第10話 売り込み

レヴィアン伯爵領。大陸随一の鉱山資源を持ち、鉄鋼と鍛冶により発展したこの領は、王国にとって最重要領土の一つであった。


「皆様、遠路遥々お越しいただきありがとうございます。レヴィアン伯爵家、ローザと申します」

「ローザ嬢、辞令はいい。我々を呼んだ目的を伺おう」

「はい。今回お呼びしたのはわが領で開発、生産中の武器の売り込みです。騎士団、王国軍双方に提供できるレベルのモノが仕上がりましたので紹介させていただきます」


もう4ヶ月も前になった話の続き。来る対同盟戦争に向けての備え。領内の鍛冶師や錬金術師、鉱山労働者をかき集め、領地事業とし量産までこぎつけた兵器。それを私は手に取り、見せる。


「こちらです」

「これは・・・銃か?しかし、少し違うようにも見えるが」

「銃で間違いはありませんよ」


銃・・・正確には、銃身にライフリングを掘り、火薬と弾丸を一体化させた弾薬アモを、銃の後ろから装填する、10発マガジン型後装式ライフル銃である。

この世界にあるのが弾薬分離、前装式滑腔銃・・・いわゆる地球では最初期の銃に当たる火縄銃だと考えると、300年以上のタイムスキップになる。


「まさか、あんな使い物にならないものをわざわざ生産して売りつけるつもりか?」


軍務卿ダルランの言葉に間違いはない。魔法があるこの世界では、遠距離武器としての銃は、射程も、射速も、威力も、全てにおいて魔法の下位互換だ。


火縄銃マッチロックガンであれば、その反応に間違いはありませんね」

「どういうことだ?」

「そのままの意味です。今回披露するライフル銃も、これまで市場に数少なく出回った火縄銃も、火薬を使い金属の弾を打ち出すことでは一致しています。しかし、それ以外の性能は・・・」


持っている銃、M1ガーランドライフルをベースに作ったそれにマガジンを挿し込み、素早くレバーを引いて弾丸を薬室に押し込み、構える。照準器が捉えるのは50m先に横一列に並べられた5つの鎧。魔法強化も施した代物で剣の振り下ろしくらいだと弾き返せる強度に仕上げた特別モノ。それをめがけて、引き金を引く。


ダンッ・・・ダンッ・・・ダンッ・・・ダンッ・・・ダンッ


重い爆発音が5回、連続で響く。白煙を吐き出す銃口を下げ、的になった鎧を確認する。

・・・きれいに一つづつ穴が空いていた。


「ふぅ・・・この通り、このライフル銃は連射力も、威力も、射程も、全てにおいて桁が違います。使い物にならないもの・・・なんてことは言えないと思いますよ」

「「「・・・」」」

「まあ、これでも物足りないなら・・・」


カチッ、パァン!


「威力と射程は劣るものの射速と取り回しの良さが取り柄、近距離では無類の強さを誇る拳銃や」


ガチャガチャ、ダダダダダダ!!


「重く取り回しの悪い代わり圧倒的な射速と弾数を持つ、広範囲の制圧を目的とした機関銃」


ガチャン・・・バンッ!


「射速を犠牲に射程と威力を大きく伸ばし、遠距離から相手を仕留めることのできる狙撃銃など、種類も様々ありますよ」

「な、なるほど・・・」


国王たちは目を丸くして開いた口が塞がらない様子だった。世界的に見て、あとは衰弱していくだけと思われていた銃がいきなりメガ進化して現れたのだから当たり前といえば当たり前である。


 数分、沈黙が流れた後、言葉を発したのは騎士団長のベルファストだった。


「ローザ嬢、筒の部分を切り詰めたり、音を小さくしたりなどは出来るのか?」


この国の騎士団、軍部は同じ軍隊ではあるが、特徴が違った。主に騎兵を運用し、大多数を貴族が占める騎士団と、主に歩兵を運用し、ほぼ平民で構成される騎士団とでは銃を使うとしても求める性能が違うのだ。


「馬上で扱うなら小型で取り回しがよく、発砲しても馬が爆音で暴れないようにしたい。もちろん、そんな必要性に合わせた銃も用意しておりますよ」

「ほう?」


並べられた大量の銃の中から、一つを取る。


「これは?」

「最初に披露した銃の騎兵銃タイプです。ある程度まで銃身を切り詰め、消音器を銃身内に内蔵したものになります。威力と射程、付属品などの拡張性は僅かに劣りますが、消音性に関しては騎士団の求めるレベルになっておりますよ」

「ふむ・・・よければ触ってみてもよろしいだろうか?」

「もちろんです。ただし、人には向けないようにお願いします」

「なら私もいいだろうか。ケン銃というものとソゲキ銃を試させてもらう」

「はい。どうぞ」


そうしてベルファスト騎士団長、ダルラン軍務卿の二人は商品をあらかた触り、試し打ちをしていた。


「ローザ嬢はかなり易易と使っていたが、慣れるには少し訓練する必要があるな。・・・しかし、これはなかなかに有用だ。騎士団の標準装備にも出来るだろう。騎士団はこの消音銃と拳銃、拳銃用の消音器を人数分揃えたい。貴殿はどうだ?」

「軍部としては標準的なライフル銃と拳銃がほしいところだ。狙撃銃と機関銃もいくつかほしい。ローザ嬢、いくつ売れる?」


二人は買う気満々といったご様子。シュペー宰相、フィレル国王も買うことには賛成なようで口を挟む様子はなかった。


「ライフル銃、消音銃、即時に100丁づつ、拳銃は300丁、狙撃銃は20丁、機関銃は5丁ですね。今後に関してはライフル銃、消音銃、拳銃は月間50丁、狙撃銃は12丁なら領内生産でも安定供給できるでしょう。他領での特許生産を許可していただけるならさらに大量に仕入れれると思います。機関銃は・・・事情により供給は難しいですが・・・」

「ふむ。その事情とは?」

「機関銃を搭載した、対航空戦力用兵器の生産があるためです」



―――――

この時の生産は

セミオートライフル(ライフル銃)

ボルトアクションライフル(狙撃銃)

リボルバー(拳銃)

セミオートカービンライフル(消音銃)

ベルト式ライトマシンガン(機関銃)

で、全て7.62mmの統一口径を使用しています。カービンと拳銃のみ、薬莢を縮小した亜音速弾を使用しています。

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