第9話

 魔術で植物を作る。

 魔術で作った植物がそのまま自生すれば荒れた土地も改善しそうだけれど、そんな簡単にいくわけもなく、やはり魔術扱いなので魔力が途切れると消えてしまう。

 ただ魔術で植物を作るのは悪くなかった。

 色々なものを解析して魔術として構築した。

 動物、植物、無機物――空気の間に魔力で作った空気を詰め、消失させることで強制的に発生させた真空状態による強制断裂で何かできないか考えている。

 ダメだ。使い道が模索できない。生物に使うのはあまりに残酷すぎて、癖になりそう。

 重力に関しても難しい。

 まず前置きとして――解析よりどうやらこの星のコアは太陽のようだ。

 何を言っているのだコイツは。

 この星のコアは太陽だ。小型の太陽で回転している。周りに比重の高い金属が乱流しており、ジャイロ効果によって安定をもたらしている。

 このジャイロ効果が非常に重要で球体を安定させ重心を作っている。

 そして無重力化における回転の慣性と金属が回ることによって生じる強力な磁場が大気を繋ぎ留め、重心がコアの中央にあることによって重力が発生し物体を繋ぎ留めている。

 何が言いたいかって言うとこの世界で重力を発生させるのには無重力下であることが絶対的な前提条件で、しかも重力はコアの出力に影響するので、強い重力を発生させるには強力なコアが必要で、そのコアを作るのと維持するのに多大なエネルギーが必要になるって話。星の重さが重心に向かうことによる引力が重力だからだ。

 だから重力を魔術で発動させるのは簡単だが、物を捻り潰すような強い圧を生じるには膨大なエネルギーが必要だという話し。

 そもそもなんでコアを太陽と思い込んでいるのか。

 自分に都合の良いように解釈している。まぁ、その、なんだ。こんな感じだとふんわり語るぐらいの脳みそしかないのだ。なんだ。コアが太陽って。重力ってなんだ。

 惑星というのは内部に恒星を抱えるもので、案外彗星というものは、星が終わり軌道を外れて流れていく姿なのかもしれない。


 この世界における四大要素について。

 一つ、ボクには空間を操ることは難しい――脳に魔力部屋を作る行為は脳にある記憶領域にスペースを作るものであり、厳密には空間を操っているわけではない。

 例えるならパソコンでドライブCの内部に仮想ドライブDを作るようなものだ。HDD(ハードディスク)やSSD(ソリッドステート)を増設する行為じゃない。

 それを考えると【賢者の帽子】の能力は破格だ。

 【賢者の帽子】の能力については解析状不明瞭な部分が多い。最初に編み込まれた能力とは別に、別の能力を付随した痕跡がある。この上書きと言うのか乱立した情報がこんがらがっていて解析に難がある。現状のボクの言語能力では解析不能だ。

 おそらく空間を操る術はある。しかしこの【賢者の帽子】のような収納物を人工的に作るのは難易度が高い。この帽子には揚力が付与されている。つまりこの帽子に付随した空間の重さも存在し、ただ空間を操る術を学べば良いと言うわけではない事が伺える。

 つまるところアイテムバックを作ったとしても、それに対応する揚力がなければ、その中に入れた物の重量がそのままバッグの重さになると言う事だ。あほくさ。

 もしこの世界においてアイテムバックのようなものが存在するのなら、それは間違えなく技術の結晶か、女神の御業だろうと推測する。

 重さに合わせて揚力を調整する機能が付いているこの帽子を見て、自力での製造は諦めた。


 二つ、時間に関して――ボクには時間を操るのは不可能だ。厳密には無い。と仮定したほうがいいかもしれない。今の脳みそで時間を構築するのは不可能だ。何も知らないままだったのならもしかしたら時間も操れたかもしれない。仮に時間を操ったとしてもこの世界の時間とは別の時間となり、その中で生まれた物にしかその時間は作用しない。


 三つ、ボクには蘇生魔術は使えない――一度死と仮定された者を生き返らせることは不可能だ。体の傷を癒し、生前に戻す事は可能だけれど、そこから稼働しない。


 元素について。

 ボクには風を操ることはできない――厳密に言えば大気を操ることはできる。風を使って敵を切り刻むなどの行為は不可能だ。いや、可能なのかもしれない。ただ【キャットネイル】があるので風を使う意味がない。【キャットネイル】の不可視化は可能だ。それを踏まえた上で風を利用する理由が無い。

 大気を乱流させトルネードを作る事は可能だ。だけれど発生までのラグがあり、強力なトルネードを作るとなると時間がかかる。そこまでして土地を破壊するような魔術を使うのかと考える。

 いや別にトルネードは作ってもいいだろ。いや、それによって生じる副次的な効果でどれだけの影響がでるのか把握できないからダメだろ。

 結局オレの脳みそではこの四つに関して現状こんな結論しか導き出せていない。

 もっと頭のいい奴ならもっと上手に扱えるのに……オレときたら無能で仕方が無い。

 なんでオレはこんなに頭が悪いんだ――どんだけ木に頭を打ち付けても頭が良くなることはなかった。解析データで上げればいいと言う話しだが何処をどう弄ればIQが高くなるのか判断できない。現状できる事と言えば記憶能力の向上ぐらいだが、思い出すと苦しくなる今のオレにとってそれらの操作によって起こる記憶の奔流は地獄以外の何物でもなかった。脳を弄るのは慎重に慎重を重ねなければならない。廃人になりかねない。

 数体のドッペルが狂っていく様を見て脳を弄るのはやめた。

 例えるならギャンブルだ。負けを取り返すために大金をかけた時点で人生が終わる。負ける確率の方が圧倒的に高いからだ。そして万が一勝てたとしても負けを取り返すだけなので意味がない。消費した時間は戻らない。

 他の奴が豪運でもオレはそうじゃない……。


 【守って】と【Arms:オーク】をベースに【Arms:纏】を作った。短縮して【纏】だ。

 これはオークの筋肉を大気で再現し身に纏う魔術だ。

 この魔術により細腕でもかなりの筋力を発揮することが可能だ。また薄着でありながら身を守る鎧を纏っている状態となる。大気に金属の硬さと重さを与えるともう何て言うか人間をやめることになるほどの純粋な馬力が出る。出力自体を魔力で補うわけだから最低限の筋力で構わない。デメリットがあるとすれば重さだ。出力と重さは比例する。出力を上げるほど重くなり、その重さを補うための浮力、空力というか揚力が必要になり発動までの時間と維持するのに必要な時間が増える。この重さはかなりのネックだ。重さが無ければ威力はでないけれど、重くなればなるほど動きに制限がかかる。単純に揚力を上げればいいと言う話しではない。揚力を上げれば当然威力が相殺されてしまうからだ。このバランスがかなり難しい。自力を上げるしかない。

 この重さはネックだ。なぜなら威力に直結してしまう。そして作用があれば反作用があるように、相手に対する攻撃力として作用すればいいけれど、自らを傷つける可能性と反作用も秘めている。

 結局は体の周りに小さな乱気流を纏う程度の出力が良く、それ以上になるとやはり自力を上げるしかない――これでも十分な強度と力を持っており、少なくともスライムに飲まれて傷つくことのない程度の防御力はある。

 空を飛べるのかと言う話しだが、結論から言って今は無理だ。

 大気の上を歩くことはできる――だが足場は結局地続きなので高くなるほどに周りの大気や共振の影響を受ける。

 高い建物を建てるのは簡単じゃないという話しだ。それは宙を飛んでいるとは言えない。


 メイリアを見捨てて逃げたオレがメイリアに何かできるわけないだろと項垂れる時間が増えた。

 できることは彼女の幸せを祈ることだけだ。どの面下げて嫉妬しているのだか。お前にはそんな資格はないのだ。彼女がどのような選択をしようとそれは彼女の自由であり、オレに何か言う権利も考える権利も無い。

 そうは言っても心は苦しい。

 浅い眠りを繰り返し、眠りを欲して体中が軋み目は霞む。それでも眠れずに浅い眠りを繰り返し、彼女が兄に微笑んでいる姿を想像すると、悦んでいる姿を想像すると、それは耐えがたい痛みとなって胸を掻きむしるのをやめられず、頭を木や物にぶつけるのをやめられない。

 猫に囲まれて眠る――。

 いや、猫なんかいねーよ。


 山の岩に座ってぼんやりする時間が増えた――赤黒かった髪が全部グレイになってしまった。伸ばしている意味ももう無いけれど、切る気にもなれなかった。

 【纏】で岩を掴む――立ち上がり振りかぶって投げるとジャイロロックは動物にぶつかって爆ぜた。獲物は回収したけれど、ひどいひしゃげ具合で投擲が肉を得るのには向かないことに気が付いた。

 加工は苦手だ。皮と肉すら切り分けるのに時間がかかる。だからお腹を裂いて内臓を取り出したらそのまま焼いてしまう。

 血抜きは苦手だ。血が流れる様を見ると憂鬱になる。血が苦手だ。

 でも生きるためには血が必要だ。

 スライサーを思い出す。

 なんだスライサーって。やっぱり思い出していないと否定する。

 ボクは仙人ではなく、カスミを食べるだけでは生存できない。

 血は嫌なのに、焼いた肉は普通に美味しかった。味付けも何もしてないのに普通に美味しい。食べられる野草を知らないから内臓類もできるだけ食べる。

 ニオイのきつい部位は食べられないけれど、肝臓と思わしき部位や心臓、あと胃袋は食べられる。ただ胃袋は中身を洗うのがきついので捨てることが多かった。食性を見るために開くけれど、吐いてしまうことが多々ある。

 誰かが代わりに行ってくれていた行為を、自分がしているだけなのに――生き物を殺すのは涙が出るほどに痛かった。

 人を殺してしまったのを思い出すからなのかもしれないし、感傷に浸っていたかと思えば、腹が満たされるとどうでも良くなってしまった。

 前は良く紛争地域に派遣されていた。だから人を殺すのには慣れている。

 いや、派遣されていない。派遣されてねーよ。びびった。

 血抜きのために首をかき切るのを躊躇う癖に、魔物を八つ裂きにして血を浴びると妙に興奮して好戦的になる。血を浴びると妙に興奮する。その癖、血のニオイを臭いと感じる。臭いニオイは嫌いだ。

 結局ボクという存在は、良い存在では無いのかもしれない。

 自分を優先し、欲望のままに生きるのを人間らしいと言うけれど、そんな事はないと考える。それは動物とやっている事が同じだからだ。

 他者を欺き、騙し、本能のままに食らい犯し殺す。

 それは動物が普段から行っている事だ。

 優しさや愛情と言うものは、子供を守るという本能のバグなのかもしれない。

 それでもそう言った動物らしからぬ感情こそが、人間らしさだと考えてしまう――明確な、人間と、動物の、違いだ。


 人間は決して天使にはなれない。

 生まれた時から命を食らうことを義務付けられているからだ。

 何かを殺さなければ生きていけない人間は、もしかしたら地獄にいて、そして悪魔なのかもしれない。なんて一人で勝手に考えている。


 お前の中ではそうなのだろうな。


 この一言でボクが時間をかけて考えた全ての思考実験が無駄になる。

 そして生き物を楽しみながら殺してしまったボクには、こんな事を考える資格は無いのかもしれない――それに、魔物を殺すのは楽しい。


 ライオンが二足歩行してやがる――この森が何で何処にいるのか、今が何時で何日なのか、それすらわからなくなるほどの日数、ボクは錯乱していた。

 体感的には三カ月ってところだ。もしかしたら三年は経っているかもしれない。そんなわけないか。精々半年ってところだ。

 二足歩行しているライオンのような生物には尻尾があり、尻尾は蛇になっていた。背中にヤギでもいればキマイラなのだろうけれど、残念ながらヤギはいない。

 【纏】もいいけど【ネイル】が強すぎる。いや、【纏】を纏ったまま【ネイル】を併用するのが一番いいのだけれど。

 指を鳴らして蛇ライオンのケツに【Arms:オーク】を叩き込み打ち上げる。 

 打ち上げたら【ネイル】を飛ばしてヤツザキだ。宙に浮いたら飛べない奴は何もできない。

 目測よりも巨体で驚いた。

 首と胴を分けたが首はまだ生きており、蛇の尾があるからか体も生きていて二度驚いた。左胸辺りに魔力線が観測できる。

 首はガウガウ言うだけで動けないようだが体は向かってきた――もう一発【Arms:オーク】を発動して腹を打ち上げる。一体だけど警戒は怠らない。【纏】があるのである程度は防げると認識はしている。

 的確に魔物を索敵できる魔術が欲しい。しかし自力で作れる気がしない。この索敵という魔術は頭が痛くなるほど難しかった。魔物は一種類ではないからだ。魔物だけを確実に判別する方法はある。魔石を感知できるようにすればいい――しかしこれがまたネックで、魔石の波長というものが個体によって異なっていた。

 生物と言う観点から【クレヤボヤンス】でも構わない。しかしこの魔術は一度見て、解析したものしか登録できないと言うデメリットがある。つまるところ初見は無理と言う話しだ。ただ生物を認識できればいいと言うわけじゃない。それなら微生物や虫まで反応してしまう。

 まったくもって頭痛の種だ――【ネイル】で蛇の首を斬り飛ばし、【Arms:オーク】でトラの頭を叩き潰した。

 さすがにここまで砕けば動かないと認識する。

 内臓類の腐りは早いので早めに腹を裂く――こういうライオンみたいな魔物は、一体何を食べているのだろうと興味はある。腹を裂くと内蔵が垂れさがって来た。臭いし黒い。オークもそうだけど魔物は内蔵が黒い。

 胃に見える部位が膨らんでおり中身が空じゃないのが見てとれた。これが胃じゃなかったのならどの部位か判別できない。


 最近オレは肉ばっかりを食べている。それはボクに植物の毒性を見抜く能力がないからだ。ビタミンなどが欠乏していそうだけれど、肉に火を通さず食べるのは無理だ。内臓類を生で食べれば解決するのだろうけれど、それこそ寄生虫や未知の原虫が怖くて無理だ。

 体調を崩すまでは大丈夫だろうとタカをくくってはいる。

 食べられる部位以外の内蔵は燃やしてしまう。このライオンの内蔵で可食部として食べられそうな部位は心臓と肝臓ぐらいなものだ。

 胃袋を裂くとデロリと内容物が出て来る――やっぱりひどい臭いだ。何かの肉……なんだろうな。

 人間らしき構造体が見えて顔を背けかけてしまった。

 解析――結果よりこれは人間ではないと判断する。魔石がある。小さな人間のような物体。皮膚が灰色だ。毛の無いサル……サルにしては顔が。女性体のようだ。

 こんな生き物もいる――毛の無いサル。サルのような体系と体格でありながら顔がだいぶ人に近い。

 ゴブリンかマントヒヒかという話しだ。

 首にアクセサリーがあり金色に光っている。

 胃袋から引きずりだして魔術の水で洗い流すとゾンビのようだった――首のアクセサリーの金色、金じゃないよなと光具合に首を傾げる。文字が彫られている。

 ミリアリア。

 名前のようだ。

 生体を調べるために【継いで再生する】を使用して肉体を再生させる。受肉された肉体は小型の人型と相違なかった。

 顔も悪くない。ただやはり生き返ることはなかった。

 視覚情報がこの個体を雌と認識して唾を呑む。嫌なものだ。

 解析データを開く――結論から言うとおそらく人間ではない。

 人間とはデータが異なる――ボクの生体情報を横に並べれば違いが良くわかる。どちらかと言えばオークの解析データに近い。

 この個体の肉が混じったライオンを食べるのはどうなのかと悩むが、腹が減っていたので【ネイル】で解体し焼いて一口だけ齧ってみた。体の肉は臭くて美味しくない。血抜きの問題かもしれない。蛇の肉は美味だった。この蛇の部位はとても美味だ。頭と体は焼いて埋め、蛇の部位を食べた。焼くと皮が香ばしい。臭くないのは蛇の内部に内蔵の類が無いからだと推測する。体の中で内蔵部位を共有している。丸呑みした口の中が胃に繋がっている。

 腹を満たしたら個体名称【ミリアリア】を調べる。

 体の構造は生物としての域を出ていない。何に使用するのか不明な臓器が幾つかある。生殖器などはほぼ人類と一緒だ。とは言ってもボクが持っている人間のデータは主に自分かメイリアのものになるけれど……。メイリアのデータを開くのを躊躇ってしまう。開きたくない。データを破棄したい衝動にかられ躊躇い破棄してしまった。

 雌個体としての機能は人間とほぼ同じだけれど……人間とは異なる成分や微生物が幾つか見られる。

 機能を調べるために自分の【ドッペル】を新たに製造し接触させて反応を見た。

 材料は水だがデータ自体は同じだ。

 良くないね。なるほどな。わかったことが幾つかある。

 この人間そっくりな個体の体液の成分には人間の脳に快楽と麻痺を与える成分が含まれている。理性に影響を与える成分は人類にとってよろしくない。

 体液中に含まれる微生物が個体の体液を分解して分泌しているようだ。

 そして体内の魔石や血液を介して効果を倍増させている。

 分類としては魔物で間違えない。本能はあるが思考能力が極端に低い。

 取り出した魔石は小さく、認識阻害のような魔術が見て取れた。この認識阻害は人間に同種だと錯覚させるもののようだ。耳の裏に少量つけた石鹸の香りを良いニオイだと感じる。そんな些細なものだが効果は大きいだろう。

 危なかった――先に解析データを手に入れられて良かった。下手をしたら【ゴブリン(仮)】を認識した時に情が沸いてしまうところだった。

 後コイツ、人間のデータを持っている。人間のデータを得て魔石の力と合わせることで人間に近い形になっている。

【ゴブリン】と言うよりは【シェイプシフター】のようなものだろうか。

 ――刹那だった。視覚的に認識した時、そいつは目の前にいた。男だった。およそ人間の男と思われる個体が、調べていた個体【ミリアリア】を抱えて立っていた。

「君が……やったのか?」

 ギラギラとした目でオレを見ていた。およそ怒りを含んだ瞳。服装は質素だが腰の剣を掴む手の動きだけが警鐘を鳴らしていた。小太り。小太りというよりは全体的に……太い。

 答えないオレに業を煮やしたのか、男は個体【ミリアリア】を木に横たえる。振り向いた顔。およそ美丈夫とは言えない――そう認識した時、男は顔を手で覆うような仕草をした。

 顔にコンプレックスがあるようだ。

「お前が‼ ミリアをやったのか‼ ボクのミリアを‼」

 イラっとしたのは確かだ。

「何を言ってやがる。そいつは魔物だ」

 そう答えてしまった。

「よく……わかった。お前らはいつもそうだ。ボクから大切な物を奪っていく。もう喋るな」

 剣線が通った――この線上にいるのは良くないと認識した時にはすでに線が通り過ぎていた。首を斬られたと認識する。体と首の情報が擦り合わなくなると認識して、【継いで補修する】を発動するが首がずれていくのを認識していた。【ネイル】で切られた部位を斬り取り【纏】を使い目視で動かした体で髪を掴む。斬られた部位を近づけて【継いで再生する】を発動する。

 やりやがった。コイツやりがった。オレを殺しやがった。

 殺す――振り返った男に【纏】を使い肉薄し顔面に拳を打ち放つ。

「なっ‼」

 吹き飛ぶ男の持つ剣は熱した鉄のように赤かった。おそらく焼き切られた。そのような武器が存在する。平たい剣。

 【Arms:オークの腕】を発動して吹き飛んだ男の足を掴み振り回した。木や地面に叩きつけられた男は意識を失ったのか剣を手放しだらりとしていた。

「おい‼ 二枚の‼ 俺の首の輪切りが転がってんぞ‼ おい‼ この野郎‼」

 確実に止めを刺す。【ネイル】で首と胴を切り離し胴がミンチになるまで叩き潰す。

 首を持ち上げて男の目を見た――死んだか。

 得体の知れない怒りと興奮に包まれていた。

 殺されたと言う怒りが収まらない。

 おい、それは人だぞ――だからどうした。

 人を殺したんだぞ――ケロリ。口からさっき食べた蛇の肉が吐き出され、でも不思議と安定していた。人を殺した。でもまぁ、殺されたのだから殺してもいいはずだ。

 そうだ。攻撃されたのだから殺してもいいはずだ。

 おい。首が切れたぞ。おい。なんでオレの首は斬れたのに繋がっているんだ。なんだ。なんでだ。まぁいいかと自分を納得させる。首を撫でると繋がっている。繋がっているからまぁいいか。まぁ……まぁいいか。

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