第9話 Si vis pacem, para bellum
「総合試験・・・?」
「はい。一応、ローザ様にも受けてもらう必要がありますので」
「はあ・・・」
ユーリと同棲し始めて5日が経った頃、王都に構える伯爵家別邸に来客があった。
「その連絡のために、あなたが?」
「一応、ローザ様は伯爵家の主になりますから」
貴族子息令嬢が通う学園、王立セントリア学園の総轄。学園長ブルーノ・リンデンブルグが私の前に座っていた。
本来、私の年齢になると学園へ通うのは義務となるのだが、私は特例として免除されていた。・・・が、流石に試験は免除されなかったようだ。
「分かりました。当日はユーリと共に登校します」
「はい。ローザ様は学力試験が免除されますので、実技試験のみとなります。・・・それと・・・」
ブルーノは少し含みのある空白を置き、言った。
「気をつけてくださいね」
妙な引っ掛かり。それは立場的に遮られたような、そんな引っ掛かりを。
―――――
「なるほど。学園長、今日居ないと思っていたら、エルのところだったんだ」
「うん。あと、エルはやめて。ローザか略称のロゼにして」
「はーい。でも、会って思ったけど、完全にローザに溶け込んでるよね。前世のだったら考えれないもの」
話が逸れた。が、すぐに話題は戻り、ユーリが真剣な表情になる。
「
「十中八九、浸透できなかった報復だろうけど・・・面倒」
「そこで何だけど、私にいい案があるよ。戦争っていうんだけど・・・」
―――――
この世界には3つの陣営が大きく分かれている。
武力を尊重するテレジア帝国主導の統一戦線、魔導技術を至高とするリヴァイン教皇国主導の中央同盟、そして経済的能力の高いフィレル王国主導の協商連合だ。
自国の領土を管理しきれず独立させた帝国が教訓となった戦線、経済的優位にあり、領土拡張をする必要のない連合と対照的に、同盟は信者獲得と経済的利益のために拡張政策を繰り返しているため、世界的な構図は同盟対世界が大まかになってきているのも事実であり、さらに教皇国が戦力増強の人的資源を欲し、勢力拡張をしようとしているのもまた事実であった。
「このままでは、戦争も間近か」
フィレル王国国王、アルベルト・フィレルが頭を悩ませているのも、隣接するリヴァイン教皇国の浸透政策の問題だった。
「レヴィアン伯爵家も危うく飲み込まれるところでした。災害に救われたなんて言いたくはありませんが、ローザ嬢単身では、流石にきついものがあったでしょうから」
宰相グラン・シュペーの話で、会議室の空気は更に重くなる。
「しかし、戦争になったところで勝てる見込みがありません」
「あまり言いたくないが、ベルファスト卿の意見に同意だ。地上戦でも勝ち目が薄い上に・・・航空戦力も相手となると・・・」
騎士団長アイザック・ベルファスト、軍務卿マイケル・ダルランの口にする航空戦力。いわゆる
「皆様、時間です」
王付きの執事の言葉にその場にいた全員が重い腰を上げる。
「はあ、こんな時に何なのだ」
「子供の考えることは分かりませんな」
レヴィアン伯爵家現当主、ローザから突然要請が来た。「汝、平和を愛さば戦争に備えよ」と書かれた手紙に追記で「領にいらしてください」とだけ書かれていたのだ。
「全く、わけがわからん」
軍務卿の言葉に全員が同じことを思っていた。
―――――
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。この度は無理な要請を通してしまい誠に申し訳ありません」
「・・・とりあえず、そなたがレヴィアン伯爵の代理なのは分かった。ところでユーリ嬢、肝心のレヴィアン伯爵はどこにおられる?」
「今から移動する場所にございます。皆様にご覧いただくものの、最終調整を行っておりますゆえ、こちらには代理のわたくしが参りました次第です」
「なるほど。では、早速移動しよう。こちらにも時間がないのだ」
「はい。こちらにございます」
この時、彼らは思いもしなかった。彼女らが何を企み、それに自分たちが嵌ってしまうかを。
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