二章 Un chat
第8話 Head
夢を見た――記憶にない白い裾の長い服を着た女性がボクを見ていた。
髪に触れ筒を覗いて繊維を確認している。腕を取り、筒を覗いて、繊維を確認している。
目の中を見ている。目ん玉の中を見ている。
ボクが、ちゃんと、できているのか、確認している。上手に出来たのか、確認している。ボクは上手に作られたのだろうか。ボクはこれが好きだ。
できている。できていた。できている。ボクはちゃんと作られた。できている。
「いい子だね。No.Six」
はい。お母さん。できた。できない。ボクは完成したのか。完成したのか。
お母さんは、ボクを見る時、何時も、渋い顔をする。
どうして、そんな顔をするの。
もっと嬉しそうに、ボクを、見て欲しい。
だから、ボク、ちゃんとやる、よ。お母さん。
ちゃんと、たくさん、〇すよ。おかあさん。
だから、笑ってね。お母さん。
ボク、いっぱいちゃんと〇すからね。
えっちで可愛い狂いそうで正気な男の娘は嫌いですか?
歩き続けた。狂ったように歩き続けた。誰かに殺してほしかった。魔物でも良かった。でもまだ生きていて、無様に歩いている。
彼女を思い出すたびに苦しくなり胸を抑え、自分を慰めた。狂ったように何度も慰めて、果てるたびに楽になり、また彼女を思い出して苦しくなる。
もしかしてリョカが嘘をつているかもしれないとハッとし、メイリアを迎えに行かなくちゃと元来た道を引き返そうとする――でもリョカがそんな嘘をつく理由があるのか。兵士を使って殺そうとするほどの何かがあるのか。そう考えて足を止める。
膝から崩れ落ちて、リョカが嘘を言っていないと、その根拠だけが強く頭を押さえてつけてくる。
このままぶっ壊れて死ねばいいのに。
なかなか死ななくて困った。
メイリアと二人で逃げたっていいじゃないか――メイリアなら一緒に逃げてくれるはず。
その代わりにメイリアの家族が殺されてしまうけどね。
それをメイリアが受けいれるのか。それをメイリアに背負わせるのか。一緒に背負えばいいじゃないか。人を殺したお前がか――口からいきなり内容物が飛び出してきた。
人を殺した。人を殺してしまった。人を殺してしまったんだ。人を殺してしまった。人を殺してしまった。どうしよう。人を殺してしまった。吐いたものもそのままに子供みたいに泣いていた。声がでなかった。口についた吐しゃ物のニオイがひどくて苦しかった。
人を殺してしまったのに、人を殺した事よりもこの世界で人を殺してしまったことへの罪と罰はどれくらいなのかを考えていた。殺した事への罪悪感よりも人を殺してしまったことにより起こる法と言う名のペナルティを避ける事ばかり考えていた。
逃亡するために殺す人間の数はいくつだ――悪いのは兄じゃないか。王家じゃないか。リョカじゃないか。じゃあ戦うのか。戦うのか。誰が戦うって、それは兄でも王家でもリョカでもない。仕える兵士達だ。何の罪もない人々を殺すのか。
断頭台で首を押さえられた時、殺されたことよりもこれでメイリアと二度と会えないことの方が嫌だった。
気絶していた。なんだ夢か。
ひとしきり大声で笑った後、取り返しのつかない事をしたと打ちのめされた。
戻る時は死ぬ時だ。死ぬならいいじゃないか。なぜ逃げたんだ。結局は死にたくないのだ。死にたい死にたいと、のたうち回りながらも結局は死ぬのが嫌なのだ。そうでなければあの時殺されてしまうべきだった。なぜ生きている。なぜ抗った。なぜ……なぜ――。
なぜメイリアを置いて来た。その結果を想像すると死にたくなった。
腹が減り、空腹の痛みに耐えられず、小動物を殺して焼き食べた。
動物を焼いて食べ、眠れない夜を繰り返し、せっかく食べたものも吐き出して、気を失って目を覚ます。
また思い出して苦しくなり、繰り返して胸を掻きむしる。
なんでまだ死なないんだ。
死にたい時ほど、なかなか死なないものだ。
死にたいと言いつつ水は煮沸するし肉だってちゃんと焼く。変な魚。シーラカンスを小型にしたような魚が水底を歩いていて水を操って水ごと取り出した。
【千寿】で作り出した水を川に入れて、魚を取り込ませて浮き上がらせる。
水面に映る自分の姿がひどくて驚いた。
目の下には三本線のクマ。髪の一部が白く濁っていた。
若白髪なんて笑えない。そのうち禿げるんじゃないか――その日の夜には髪がごっそりと抜ける夢を見た。その日の夜って何時だ。今だ。
焼いて食べる魚はうまかった。こんな時でも魚をうまいと感じる。そして吐いた。
腕が無い。いや、腕はある。なんである。魔術ってなんだ。
足元を歪な生物が蠢いている。変な生物だ。形としてはウミウシに近い。扇状と言うのか、袋状と言うのか、膨らむ口を広げて地面や岩を包み込んでいた。なんだこの生き物は。どういう進化でこうなったのだ。
そしてその奇妙なウミウシみたいな生き物を、ヒルを大きくしたような紫色の軟体動物が飲み込んでいく。
解析しても生き物という以外に理解のしようもない。意味が不明だ。
これに毒があるのかすら……。
今オレは何処にいるんだ。森の中としか……。
地理も地図も地学も無い。自分が今現在何処にいて何をして、何をするべきなのかすら把握できない。
戻れない。進めない。
苦しくないのは好奇心で彼女を忘れている数分か、襲われている時だけだ。考えていたよりも体が頑丈すぎる。毒を食らっても【順応して】で克服してしまう。
【キャットネイルファンタジア】は俺が考えていたよりも危険な魔術だった。
大きな軟体動物が現れて、呑み込もうとしてくるので【キャットネイル】で頭と思しき位置を裂く。紫の血液を吐き暴れ回り絶命した。
この軟体動物っぽい生き物。もしかしたらスライムなのかもしれない。オレが知っているスライムよりもずっと生っぽい。
内蔵類を取り出し、身をスライスして熱を通すと縮まって硬くなる。噛むとガムみたいで匂いがよくない。味は悪くない。ただ匂いが塩っぽいと言うのか、苦い塩っぽい。
このスライムの食性を調べるために胃袋を開閉したけれど、中はデロリとした黄色や緑の半固形状の物が多かった。ひどいニオイだが、吐しゃ物といい勝負だった。
色によっても変わり毒性があるようで緑と青は危険だ。赤と紫は安全のようだった。青はとにかく苦くて舌がイガイガする。口の中が焼けるように痛い。実際に溶けている。あっダメっぽい。実は紫と赤も毒がある。
【順応して】と【継いで補修する】で癒す。
普通に飲み込まれたらひとたまりも無さそうだ。でも一回飲み込まれた。このまま死ねばいいと考えたが、逃げるのか、自分だけ逃げるのかと問われて死ぬのはやめた。
おかげで服が溶けかけてワンピースみたいだ。帽子が頑丈で良かった。男なのにワンピース着た変態が今のオレだ。いや、いいんだよ。男がワンピース着ても。オレが着ても変態だって言うだけだから。
このスライムみたいな生物の体表に、硬い岩や玉のような部分があり、そこから伸びるメタリックな光が血管のように伸びているのを視認できる。
生物を殺すとメタリックな色は光を失い、取り出した岩はズシリとして重かった。
所謂魔石――というものなのかもしれない。解析状は魔術に似ている。石の内部に魔力の通り道がある。
能力の上昇と引き換えに人の成分を欲しがるようになるようだ。この魔石を体内に取り込んで魔力が通ると、この二つの特性が発揮される仕組みなのはわかった。
これがある生物を魔物と呼ぶのだろうか。
価値があるかもしれないからと魔石を取っている。
生き物を殺したくはないと考えるものの、生きるためには生き物を殺さなければならず、綺麗ごとだけでは生きていけなくて、死にたいのに可笑しくて笑ってしまう。
人を殺した事を後悔しながら、生き物を殺すのをやめない。大人しく植物を食べるか餓死すればいいのに、生き物を殺してその肉を食らっている。
死んだら会えないじゃないか。
逃げたくせに死ぬのは卑怯じゃないか。
何度も考えては何の答えなのかもわからずに答えを出そうとしている。
俺が人間である限り、他の生物を食らわなければ生きていけない。
それは植物だから命を奪っていないなんて綺麗ごとでは許されない。
生きていくには命を背負っていかなければいけない。
結局は肉を食べるための詭弁で――生きるためだったのなら生き物を殺してもいいのかと問われ、自分を正当化しているだけだと気付く。
いっそうの事、開き直るか――そうは考えるものの、人を殺してしまった罪を考えると動けなくなってしまう。でもやはり人を殺したことを後悔しているわけではなくて、その結果与えられる罰に怯えていた。
責を求められる事に怯えていた。怨みという未知のエネルギーが襲うのか。
……メイリアを迎えに行かないのは、罰を受けたくないからなのかもしれないと考えて、いや、もう一度会えるなら死んでもいいと答える。だがメイリアはオレにはもう微笑んでくれないだろうなと自分に言われ、この罪を背負ってせめて虚しく生きるしかないと考える。人を殺してしまった重責は、どんな罰を受けても拭えるものじゃない。彼らは別に悪い人達じゃなかった。命令ならば何をしてもいいと言うわけじゃないけれど、逆らえるわけもない。
メイリアは二度とオレには微笑んでくれないだろう。そう考えると涙ばかりが溢れて嫌になる。結局オレは、自分の事しか考えていないのだ。
この原因となった兄を殺してやりたくなったが、それで解決する問題でもなかった。兄を殺すことで起こる騒乱にまた善良な市民や兵を巻き込むからだ。そんなの知るかと言ってしまえば自分の中の何かが壊れてしまう気がした。
モンテクリスト伯にはなれない。
モンテクリスト伯って誰だって話だ。誰なんだ。
動物を狩るのは楽じゃない。上から見下ろすのが良い。【クレアボヤンス】を少し改良して動物を見えやすくした。
草食性の動物はとにかく警戒心が強いので近づいて殺すのは難しい。遠くから気配を察せられずに【千鳥】で一羽を作り殺す。でも回収するには現場へ行かなければいけない。
山を見下ろすと色々な生き物が見える。
木が歩いている。木は食えそうにない。
魔石って食べられるのかな。ガジガジすると当然硬かった。
一体何をしているんだ――いや、ガジガジ魔石を齧っているのだ。
白昼夢を見る――さっきまで何かをしていたはずだった。いや、何もしていない。何をしていたのか思い出せない。誰かが傍にいたはずだ。いや、誰もここにはいない。
お前はそうだろうな。お前って誰だ。
最初は【キャットネイル】で岩を削り、起こる火花を使って落ち葉等に引火させ火を起こしていた。
そのうち起こした火を解析して燃える原理を再現する魔術を作った。火が燃えるために必要な元素や温度を魔力で作り出し発火させる魔力の炎だ。本物の炎じゃない。魔力を継続して与えなければ消えてしまう。その癖、何かに燃え移るとオレの操作を離れて勝手に燃えて持続してしまう。
オレってやっぱり合わないかな……。オレでもボクでもどっちでもいいだろ。どうせ変わらないのだから。それで何か変わるのかと問われて、変わらなかった。
この魔石って奴、物によっては魔術が込められている。
女神様はなぜ魔物を作ったのだろう。
女神様を思い出し縋り付こうと天を仰ぐが、女神様は答えてくれなかった。何日祈ってもダメだったのでひどい悪態をついた。どれだけ汚い言葉を駆使しようとも女神様は答えてくれなかった。憎しみにも似た感情が沸き上がり、目の前の木々に八つ当たりをしようと魔術を展開――植物に罪はないだろうと自分に諭されて、その通りだと術をおさめる。
女神様に対する憎しみと怒りがない混ぜになり、性的に発散して汚す想像ばかりしたが、それでも女神様は何も答えてはくれなかった……。
引きずり下ろしてやるとも考えたが、全てはオレの責任であり女神様に責は一切ないと唐突に思い浮かぶ。全部オレが悪いんじゃないか。
その場で女神様に土下座をして謝っていた。女神様は何一つ悪くない。
悪いのはあのクソゴミ野郎(兄)じゃないか。あの野郎をぶっ殺してやりたい。あいつのせいだ。何もかもあいつのせいだ。あいつのせいなんだ。
兵士だってオレを殺そうとした。そうだ。殺そうとしたんだ。だから殺したっていいはずだ。正当防衛だ。だから殺されたって文句はないはずだ――本当にそう考えているのかよ。
過去、メイリアに何をしてきたか思い出してみろよ――自分の私利私欲で拒否しないのをいい事にやりたい放題だったじゃないか。いいや、まだ自分を擁護しているね。メイリアは拒否できない立場だったんだ。それなのにお前ときたら……。
ごめんなさい……。メイリア、ごめん。ごめんなさい。
頭を何度木や石に打ちつけてもボクは良い奴にはなれなかった。
魔石は魔物を成長させる。魔石を成長させられるのは魔物だけだ。魔物は魔石の影響を受けると人間に対する食性が強くなり、人間を優先して襲うようになる。そして他の生き物や人間を食べて魔石に栄養を送り、魔石はエネルギーを蓄えて使い魔物の肉体をより暴力的、筋肉質に変貌させる。
人間の対が魔物なのかもしれない。
その過程において魔石の内部に魔術が刻印され、生成された魔術を魔物が使用してくる。
詠唱なんてない。ノーモーション、ノーアクションで認識された時、速攻で使用される。
魔術戦はかなりシビアだ。
ボクが勝手にオークと呼んでいる魔物がいる。
二ノ腕だけでボクの体の大きさを越える大猿だ。鬼の形相で下あごにキバがあり首がない。正直楽しい。オークとの戦闘は楽しい。
コイツ等は人間を、魔力で探知して襲ってくるのだ。
轟音と共に突っ込んで来たオークに巻き込まれて宙に飛ばされながら笑っていた。
そんなんじゃ全然死ねない。でも楽しい。
吸い込んだ空気で膨れたお腹――吐き出してきた空気砲でまたぶっ飛ばされる。体中がきりもみ状態で独楽みたいに回りやがる。
戦いは好きだ。なんでもかんでも忘れさせてくれる。
ゴツゴツした剛毛に覆われた腕が迫り、【守って】を発動し空気の壁で体を守る。威力に押し付けられて体が地面に叩きつけられて跳ねる。何度もバウンドを繰り返すが痛くはないのだ。なんなんだコイツって笑いが止まらない。
「そんなんじゃダメだぞっ」
独り言を言うのだ。かなりきもい。気持ち良くなっているのだ。
【キャットネイル】だと展開が遅すぎる。【ネイル】に短縮して猫を消す。脳内にネ・イ・ルと想像するのではなく、ネイルと一つの単語を丸ごと想像する。ネイルという三文字は一つの形となって最短で発動できる。五本指だぞ。がおー。
魔物、大好きだ。コイツ等、人類の敵なんだ。殺してもいいんだ。どう足掻いても仲良くできない存在なんだ。ほんと、大好きだ。
「あははははっ‼ 大好きだ‼」
オークの腕を裂く――裂いた腕に足を付けて腕を裂く、肩を裂いて、顔を裂く。足でも【ネイル】を発動してオークの体に爪を刺して上るんだ。手でも足でも裂いてやる。自分が獣になった感覚で一方的だ。でもボクの体も悲鳴を上げる。可動する筋肉がミチミチ言って切れるから【順応して】と【継いで補修する】を併用して無理やり可動させる。痛いのに気持ちいい。
暴れるオークのでかい口に【ネイル】を突っ込み。かき回してやる。暴れるから魔石掴んじゃったぞ。暴れると魔石が剥げるぞ。いいのか。剥げちまうぞ。
ベリベリべりベリ肉の裂ける音がする。うまそうな肉の音だ。
魔石が剥げたらただの獣だ。死んじゃった。
「あー……死んじゃったね……」
倒れたオークの死骸に寄り添うと、温かさがどんどん無くなっちゃうんだ。
……【蘇生】魔術は何度か試した。でもダメだった。肉体がどんなに正常な状態になろうと一度死を迎えた個体は動かない。体が元に戻っても、どんどん温度を失って機能が停止してしまう。これはボクにはどうしようもできない自然の摂理だ。
今日のご飯は豪華なのに肉しかない……。
メイリア……メイリアの顔が脳裏を過る。
あの抱き心地――手を擦り合わせる感覚。あぁ……今何しているのだろう。兄が浮かんだ。弟のボクから見たって最良の男だ。彼女の心が兄に傾いていくのを想像し、ボクの事がどんどんどんどんどうでもよくなっていく。あぁ最悪だ。頬を掻きむしらずにはいられない。
「ウぁあああああああああああ‼」
胸を掻きむしり、でも掻きむしっても楽になれない。この痛みから逃れる術を教えてくれ。
オークの死骸に何度も手を叩きつけ、頭を打ち付ける。
おかしくなりそうだ。
くせぇんだよコイツ。毛がくせぇ。
女、女、女。女を抱きたい。誰でもいい。女。女が欲しい。今すぐにでも女と交わりたい。
「うぁあああああああああああああああああ‼」
なんでこんなに苦しい。なんでこんなに辛い。
メイリアが兄に抱かれている想像が脳裏を過るたびに破滅を願ってしまう。
苦しい……苦しい。
狂ったようにダダをコネ、液を吐き出し、意識を失う。
目が覚めて腹が減り肉を食べ、魔物や動物を狩り、狂ったようにダダをコネ、液を吐き出し気を失う。何日繰り返したか数えられない。
それでも痛いのは嫌なんだ。特に指の怪我は嫌だった。額から血が流れるのは構わないのに、指を草で切った時のわずらわしさは一入だった。
いや、治せばいいんだよ。魔術で。治せばいいんだけど、こんな小さな傷に魔術を使うのかって話だ。
手の甲を擦りむいても気にしないのに、指の平をちょっと切っただけで動きを制限される。腕が折れても足が折れても気にしないのに、こんな些細な傷ばかりが気になって仕方が無い。
胸の中から心臓を取り出して投げ捨ててしまいたい――。
魔術【Arms:オーク】を作った。
全体を再現するのは時間もリソースもとられるから腕だけだ。
発動するとオークの腕が中空に再現され操れる。威力を伴って現れるのだけれど、なかなか威力が高い。本物じゃないから壊れたってかまわないしね。連打もできる。殴る、掴む、叩く、手として意識を通し操れる。ほぼ無意識に近い。なんで中空に現れるのだ。空中なのだ。オークの腕でオークをぶっ殺しているのだ。
「あははははっしねしねしねしねしね‼」
【順応して】を使い過ぎたかもしれない。
この【Arms】と言う魔術は便利だ。
筋肉の構造や繊維の太さ数、骨の密度、材料を別のデータに切り替えればもっと出力を上げられそうだ。ぶっちゃけ壊れても新しく発動すればいいから強度は度外視でいい。
オークの腕はオークの腕なのだ。
オークの集落を見つけた。
「あはははははっ」
【千鳥】、【キャットネイルファンタジア】を出力して【Arms】を発動しながらツッコむ。どいつもこいつもヤツザキだ。大好きだ。オーク大好きだ。お前らが大好きだ。
【Arms】がオークを掴み、叩き潰す感触が伝わって来る。
どいつもこいつもボクを捉えた途端に目の色が代わり狂暴化した――人間を感知することが狂暴化の引き金なのかもしれない。いいんだ。コイツ等殺してもいいんだ。
魔物には須らく魔石が付随している。
魔石が先か魔物が先か――オークの子供にも魔石はあるのだろうか。
人間と魔物の混血は可能なのだろうか。
オークの死骸の上に座りそんな事を考えていた。
任務があったはずだ――任務ってなんだよ。任務なんかねーよ。馬鹿がよ。
寝る時は帽子の中で眠る――帽子の中は柔らかな光で床すらふわふわと足ざわりも良かった。汚れなどが魔力にかえっていく。帽子の中へ入れば汚れなどはなくなる。付随した紫色の血液も溶けてなくなる。
床に倒れ込んで眠りについた。
夢の中ではいつもメイリアの膝に頭を乗せ撫でられていた。
もう二度と手に入らないものだ。目が覚めると何時も泣いている。泣きたいわけじゃないのに涙が溜まっていた。
「博士……」
博士って誰だよ。なんだ博士って。
妄想と現実が重なって妄想を現実だと認識しそうで怖い。オレは博士なのかもしれない。
帽子の中では朝とか昼とか夜とかの選別ができない。外出た時が夜だったり昼だったりする。たまに朝日と夕日を見間違える。
今日は朝起きたと背伸びをしていたら夕方だった。
集落中の魔石を回収する。
黒くて大きいオークから回収した魔石には魔術が付随していた。
魔術【エアーショット】。名前の通り空気弾だ。
風を作り出す魔術……【エアーショット】を解析しても良く……構造が難しい。模倣はできるけれど……そこまでして使う旨味を感じない。コピーするだけなのにね。その手間すら面倒くさいのかな。
【エアーショット】はオークが一般的に使う魔術のようだ。
魔物によって魔石の成長具合が決まり、付随して構築する魔術も決まっているのかもしれない。
違う――これ風の魔術じゃない。大気の魔術なんだ。いや、大気と風って一緒だ。違う。空気の魔術なんだ。いや、違うんだよ。大気も風も空気も同じなんだよ。そうじゃないんだよ。厳密には違うけど。酸素や水素、窒素などを操る魔術なのだ。
厳密に言えばこのエアーショットは酸素等の元素の塊を飛ばす魔術なのだ。
この空気と言うものを大気と仮定するとしてこの【エアーショット】の比率はおそらく窒素が主になっているはずだ。いや、窒素なんてこの世界にないだろ。
ちなみに【守って】の成分もほぼ同じだ。酸素の比率を下げると呼吸が困難になる。
いや、酸素ではないんだよ。いや、酸素なのか。オレはなんなんだ。そもそも口元まで覆っているのかよ。窒素ってなんだ。なんだ液体か。
「おーい、おいおいおいおい。聞こえますかー? 寝てるのかな?」
さっきから気になっていたのだけれど、なんでオークって動かないのだろう。
今は夕方だった。
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