第7話 再会

「本日午後、ユーリ・ヴァレンティ侯爵令嬢が訪問されます」


そんなことを言われたのは今日の早朝。朝風呂の準備をしていたときにマナから告げられた。そして現在、私はドレスに着替え、ヴァレンティ侯爵令嬢に挨拶をしていた。


「長旅の移動お疲れ様です。ユーリ・ヴァレンティ様」

「そういうの良いわよ。私と貴方の仲でしょ? エルベルト」

「・・・スーッ」


――――――

「・・・で、何の用? 

「もー、つれないなー。久しぶりの再会じゃない?」


ユーリ・ヴァレンティ。ヴァレンティ侯爵家の次女。噂ではその美貌で数々の男を誑してる悪女。金遣いが粗く、魅入ってしまったが最後、骨の髄までしゃぶられる。いい話の無い彼女だが、私・・・正確にはエルベルト・グラッガーとしては、違う人物として見えていた。

西条悠莉。オックスフォードの時、知り合った友人。エルベルトにジャパニーズエンターテイメントを吹き込んだ張本人。AnimeとMANGAに合計100万近く突っ込むだけでなく、自分で創作するという暴挙まで出た猛者。生粋の温泉好きであり、血迷って中東の紛争地帯に入り込み、野戦温泉なんていう馬鹿げたものを銃弾が飛び交う戦場の中に作った正真正銘の狂人。本職は歌手であり、エルベルトの知る限り、7枚のアルバムがすべて世界各国でベストセラーになった実力派でありながら、22歳から25歳の3年間、他国に義勇軍として従軍した経験を持っており、航空機撃墜6を叩き出しているエースパイロットである。


「なんでこっちに来てまで一緒にいなきゃいけないんだよ!」

「私にもわからないよ! 北欧戦争終結のニュース見たあとすぐに死んだんだからさ」

「え? 北欧戦争終結したの? あの泥沼が?」

「ちなみにエルベルトが撃墜されて2週間経ってないよ。エルベルトの仇って言いながら北欧連合が攻勢かけて、それが成功してそのまま敵さん降伏したから」

「へ、へぇ・・・」

「で、そのニュースに舞い上がって夜の街に出たら、そこで体力使い果たして死んじゃったって感じ」

「お前また男遊びかよ・・・」


悠莉は超がつくほどの遊び人であった。男癖が悪く、夜のロンドンで独身の男を片っ端から食い漁り、『人魚姫』と風刺される事もあった。さらに、女も問答無用で食いに行くことがあり、未成年の少女にわいせつ行為(結構ガッツリ)をはたらいたために逮捕されたなんて話もある。ちなみにエルベルトも何回か食われており、一時期本気で付き合い方を変えようかと悩んでいた・・・が、恋人ももれなく食われ、悠莉との行為を望むようになってしまったため、付き合いは維持以外の選択肢を完全に潰されてしまった。

・・・もしかするとユーリ・ヴァレンティの黒い噂は生来の癖なのかもしれない。


「あ! 今絶対変なこと考えたでしょ!」

「逆にどう考えたら、お前の悪評否定できるんだよ!」

「あー・・・無理。・・・一応、この世界来てから男遊びは控えてるけど・・・」

「お前に控えるって選択肢があったのか・・・」

「ほんっとに失礼だよね・・・一応私のほうが爵位上なんだけど?」

「なに? 家にGBU-24でもぶち込まれたい?」

「あなたそれ実家にぶち込んでなかった?」


私の言葉が止まった。ユーリはとっさに口を覆っていたが、私は既に警戒態勢になっていた。・・・ユーリも分かっているが、私は元とは言え軍人だ。自衛のためには、元々の親友でさえも簡単に殺す。どれだけ心のなかで抵抗しようとも、最終的に殺すという選択肢を持つのだ。


「・・・誰にも言うつもりはないよ。状況から考えて、あなたがやった可能性が高いのは分かっていた。来る途中に荒れ地を見たけど、あなたがいつも積んでなかったはずのペイブウェイが積まれたグリペンがいたから、確信を持ったの」

「なるほどね・・・」


ユーリの口の硬さは分かっている。だからこそ、私の警戒態勢は解けていた。


「分かった・・・ユーリのことはよく分かってるつもりだから、信用する」

「分かってくれて何より」

「じゃ、同棲しようか」

「ブフッ・・・はぁ!?」

「私とあなたは一蓮托生でしょ? あなたの黒い噂のせいで私まで悪評立つのは嫌。だから徹底的にあなたを調教する。私が魔女だとバレないために、あなたが危機にさらされないように」


ローザとして出たこの言葉は、いわば独占宣言にも等しい。恐らくだが、今までで一番ゲスな顔をしていたと思う。若干青ざめた顔のユーリだが、彼女は分かっているはずだ。この状況が詰みだと。


「・・・今日は帰ることにするかn」

「マナ、取り押さえて」

「かしこまりました」

「セバス、ヴァレンティ侯爵に手紙送っといて。娘さんを私にくださいとかでいいから」

「承りました」

「なっ!? ねえ! 使用人との結束強すぎでしょ!」

「そうしないとやってられない。それで、どうするの?」


私の問いに、汗を滲ませるユーリ。やがて諦めたようにため息をつき、言葉を出した。


「分かったよ。父上には私からも手紙出すから」

「よろしい。それじゃ、覚悟して」

「うっ・・・まあ、私の性格の問題か・・・」




――――

ユーリ・ヴァレンティ、西条悠莉

以外に名前が出るの早かったわね。ちなみに解説のときに使ったこの口調はユーリとしての口調よ。

私の経歴は・・・大体本文の通りね。オックスフォードを卒業して、対イスラエル軍事政権相手の戦争に空軍義勇兵として参加、片手間で戦地に銭湯作ってみたりした後、日本に帰国して歌手デビュー。・・・改めてみると狂人ね・・・。


ちなみに私は作者の女友達がモデルなのだけれど、その人は歌も上手いと言うほどではないし、色遊びするような人でもない。狂ってはいるけど私ほど飛んでいるわけではないらしいわ。

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