第11話
ミラジェーヌにはだいぶ憎まれた。
なぜ生かしたのとすぐ死のうとする。
もう済んだ話だ。オレを憎むだけで生きられるならそれで構わない。
「剣があんだろ。それでジュシュアの件を片付ければ済む話だ。任務を遂行したのなら褒美が得られんだろ」
「そういう話しじゃないでしょ‼ そう言う話しじゃないでしょ‼ 私は‼ 私は‼」
ミラジェーヌは穢れた体と自分を蔑んでいた。
「そう言う話しだ。全てを忘れて国へ帰れ。両親とか……なんかいんだろ」
部隊の隊長としての責務を忘れ、失った仲間の敵を忘れ自失と快楽に溺れていた。仲間を殺した男を受け入れ、それだけならまだしも魔物を受け入れてしまった。ミラジェーヌはそれを深く悔いているようだった。
「お前は‼ お前は‼ 穢れたこの身で生き恥を晒せというのか‼ あぁっ……」
思い出すたびにミラジェーヌは水場へ走り、水がないなら植物の葉を毟って体をゴシゴシゴシと擦った。出血しようが傷だらけになろうがお構いなしで、止めると血走った目でオレを睨んだ。
「汚い‼ 汚い‼ 汚い汚い汚い汚い‼」
火を起こすと座ったまま、ギラギラとした目でオレを見ていた。
「お前も穢れればいい‼ お前も穢れてしまえばいい‼ 死ね‼ しねぇええええええええええええええええええああああああああああああああああ‼」
狂ったように暴れ回り、剣を振り回し、ひとしきり暴れ回ると気を失う。
また起き上がると錯乱し――火で自分を焼こうとする。
「ぁあああああああああ‼」
「うるさっ」
無理やりやられるのは、たぶん男だったらケツを掘られるのと一緒だ。ケツを掘られるのはオレだって御免蒙りたい。
「なんで死なせてくれないの‼ なんで‼ なんで‼ なんで‼」
「特に意味なんかねーよ。自己満足だこの野郎」
「殺してやる‼ ころじでやるうううううううううう‼」
襲い掛かって来るミラジェーヌを押さえて飯を食わせる。女って言うか獣みたいだ。
「うがうがうが‼」
肉を食べるのか、噛みつくのかどっちかにしろよ。
肉にかぶり付きながらこちらを見る姿はまるで獣のようだった。
安心しろよ。お前より穢れたオレが生きているのだから、お前なんかだいぶ平気だ。いや、オレは掘られてねーけど。ただ遥かに血生臭いのはオレの方だ。
殺人鬼とただの被害者。どちらが穢れているのかと問えば、それはやはり殺人鬼の方が穢れているとオレなら考える。
夜――帽子の中で横になっていると肌を撫でる感触がした。
メイリア――お腹のラインへのさわり、寝ぼけ眼に目を開けるとミラジェーヌがいた。お前かよ。メイリアの夢を見ていたのに。
「ひひっ……ひひひっ」
殺しに来たか。睡眠中の警戒魔術はまだ作っていない。基本的に帽子の中に入ってこられるとは考えていないからだ。【纏】を使ってもいいけれど、こういう場合にミラジェーヌが吹っ飛び傷つく。剣を持ってないあたり、本気とは考えていない。
警戒はしていない。コイツがオレを殺すと言うのなら、そこで死ぬ運命なのだろう。
腕や腹に爪が食い込み血が滲む。いてぇよ馬鹿。
手を握りこみ引っ掻くのを阻害するとミラジェーヌの顔が歪み暴れようとしたので押さえ込み体勢を変える。足で暴れるのでマウントポジションを取るとミラジェーヌは余計に暴れたので強く抑え込む。
今度は噛もうと体を持ち上げてくるので押さえた手の平から肘の関節を利用して体を持ち上げられないように調整する。
「殺してやる‼」
ガチガチと噛み鳴る歯。
最初に会った時と全然違うじゃないか。精神が完全に崩壊している。どういう心持になったらこんな表情と台詞を言うようになるのか。それほどまでに失ったものが大きかったのか。まぁでもオレも無理やりケツを掘られたらこんな感じになるのかもしれない。
体を倒して密着させると右肩を噛まれた。
「うぅうう‼ うー‼ ううう‼」
犬みたいに顔を振りやがって牙が肉に食い込んでいる感触がする。【依存して】と【継いで補修する】を発動する。
「お前も穢れればいい‼」
ケツを掘られるのは勘弁だ。
「そうかよ。好きにしろ」
体中がひどい苦味に犯された。喪失感でくたばりそうだ。それでも、拒否すればミラがさらに傷つくと感じていた。わかっていた。抵抗しなかった。
体中ひっかき傷で、血が滲んでいた。
離れたところで、ミラが鼻をすすりながら泣いていた――体を手で擦り洗いながら鼻をすすっていた。泣くなよ。オレはどうやらまた間違えたようだ。
傍に行く。泣くなよ。後ろから抱きしめる。
「オレが洗ってやるよ」
なすがままにしたのが悪かったよな。ちゃんとオレから求めなければいけなかった。
耳の裏に鼻を擦りニオイを嗅ぐ。指を取り、口にふくむ。嫌な味だ。嗅ぎなれた嫌な味で少し辛い。
「お前は魅力的でいい女だよ」
「死ね死ね死ね死ね。男は死ね‼」
「オレが悪かったよ」
全ての男が悪いわけじゃないのはミラもわかっている。女の中にも悪い奴がいることをミラもわかっている。
鼓動に鼓動を重ねる――獣ではなく人として接する。愛とは程遠いかもしれない。なぜだか、オレも少しだけ楽になった。
「お前は汚くなんかない。大丈夫だ。お前は汚くなんかない」
頬に唾液を含めた唇を付ける。ねっとりと唇で頬を撫でる。
「うぅっ……」
頬を伝う雫はしょっぱくて。寄せた頬はマグマのように熱かった。
「お前は綺麗だよ。オレよりはるかに綺麗だ」
苦く、草の味がした。
丁寧に丁寧に全身をざらざらと撫でる。唾液を含めてざらざらと撫でる。
「お前は汚くなんてねーよ。だから大丈夫だ」
「うーっ‼ うぅっ」
反応だけは良く見た――引く時はゆっくりと傾けて壁を強く擦る。何処が一番彼女を反応させるのかを眺める。
「はっ‼ はっ‼」
「大丈夫大丈夫。汚くなんかないよ」
オレよりもずっとその身は綺麗だった。
何度も何度もミラを求めた。オレから求めた。泣いていた顔。諦めていくように力が抜けていくのを感じた。時間は戻らない。現実は変わらない。事実は受け入れるしかない。それがどれほど残酷で悲しかったとしても。それが言えるのは、オレがまだ尻を掘られた事が無いからなのかもしれない。とてもじゃないけれど、人に言えた台詞ではなかった。
それからミラジェーヌは少し大人しくなった。代わりにオレに触れたがった。オレに良く質問してきた。
「あたし、変じゃない? あたし汚くない?」
そう言い、水面に映る自分を整えてオレに見せて来る。
「変じゃねーよ」
「ほんと? ねぇほんと?」
頬を撫でてキスをすると、彼女は心の底から安堵するような蕩けたチーズみたいな表情をしていた。
「見たい」
「オレは中がいい」
「見たい‼」
強く動かす必要もない。
「べとべとしてる」
何度肌を重ねても構わない。
壊れた心を元に戻そうとしているミラと鼓動を重ねていた。
彼女は上を好んだ。下は嫌だと言う。しかし好きにさせると拗ねる。だから求める。上で横たえる。
「汚くない?」
「汚くねーよ」
「……うん。もう一回、して?」
ミラジェーヌを村か街に送るついでにオレも人里へ帰ることにした。ただ場所が何処か不明なために彷徨う事にはなったけれど――山の尾根を目指し上っている。
でかい蜘蛛に遭遇した。
象ぐらいの大きさのでかい蜘蛛だ――足が長く、体を丸め腹先をこちらへ向けると糸を飛ばしてきた。糸は網目状で白く太い。
人間相手にそのでかさの糸は何なんだ――通常なら囚われた時点で終わりそうだ。身動きが取れなくなるのはもちろんの事、呼吸すら危ういだろう。
全身が恐怖を感じていた。その模様に恐怖を感じていた。本能がこの個体から逃げろと言ってくる。この模様は良くないと。【玉響の枝】を製造。
ミラジェーヌの剣が飛んできた糸を切断した。
「ネクロタラント‼」
その剣、糸が切れるのかと素直に感心した。
「星5つの魔物よ‼」
星の基準が不明だバーロ―。
ミラジェーヌは戦う時は正気に戻る。やっぱりそこは騎士の教示なのかもしれない。
「レナード‼ 前で押さえて‼ ケーニッヒ‼ 援護して‼ 私が前に出る‼ ミカ‼ 回復は任せるわ‼」
やっぱ正気じゃないかもしれない――ミラの持っていた剣は赤く赤く熱を発し揺らめいていた。
【宝剣バターナイフ】。剣なのにナイフ。
彼女の話しでは王家ロードレアの宝物なのだそうだ。
王家ロードレアは、クロイツェル共和国に三つある王家の内の一つとミラは言った。また複雑な話になりそうだ。
ここはオレのいた国より南東にあるクロイツェル共和国ロードレア領なのだそうだ。
名前の由来は岩をバターのように斬れるから。
警戒すべきはこの魔物が群れで生息しているのかどうか――。
【Arms:オーク】でケツを打ち上げる――宙に飛んだ蜘蛛へネイルを飛ばし八つの足を胴体から切断。根元から綺麗に切断したかったけれど、歪な切断になってしまった。
痛そうだね。ごめんね。
【玉響の枝】を向けて包み込む――逃げ場のない針の山。蜘蛛の表皮が装甲状には見えなくて、自重で食い込んでいく。血液は緑色なんだとそんな感想を浮かべた。正直あまり見ていて気持ちいい顔と姿ではなかった。
「みんな‼ やったわね‼ さすがは……あれ? みんなは?」
そういう演技はやめろよ。
「レナード? ミカ? ケーニッヒ? アルター? ねぇ? みんな何処?」
ミラがオレの傍に来た。
「ねぇ? みんな何処か知らない? みんなふざけてるの? こういう冗談は好きじゃないわ‼ ねぇ!? ねぇええええええええええええええええ‼」
剣が手から抜け落ちて地面へと突き刺さる。
伸ばして来た手がオレの両肩を掴み、カタカタと震えていた。
「貴方……だれ? 貴方……」
ケロリとまたミラは胃の中身を吐き出した。また吐きやがった。クリーム色の消化された何かがひどいニオイを漂わせる。
「……ジュシュア」
ジュシュアを思い出すとミラジェーヌの顔はいつも青くなる。
「あはははははははっあはははははははっ」
急に笑いだし、震えた指先でオレを掴み、拒まないのを確認しながら埋もれてくる。
「みんな……もういないのね」
蜘蛛を早めに解体したいのだが、ミラジェーヌが求めてきたので拒むわけにはいかなかった。
ミラジェーヌは横を擦られるのが好きだ。密着するのが好きだ。より面積を広く密着するのが好きだ。体のラインが擦れ合うのが好きだ。求められるを強く好む。だから強く強く求めて彼女を捕まえる。
拒否されるのをひどく嫌がる。離れようとするのを強く嫌がる。考えとか性格とかお互いの事とか、そんなことはどうでも良くて、ただ傷ついた心を誰を求めることで修復しようとしている。それはオレもそうだ。女がいて、その性格とか中身とか、そんなものはどうでもよくて、汚くないとか、そんな正当性を言いはするものの、どうでもよくて、偶然でも身を開いた女を逃すまいとしていた。
彼女が正気でも、オレは犯していたかもしれない。拒絶されていたとしても無理やり関係を持ったかもしれない。そんなオレが死ぬほど嫌いだが、それほど切羽詰まっていたのだと感じる。
オレも精神がおかしかった。
メイリアに似ていて――メイリアとは違っていた。それがひどく心に刺さり痛かった。
苦いコーヒーにはミルクが必要だが、ひどいシモネタで困る。
ゆっくり撓(たわ)み回る黒い液体にタラリと垂らしたミルクが混ざって行けばいい。
ミラジェーヌと寄り添うほどに心が切り裂かれる痛みに悶えた。ガラス片で傷つけられているような痛みに襲われて、それをミラジェーヌに悟られぬように隠した。
メイリアの形をした傷跡に、無理やりミラジェーヌを押し込めている。
好きとか愛しているとか、ミラは決して言わなかった。
そしてオレも、その言葉を決して言わなかった。
ただ求めて求めて、求めた。彼女がオレでいっぱいになるように。全てを一旦オレで塗りつぶせるように。それこそ、黒い渦を白く濁らせてベージュに変えてしまうように。
拒まないのを確認してミラはやっと気が抜ける。
手の甲に食い込んだ爪、抗えない衝動で痙攣する体、脱力と、それを見るとミラは嬉しそうに頬を緩め、安心するように胸元へ顔を擦りつけて埋もれる。
腕を持ち上げて頭を撫でようとすると拒まれる。強く握られた手を強く地面に押し付けられる。まるでお前に選択権は無いと言われているようで、軽く息を吐くと、にんまり笑みを浮かべるミラと目が合った。
ミラはオレを穢しているつもりなのかもしれない。
ミラジェーヌの戦いの動き、あの動きは記憶にあるジュシュアの動きと比べてかなり遅い。
ミラの解析データにおける話しだが、魔力の量に問題はないけれど、魔力神経回路は途切れ途切れで、例えば左手なら手首までしか通っていない。この神経回路の繋がりが魔力伝達による肉体強化の要だと判断する。
オレにもこの魔力神経回路(仮に回路Mとする)はあるが、魔力を貯める貯蔵庫(タンク)が魔術師としての神経回路(仮に回路P)に直結していて、回路Mに繋がっていないために【イグニッション】を使えない。
しかしよく考えればオレの魔力タンクはオレが増設したものだ。
使われていない本来の魔力タンクは戦士よりの回路Pに直結していた。つまりオレは本来戦士なのだ。母親が戦士よりだからだろう。
本来の魔力タンクを起動してみる――使われていなかった回路Pに魔力線が通り体中に痛みが走った。動きづらい。痺れ。指先まで魔力が通う感触。まるでアルミホイルを噛んでいるかのような強烈な拒絶感。
これは……慣れるまで時間がかかりそうだ。本来生まれた時から使っているものを今まで放棄していた。まずはこの状態を維持することを目標とする。
次いでミラジェーヌの回路を繋げる。擦れ途切れた文字列を繋げていく。【継いで補修する】。【継いで再生する】を併用して肉体を再構築する。
「かはっ」
ミラジェーヌの目が見開き、ひどくのけぞり痙攣した。体を掴み支えるとピリピリと静電気のようなものが体中を這って痛かった。
呼吸まで止まっている。瞳孔が開いたり閉じたり、やらかしたか心配になる。死ぬかもしれない。死んだら蘇生はできないぞ。やっちまったか。自分で試したのとは違う反応が起こり焦り。
呼吸が再開される――魔力神経を弄るのはなかなかに厳しいようだ。
僅かな魔力が体表で静電気のようにチリチリと浮かび、気を失ったままだったのでそのままに横へ寝かせた。呼吸が安定してくる。
心臓に耳を当てると鼓動がして、動いた手がオレの頭を撫でていた。
「可愛い……」
オレは可愛いのか疑問を浮かべる。顔が可愛かろうがカッコよかろうが、皆中身は一緒だ。人である限り思考は一定に収束するし生理現象は存在する。それは動物的な考えかもしれない。昔誰かが言っていた。良く飛ぶノミと良く飛ばないノミがいる。でもどちらも所詮はノミだ――しかし他人はオレではない。他人のコンプレックスや痛みなど、他人のオレが計れるものじゃない。劣等感はオレにだってある。それを簡単にどうこう言うのは違う気がした。性格、容姿、境遇、それは自分ではどうにもならないのかもしれない。他人は勝手に価値観を共有し押し付ける。それはオレも同じだ。
それを理解していれば、ジュシュアを殺さずに済んだかもしれない。
しかしミラの味方をするのであればやはりジュシュアを殺すことになっただろう。
体を起こすとミラジェーヌも体を起こした。そのままミラジェーヌの体を確認する。髪に手を這わせ頬までを撫でる。
ミラジェーヌは微笑んでいた。
そのまま傍に寄って来る――寄りかかって来た。彼女の体重を感じて支える。
「ねぇ……」
腹減った。その感情を押し殺して彼女を受け止めた。オレのやったことは正解だったのだろうか。下手をすれば彼女を余計に追いこんでいたかもしれない。引きこもれなかった彼女はおそらく要因を外へ求めるしかなかった。
あの時、彼女をそのまま……いや、もっとやり方があったのではないか。
泣いたり笑ったり怒ったり笑ったり、狂ったり狂われたり、彼女の頭を胸の中へ抱えて撫でていた。
「あたし、汚いよ……どうしよう」
「大丈夫だ」
「ほんと?」
「あぁ」
「汚れてくれる?」
「だからお前は汚れてなんてない。だからオレも汚れない」
「……うん」
何度も何度も肌を重ねた。両手を繋ぎ、ミラの回路へオレの回路を通じて魔力を流す。指先、手の平を伝い、流れ込んでいく魔力が彼女の体を伝っていく。腕から肩、頭から心臓、腹からモモ、足へ。得も言われぬ感覚に支配され、それをひたすらに繰り返す。
お互いの回路を拡張、強く作用させる。
「フーッフーッ」
彼女の荒い息はもどかしいと体を震わせるほどに柔らかく溜飲を帯びてゆく。
目がオレを見ていた。オレの顔を見ていた。怒りでも憎しみでもなく、辛さでも悲しさでもなく、柔らかく柔らかく、目を細めてオレを見ていた。力を込めて強く体を掴んでいた。今は離さない。今は絶対に離さないと――本能を突き動かされ、彼女の汗と体温と指の造形だけがオレを撫でていた。
冷めて熱し、叩いては熱し、鉄を鍛錬するかのように冷めては熱し、叩いては熱し、お互いを折り合わせてより強い鉄を作るかのように、叩いては熱し、冷めては熱し、叩いては熱し冷めては熱し。
受け入れているつもりが受け入れられていたのは自分じゃないかと気づく――離れようとすると彼女が力を入れ、彼女がやめようとするとオレが縋った。
体も回路も何度も繋がり離さなかった。より強く離さなかった。
気を失うと彼女のモモの上で目を覚まし、彼女が気を失うとオレが彼女を支えて撫でていた。干し肉を口に入れてふやかし与え、二人して獣のようにしゃぶり食べた。これでも死なないのだから不思議なものだ。魔力を回すことでお互いの魔力がエネルギーとなって体を支えている。痩せることもなく、肉はよりにくにくしくなっていった。
求めるほどに彼女は喜んだ。モモを滴り指ですくわれる。微笑む彼女に突き動かされて求め、また縋り付く。受け止められているのか、それとも請われているのか。全てが彼女の中だ。
指の感触、胸元からお腹へ流れ――寝ぼけ眼。唇を撫でてくる指をはむはむと噛む。
お互いが偶然手にいれられたチャンスを逃すまいとするかのようだった。
黄昏時にいる。
眠っているミラに身を寄せて――目を閉じた彼女がそっと笑む。いいよって。かすれた声で言ってくれる。好きにしていいよって。お返しに耳元で呟く。お前も好きにしていいよって。本当に好きなようにされるから困る。寝ていようが関係ない。手でも何でも無理やりで強制的だ。それを受け入れられて彼女はやっと安堵する。
だが腕の中で彼女を愛でているつもりが、包まれているのはオレの方なのかもしれない。
それは強く苦々しかった。
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