第8話 贈り物。
アニエスには、敢えて会わない方が良いとアイツらに言われ。
俺も承諾した。
手紙で婚約破棄を告げられる事は無いだろう、もし断るなら会った時。
そう思い、会わない事に。
だた、贈り物は贈るべきだ、となったんだが。
《商人の娘に、しかも1店舗任されているアニエスに何を贈れば良いのか、全く分からないんだが》
《ベルナルド、アニエスのお店に行った事は無いの?》
『総合的な商家だけど、扱うのは主にガラス製品と小物だよ』
《行ったんですか》
『勿論、一緒にね』
《可愛くて綺麗な物ばかりがみっしりと揃っていて、まるでオモチャの宝石箱の中みたいで凄く素敵だったの、あんな部屋が一部屋は欲しいわ?》
『君とアニエス嬢の為、子供の為にも絶対に作ってあげるよ』
《ありがとう》
《そこに、俺1人で》
『別にマリアンヌ嬢と行っても良いよ?この前一緒に行っていたみたいだし』
《楽しそうだけれど、流石に私は無理よね、加われないのは残念だわ》
『きっと君から誘えば喜んで案内してくれる筈だよ』
《ふふふ、そうね》
《はぁ》
『あぁ、お似合いのカミーユと行けば良いじゃないかな?』
《あら名案ね、もしかしたら万が一にも嫉妬してくれるかも知れないのだし》
《寧ろ、諦める方に傾く可能性が高いんですが》
《そうね、賢い子だものアニエスは》
『そうだね』
《行ってきます》
『うん、行ってらっしゃい』
《ご家族にお土産を選んであげなさいね?》
《はい、ありがとうございました》
ミラ様から良い助言を貰えた、そう思い買いに行った筈が。
「やぁ、奇遇だねぇ?」
《カミーユ》
「溜息交じりに言うんじゃないよ、本当に偶々だと言うのに何てヤツだ君は」
《本当か?》
「本当だよ、マリアンヌ嬢が買ったガラス細工について気になってね、折角だから行こうと思っていたんだよ」
《なら俺は後にしておく》
「あの子は今は家の手伝い中、商談に立ち会っている筈だから誤解される事は無い筈だけれど。良いのかい、君にはそんなに時間が有るのかな、ついでに贈り物の相談にも乗ってやれるのに」
《本当だな》
「勿論、君達の破局が目的では無いからね」
念の為、先ずは向かい側のカフェで下見し。
意を決し店内に入ると、圧倒された。
「良い店だったろう?」
表からは店内が程よく見え、通りに面する場所には品物が飾られ、通りすがりの客の目を引く。
品物はハンカチに花瓶、コップに小物入れ、ランプに装飾品と様々に置かれ。
価格は庶民用ながらも、店構えが幾ばくか貴族寄りで店員も上品、少しばかり違和感を感じたが。
品物を見に来るだけの庶民を排除するには最適で、時に男も入って行く。
アニエス嬢だけの案では無い事は、他のジュブワ家が経営する店からしても分かるが。
《贈り物の相談に乗る店の娘に、他の者は何を贈っているんだ》
「定番は花だよね、見た目と香りが良い花」
《だが、ガラス細工の花の飾りも置いて有ったぞ》
「他の定番は香水」
《香水瓶が置いて有った》
「ポプリや入浴剤」
《売っていた》
「ペン」
《ガラスの美しいのが売っていたな》
「小物入れ」
《ポーチや小箱も売っていたろう》
「手紙やカード、買っていたじゃないか」
《あれに書いて贈って、本当に喜ばれるんだろうか》
「あ、ウチの品だ、が先ず最初に思う事だろうね。いっそ、刺繍入りのハンカチでも贈る?」
《血塗れのハンカチが出来上がり、しかも仕事をしろと言われそうなんだが》
「だねぇ」
《はぁ》
「ドレス」
《一定額を超える品は同じ額の品を返すぞと脅された》
「靴」
《サイズが、分からないんだが》
「はい対価」
《はぁ》
「じゃあお菓子」
《あぁ、確かにな》
「でも、誰と食べるかな、同じ部活の子かもね?」
もしかすれば、敵に塩を送る事になるのか。
《あぁ》
「シャトレーン」
《どうして銀細工まで売っているんだ》
「可愛い雑貨屋さんだからね」
《あぁ、あの方が部屋を作りたいと言った理由は分かったが。アレでは目が肥えていると考えるしか無いんだろう》
「だろうね」
《助言は》
「してるじゃないか、一般的な助言」
どうして目の前のカフェが男向けなのか、どうして男達が溜息交じりで会話していたのか。
良く分かった。
難しい、難し過ぎる。
《はぁ》
「先ずは花で良いんじゃない?様子見の試し打ち」
《好きな花を、知らない》
「ほら、先ずは人気の花を聞きに行きなよ、それに花言葉も良く聞いて選ぶ。カードはさっき買ったヤツで、良いね?」
《あぁ》
アーチュウ様からお花を贈られたんですが。
コレ、私、凄く嫌いなんですよね。
《お、白百合じゃんアニエスさん、どうしたの?》
「アーチュウ様から頂いたんですが、匂いが大嫌いでして、家にも起きたくないので持って来てしまったのは良いんですが。どうしましょう?」
『あー、好き嫌い分かれるよね、花とか匂いって』
「私凄い好きなんだけど、流石に贈り物を貰うのはなぁ」
「ぶっちゃけ貰って頂けると助かるんですが」
「品物だけ貰っときます、ありがとう」
「いえいえ」
《あー、お返事に書くしか無いんじゃない?》
『ぶっちゃけ死ぬ程匂いが嫌いです、って?』
「どストレート過ぎるんよ」
「でも他の方に譲った事は書かないとですし、はぁ」
《送り迎えの時、こう言う事って話さなかったの?》
「黙ってる事が殆どで、後はもう、大人全開に口説かれて圧倒されてまして」
『何そのどエロい展開』
「そこは羨ましいなぁ、年上に口説かれるとか憧れるし」
「ダメですよ、大人は皆猛獣、私達か弱い年下子女の美味しい部分だけを食べ切ったら後は捨てるだけの凶悪な存在、なんですから」
「お、おう」
『いやでもマジで聞くからね、妾にしてやるから使用人になれて言われたとか』
《そこには乗らなかったんだけど、安泰だなとか思っちゃったんだよねぇ、逆に》
「そこ、少しお伺いしても?」
《何かもう、本当に想像も付かない位に上だからさ、逆に楽なのかなって》
『あー、中途半端な位置は辛そうだってのは分かるしね』
「だね、使われるわ管理するわ、なら使うだけならまだマシってか」
《そうそう、しかも見えてるだけの部分って凄く楽そうなのと、妾ですって人、周りに逆に居ないじゃん?》
『流石に庶民でも恥ずかしい立場だしね』
「そうそう、余程の理由が有るだろうって時は無視だけど、やっぱりちょっとヤベェ奴感を感じるしね」
《それ言えし》
「いやアンタの場合は私も同じだったんだって、正妻より妾の方が楽そうじゃん、って」
『実務も社交も無さそうだなって、楽そうな部分だけしか見えなかったからねぇ』
「成程。ではどうすれば他の方も分かると思いますか?」
『やっぱ、劇じゃね?』
「だねぇ、流石にアレで逆に理解したし」
《私は劇と貴族体験両方だな、どっかで他人事だったもん、あの練習も劇もどっか大袈裟なんじゃないかって》
『あー、虐められてるとしか思えないって、ぶっちゃけウチらもそう見えてたもんね』
《でもさ、追い付くまでにってなると、あんだけ詰め込まないと難しいんだよね》
「アレでも追い付けたかねぇ?」
《無理。下位貴族を舐めてるワケじゃないけど、続けてやっと下位貴族の端っこ程度、必ずどっかで粗が出るからもう落ち込むは恥ずかしいわ》
「アホみたいに泣いてたもんね」
「あ、でもお茶会で泣かなかったのは偉いですよ本当」
『うん、そこは褒められてたもんね』
「でも、どうしてあのドレスだったんですか?」
「アレ、ウチらのせいなんだ」
『皆で着て遊んでたんだけど、暑くてさ、良いかなと思って』
《私もアレはギリギリ許されるかなって思ってたんだよね、何も言われないから。でもさ、聞かれなかったって言われて確かにと思っちゃったんだよね、全員が好意的なワケ無いんだし。庶民に優しくするのが義務じゃないって、言われちゃってさ》
「また、強烈な事を言われてしまったんですね?」
《乳母だったって侍女の人に言われて、そりゃこんなのは許せないよなって》
「で頑張ってたんだけどね」
『向き不向きも有るしねぇ、それこそ園芸部の子とか凄いぽいんだよね』
《分かるー、謙虚で控え目でって感じでさ》
『何でも笑顔で聞いて』
「裏で凄い言うのマジで最高なんだよね」
「確かに最高ですね、うん」
《もしかして、アニエスさんも?》
「もしかしたら、そうかも知れませんよ」
『えー、言うなら真正面から言ってよね?』
「そうそう、ガサツなのとか分かってるし、お客から文句言われ慣れてるし」
《マジで言って良いからね?》
「お3人には無いですよ、裏表の無い良い方達だって信じてますし」
『本当、ウチのがごめんね?』
「バカだけど素直で良い子なんだ本当は」
《分かってくれてるもんねー?》
「はい」
ご両親がご商売をやられてらっしゃる庶民の娘さんは、平気なんですけど。
やっぱり、貴族の妻になるのは、私には難しいのかも知れません。
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