第2話

「山の中に白熊がいるなんて、おかしいだろ?およそ現実的じゃない。考えなくても分かるさ。それこそが悪夢というオチだ」とあなたは言うだろう。

つまらない返しで申し訳ないが「ならば、あなたが同じ目にあってみろ」と、反論させていただきたい。

あの圧倒的な強者を前に、その冷静な考えと判断力とやらをどうぞ私めに見せてください、と。


続きを話そう。

僕が何もできずに固まっている姿を見て、白熊(便宜上そう呼ぶことにする)はこっくりと首をかしげた。

「なんだ。抵抗もしないとは、この獲物は元気がないな」とでも言いたげだ。

数秒の間。そして、すっと右手を振り上げて、下ろす。

たったそれだけの動きで、フロントガラスに大きな蜘蛛の巣がかかる。あと少しでも衝撃が加われば、僕を守っていた最後の壁はきれいに崩れるだろう。

そして次に振り上げられる一撃は、僕の命を奪う。


「死とは突然訪れるもので、それはいつも隣にあるもの」

遥か昔から語られてきたことだ。

誰もが目を反らして生きてきて、そして頭の片隅にずっと飼っている事実。

ただ、それがこんなのんきな休日に、異質な死神によってもたらされるものだとは、この世の誰が予想できたことだろう。


僕が最後に見たのは走馬灯ではなく、高く振り上げられた大きな白い手であった。

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