第7話 長期休暇。
はい、アーチュウ様に会わないまま長期休暇に入りました。
そしてカミーユさんに付き添って戴きお茶会へ。
《この前は、ありがとうございました》
今まで嫌味を言ってらっしゃったご令嬢のウチの1人、2号さん。
1号さんは謹慎処分ですけど、他にもご友人がいらしたんですね。
「羨ましいですね、他にもご友人がいらっしゃって」
わっと泣かれてしまいました。
思わず素直な感想を言ってしまっただけなのですが、完全に嫌味になってしまいまして。
《ごめんなさい》
コレ私、完全に悪役令嬢なのでは。
「あの、嫌味では無くて」
「泣けば被害者になれると分かっててやってるよね」
《そんな、私は》
「じゃあ、本当に悪いと思うなら泣かずに謝罪すべきなんだけど、そんな事も分からないでココに来てるんだ。なら、大人になっても泣いて謝罪して被害者ぶるかも知れないね、加害者の分際で。ご友人も、いつか自分もこうして加害者にさせられるかも知れないけれど。良いのかな、どんなに悪い事をしてもこうやって泣かれ君が悪い立場に追い込まれ、立場も婚約者も何もかも失うかも知れないけど。本当にこのまま一緒に居て、こんな女と同類だって思われても良いのかな」
『ごめんなさい、下がらせて頂くわね』
脅して泣き止ませる迫力、文言、流石ですカミーユさん。
やっぱり私には騎士爵の妻は。
カミーユさんがなれば良いのに。
位としては私とアーチュウ様の間、コレ位なら以外と良く有る事ですし。
《その、本当に申し訳》
「今更泣き止む程度で君の低俗さは覆らないよ、本当に悪いと思っているなら、誤解を解いて回るべきなんだけど。出来るよね、本当に立場を失いたくないのなら、ね?」
《はぃ、大変、失礼致しました》
「あぁ、はい。ご友人を諫めるのは大変だったとは思いますが、お付き合いする方は選ばれた方が宜しいかと、ご自分の為にも、ご家族の為にも」
《はぃ、ごめんなさい》
優しく言ったつもりなんですが、こう、目に涙を浮かべられてしまうと。
「あの」
「さ、行きなさい、しっかり挽回してくるんだよ」
《はぃ、失礼致します》
足早に立ち去ると、先程離脱された方に真っ先に謝罪され、次の方へ。
根っからの人間不振では無い筈なのですが。
本当に弁明してらっしゃるのか。
「心配いらないよ、もし弁解して回らなかったら、あの伯爵の娘は卑怯で姑息だとして結婚相手が見付からなくなるだけだから」
「本当にそうなるんですか?」
「現時点で見境無く嫌味を言った上に倒れた友人の友人、その親は教育を失敗した間抜けな伯爵だ、と既に民にも知られている。当然、次期は子爵に落ちる、同じ伯爵令嬢や令息は既に見切りを付けるかどうか見極めている最中。親の立場を本当に理解しているのなら、アレは切るか放置、少なくとも知り合いたい者では無い」
「でも、それは私も同じでは」
「騎士爵からの婚約は、あの場では致し方無い、ココで降りたら君は寧ろ懸命だと思われる。謙虚で控え目、そして自分の立場を良く理解している、とね」
「あの、如何ですか?」
「ふふふ、生憎と私も好みに五月蠅くてね、アレは範囲外だよ」
「立ち並ぶ姿もお似合いなのに」
「私にもそれなりに選ぶ権利が有るからね、選ばせておくれ?」
「どんな方が良いんですか?」
「追々ね、さ、ご挨拶に回ろう。大丈夫、コチラが見極めてやる立場だ、堂々としていなさい」
「はい」
私は実に現金なんです。
カミーユさんと言う味方が居て、私が見極める立場ならと、本当に堂々出来てしまうんです。
商売においてはお客様を見極めるのも、商人の仕事ですから。
「君を私にどうか、と尋ねられたよ」
《は》
僕の悩みも、周囲の悩みにも大して動かなかった表情が。
僅かな困惑に幾ばくかの怒り、懐疑的な眉と僅かに真実かも知れないと言う驚嘆。
『ふふふふ』
「くっくっくっ、良い顔だよね本当に」
《何だ、冗談か》
「いや本当だよ」
《何故》
悲壮感と共に滲み出る、疑問符達。
『ふふっ、ひひっ』
「ダメだ、腹がよじれる」
《カミーユ、どうしてなんだと聞いているんだ》
『ほらほら、怒らない怒ら、ぶふっ』
「はー、楽しいな君は本当に、うん、実に愉快だ」
《はぁ》
「爵位的にも近いしね、立ち並ぶ姿がお似合い、だそうだよ」
事実だと理解し顔をこわばらせ、大きく目を見開いて。
ダメだ、堪えられない。
『ぐっ』
「ふふふふふ」
『はー、楽しいなぁ、アニエス嬢は』
「だろう」
『君は基本的には部下か上司が相手だ、けれど妻はどうなる』
「引き籠っていても騎士爵の妻では身を守るには足りない可能性が有る、茶会で情報収集をしなければ夫の役に立とうとする妻として見ては貰えない、仮に実家で商店を手伝うにしても今度は不貞を疑われ貴族位を軽視しているのではと囁かれる事になる。このままなら、本当に諦めた方が良いよ」
《なら、何故》
「婚約の申し込みを止めなかったのか」
『ミラの為だよ、あの場にミラだけでは可哀想だし、婚約を快く呑ませる為でも有る。それに君にも幸せにはなって欲しいけれど、じゃあアニエス嬢の幸せって何だろうか、それは君と婚約し結婚する事なのかな』
「たかが爵位の差程度で大騒ぎする馬鹿共の
『仮に、ミラの様に功績を挙げたとしよう。なら次に爵位差を乗り越える為に功績を挙げたい者が、どんな評価をなされるか』
「まぁ、前例以下だと認めて貰えない可能性が高くなるよね、前より状況は良いんだからと」
『そうして前例を上回る功績を要求され』
「無茶な要求をされ、結局は諦める事になるか、果ては利用される立場になってしまうか」
『なら、どうすれば良いか』
《一定の条件下で有れば、問題としなければ》
『そう、けれど今は実に曖昧な状況だ』
「その曖昧さを便利だと思う者は反対派よりも多い、なんせ都合が良いからね」
『けれど、それはあくまでも個の利益、国として見れば一定の条件を定めたい』
《俺がすべき事は、周囲への下準備、国の法整備》
「そうそう」
『君は僕の側近だからね、見本としては最適だし』
「けれど条件の設定に甘さが有れば、直ぐに覆されてしまう」
『そんな適当な法整備をしたくないんだよね、僕は』
《俺に、考えろ、と》
『それだけ真剣に真面目に考えてくれているとなれば、少しは好感触を得られるんじゃないかな』
「大人としても、男としてもね」
《だが、余計に自分よりも他を、と》
「有り得ちゃうねぇ」
『けれど、それはアニエス嬢の好きな様に選択させるべきだ。それとも、無理に得て君は本当に納得出来るのかな』
好意だけで爵位差も能力差も何とかなるのなら、各国は平和で諍いなんて無いだ。
世界はそんな単純な仕組みじゃない、物流にしても法にしても、全てに意味が有り確かな機能が有る。
ココは未だ過渡期、目指すべきはもっと上、階級差の無い自由と平和が齎された世界。
「美味しぃ」
《ふふふ、アニエスのお陰だよ、異国料理って手を出すのも億劫だったんだけど。レシピ、ありがとうね、お陰でキャラバンの人達も来てくれる様になったんだ》
「いえいえ、コレはもう本当に食い意地ですよ、キャラバンの方々が自慢する料理がもう本当に羨ましくて羨ましくて。いつか自分で作るか誰かに作って貰おうって、翻訳の勉強にもなりましたし、ついでですついで」
《へへへ、やっぱりコレだよね。あ、お礼させてよ、ウチの利益になってるし、私のお財布から還元させてよ?》
「仕方無いですね、少しだけですよ?」
《勿論、なんせ庶民のお財布ですから》
お茶会が無い時は、こうしてマリアンヌさんのお店へ行ったり、お買い物をしたり。
正直、充実しています。
庶民の知り合いが居るって事は、それだけ人脈も広がる。
それこそ人気店の看板娘ともなれば。
『おう!新商品出したらしいじゃねぇか』
《そうなのー、この貴族令嬢様のお陰なんだ、だから安くして?》
「私の使い方が上手いですねぇ、どうも、ジュブワ家のアニエスと申します。ウチのお店で安くしますから安くして下さい」
『あははは、ジュブワん家の子か、そうかそうか、こんなに大きくなって』
《オジサン知ってるの?》
『いや知らん、知らんがジュブワ家は知ってるぞ。子供と一緒に絶対に行くな、泣き付かれて財布から金が無くなるぞ、ってな』
「お孫さんもですよ、強請られたらあっと言う間にウチの打ち上げが伸びてしまいますからね」
『全く、庶民の敵め』
「コチラ割引券です、期限が有るのでお早めにお使い下さいね」
『おう、オマケしてやる』
《やったね》
「ですね」
ウチでは異国のランプや、ベネチアガラスで出来た安価な装飾品も売っているんです。
キラキラって子供も大人も魅了しますからね、ウチの1番人気なんですよ。
《アニエスの店に行ってみたいんだけど?》
「私の店と言う程のモノでも無いんですが、来た事無いんですか?」
《だって高そうなんだもん》
「前すらも通らない?」
《だって見たら欲しくなるじゃん》
「えー、ディスプレイに超拘ってるんですけど?」
《だから、絶対に買っちゃうって皆が言ってるから逆に怖い》
「何か思ってた方向性と違う、働く意欲向上も願ってるんですけどね?」
《私のお財布で買える?》
「商品入れ替え時にはかなり有利だとは思うんですが、特別にセールの日を教えますから見に行きましょう?」
《まぁ、それなら》
基本的には安売りは滅多にしないんです、デザインが流行遅れとなったら服飾店等に卸して再加工して売って頂くので。
ですけど買って頂く機会を設けなければいけませんし、既にパクられてしまったデザインの品等を敢えて安く棚卸しセールと称して売る時が有るんですが。
大々的に予告するとその時にしか売れなくなってしまうので、まぁ、不定期の告知無しでやらせて頂いてるんですが。
常連さんになると予測されてしまうんですけど、それはそれでアリなので。
「はい、では先ずディスプレイの評価からお願いします」
《んー》
『お、アニエス嬢とマリアンヌじゃん、何よデート?』
「呼んでよー、今日暇で暇でさ、何してんの?」
「まぁ、デート、ですかね?」
『自分の店にデートとかやるじゃん』
「それなー、って言うか何真剣に見てるのよ」
《秘密》
「見た事も無いそうなので、先ずはディスプレイの評価をお願いしてるんです」
「最高だよね、定期的に変わるから必ず通るもん、稼いでやるって」
『そうそう、貴族に流行ってるのも置いてるか、だから頑張ろうかなって思ってたけど。無理、買うだけにしとくわ』
《もー、言いたい事を全部奪わないでよー》
「ふふふ、ありがとうございます」
《でもさ、こう言うの壊れたら修理が高そうじゃん》
『相当ぶっ壊れないければ安く直してくれるよ?』
「しかも綺麗にしてくれるから長く使えるし、手入れの仕方も教えてくれるし」
「専門の業者を雇っていますから」
修理等は、一括で特定のお店に任せてるんですよね。
最初は元従業員の方々の休憩所だったんですが、そこは元従業員。
じゃあ、暇だからと、服飾店に卸す部品の分解。
手入れの仕方、修理。
気が付いたらお店と化していて、じゃあ、修理屋にするかと。
ジュブワ家の看板だけで、こうしたディスプレイも無い店構えなんですが。
良い立地で帰り道にお菓子だパンだと買って帰ったり、ついでにカフェに行ったり、と。
カサノヴァ家の方々に褒めて頂いたんですよね、周囲にも利益を齎して偉いって。
元は休憩場所ですから、色んな美味しい店が集まる場所に作っただけだそうなんですけど。
凄い嬉しそうでしたね、その時の両親、まさに鼻が高いって感じで。
そう乗せて頂いたお陰で、男爵位まで来れたんですけど。
《コレ、欲しい》
「扶桑国の切子ですね」
『凄いよねぇ、絶対にどんなお酒も美味しくなりそう』
「洗うの超怖いんですけど」
「意外と丈夫なので普通に洗う分には壊れませんけど、やっぱり熱に弱いので熱湯を入れると殆ど割れますね。でもレモネードやぶどうジュースを入れるといつもより美味しく飲めますよ、寝る前に頑張ったご褒美の一杯、口の中を少し甘くしたまま寝るんです。すすいだ水も飲んでから寝る」
《ふふふ、結構みみっちい事もするんだ》
「勿論ですよ、洗い物を残したく無いですし、虫歯だって怖いですし」
「確かに飴を舐めてから寝るよりマシかも」
『アレ寝落ちした時マジでヤバいからね、枕がもう、ガビガビになってめちゃんこ怒られたもの』
「しかも詰まったら危ないんだから絶対に止めなさいって、凄い怒られましたよ」
『やったんだ』
「ウケる」
《やっぱ元庶民は違うなぁ》
「気質は寧ろ商人ですから」
こうして品物を紹介するのも、買って良かったって喜ばれるのも、贈って良かったって喜ばれるのも。
全部、大好きなんですよね。
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