

「……そうねぇ。戦闘能力に関しては未知数かしら。拘束系の魔術を主に使用していたわ。それぐらいかしら」

「それはホールド系の魔術と言う事か? それともアーム系の魔術を使用していたと言う事か?」

「ホールド系かしら」

「……特殊な家系の出かもしれないな。ミラジェーヌは行きにマリアを連れていなかった。まさかジュシュアを討つとは考えられなかったが、成し遂げてしまったのは誤算だな。帰りにはマリアがいた。マリアはメルマスの出である確率が非常に高い」

 ミラジェーヌと聞いて、ラーナは眉を潜め奥歯を噛んだ。聞きたくない名前だ。メルマスの出、奴隷出身かもしれないし、商人出身かもしれない。ラーナが一番しっくりくると考える答えは貴族の隠し子あたりだった。父親か母親の片方が貴族で、片方が平民。そうであればあのモラルに加えて謙虚さにも納得できる。

 帰ろうとしないのを鑑みるに、実家に居場所はないのだろう。それはラーナにとっては心の浮く話だ。


 ラーナは次いでテーブルラインについて思案を巡らせた。

 テーブルラインとは、ギルドが行う個人調査の一つだ。資質と言ってもいい。本人にモラルがあるかないかの判断をする。これは猟兵として一番重要な資質だ。

「テーブルライン(性格、性質より)はイノセント(無垢、無邪気)よりのグッド(善より)だと私は思うわ」

「イノセントより……その根拠は?」

「子供っぽいのよ。頑張って大人ぶって話そうとしている節がある。あの容姿だもの、あまり待遇が良かったとは思えないわね。グッドの根拠は人を殺した事を後悔しているようだから」

「……人を殺した経験があると?」

「本人が、盗賊を殺したことがあると頭を下げて詫びて来たわ」

「盗賊を殺して頭を下げる。なるほど。それがブラフの可能性は?」

「限りなくゼロだと私は考える。贔屓目に見ている面もあるから、それは貴方が判断すべき事だと思うわ」

「なぜ盗賊を殺したぐらいでお前に頭を下げた?」

「お世話になっているのに、良くしてもらっているのに、俺は人殺しだって、人を殺したことがあるのに申し訳ないって頭を下げて来たの。膝に土をつけて頭を下げてきたわよ。盗賊如きを殺した程度でね」

「盗賊如きか。盗賊の中には困窮して仕方なく盗賊に身を落とす者もいる。まぁアンダーはそんなことしないか」

「自身が困窮すれば他人から奪っていいなんて考え自体が間違えだと思うけれど?」

「まぁお前には理解できないかもしれないな」

「それに仕事が真面目なのよ。繊細で完璧主義と言ってもいい。私に迷惑がかからない仕事を心掛けているの。それに部屋に入って来た虫を殺さずに逃がすのよ? アンダーはそんな事しないわ。私、殺した時、怒られたんだから」

「なるほど……過去は聞いたか?」

「聞いてないわ。何時か聞けるかもしれないけれど、一切話す気がないみたい」

「なるほどな。グッドか。それは喜ばしい。アンダーの比率が多い中、グッドの存在は稀だ。しかも魔術師。ギルドとしては嬉しい限りだ」

「あげないわよ」

「おっとそれはアイツが決めることだ」

「私がいるから大丈夫」

「もういっそう親子みたいだな。まぁいい。ではまず前回の報酬からだ。報酬預かり期間をだいぶ過ぎているからその分引かせてもらう。それでも霊銀貨二十二枚が報酬だ」

「確かに。どうも。そういえば思い出したのだけれど、まさか王の護り手(ナイト)がこんな所にいるなんて思わなかったわ」

「王は未だにあんたにご執心だよ」

「まさか探して貴方が派遣されたわけじゃないのでしょう?」

「そりゃまぁな。だがあんたの絵が王の寝所に飾られているせいで王妃はカンカンだよ。子供を作ろうとするたびにあんたの顔がちらつくからな」

「それ何時の絵よ? あー……そういえばあれ、あいつ、今はもう王妃なのね。何度も興味がないって言ったのに、何度も刺客を贈られたわ」

「ご愁傷様」

「でも貴方がここにいるってことは何かあるのでしょう? 王女様が関係しているの?」

「そうだな……。あんたには言った方がいいかもしれない。直接的には関係してはいない。ただ赤蛇は確実に集結しつつある。乱が起こるのはほぼ確定だろう。なんせ第二(ラクシャサ)の不貞でジュシュアが討たれたのだからな」

「ジュシュアとアカシャ……王家は大変ね……まさか?」

「そうだ。メルマスに動きがある。ここも見逃してはくれないだろう。俺がここにいるのはそう言うことだ。そうなったら例えアンタでも無理だろうな」

「やーねぇ。庶民の事情なんてまったく考えてくれないのだから」

「政治っていうのはそういうもんさ。もしかしたら指名依頼が出るかもしれない。覚悟しておいた方がいい」

「なるほどね。わかったわ。貴方も大変ねぇ。こんな辺鄙な村に派遣されて」

「給料はいいんだよ。給料は。労いに一夜付き合ってくれてもいいぞ?」

「私、なんて返したらいいかしら? ごめんなさい? 無理だわ? 遠慮しておくわね。どれがいいかしら」

「……随分とお堅いもんだ。それも娘さんの影響で?」

「そうよ。あの子が一番なの」

「すっかりお母さんだな」

「あなたも所帯を持てばわかるわよ。人を愛するって素敵な事よ?」

「うーぅ。今日は一段と素敵だねラーナ」

「ぶふふっきっしょ」

 良く女を褒める男は信用するな。料理の上手な男は信用するな。そんな言葉がオリガの教えにあったのを思い出し、ラーナは笑みを浮かべてしまう。

 勘違いするなら勘違いしておけばいい。マリアに男もの服なんか着せない。周りの女はあの子を女だと考えていればいい。それで構わない。


 おそらくミラジェーヌもそう考えただろう事を察してラーナは心の中で苦虫を噛み潰していた。ミラジェーヌは趣味で着せていただけだ。なにより本人が服装に無頓着だったから遊んでいた。


 あの目、マリアの目の形に何時もラーナは引き込まれそうになる。

 壁画に出てきそうなあの魅力的な瞼の形。

 脳裏を過るあの長い髪がマリアに良く似合ってしまっていてラーナは深い息を吐く。顔の造形と形が完璧ではないのに、そそる形状をしており困る。恥ずかしがる表情は一入で、絶対に他の人間の視界には入れさせたくない。

 自分の好みが入っているのはラーナも重々承知はしている。思い返して頬に熱が溜まるのを感じてラーナは手で顔を仰いだ。

 ギルドに都合の良い報告をしてしまった。嘘は言っていない。それを悪いとは考えない。ギルドも鵜呑みにはしないだろうとラーナは考えていた。


 「……ところで、どうして王の求婚を断ったんだ?」

 ギルドを後にしようと背を向けたラーナに、眼鏡ことキンジャはそんな質問をした。ラーナは少し振り返り答えた。

「ドレスってガラじゃないのよ。社交界とかほんと無理」

 財で掴まえられる女じゃない。

 だから王が本気で惚れたのだとキンジャはそう感じた。

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